三十六人集(西本願寺本)
躬恒集 装飾料紙『金銀切箔散し』(清書用臨書用紙)        戻る 『三十六人集』 粘葉本 一覧へ

三十六人集 装飾料紙 『金銀切箔散し』 (躬恒集) 拡大    躬恒集 装飾料紙 『金銀切箔散し』 書拡大へ
切継料紙の書手本
拡大へ


使用字母へ
敏行集・装飾料紙(叢雲ぼかし・金銀切箔散し) 
見開き一葉の隈ぼかしに金銀の大切箔と大量のノゲを散らした装飾料紙です。
全体に金銀の花鳥折枝と青草(緑色の葉に緑茶色の穂)が描かれております。

 
 
三十六人集 装飾料紙 『金銀切箔散し』 (躬恒集) 拡大 
 躬恒集・装飾料紙(金銀切箔散し)中央上側「内山」部分の拡大です。
写真三行目「わだなみの」の「な」の横に「つう」の訂正文字
「わだ」は海。「わだつうみ」も海のこと。「わだつみ」なら海または海神。
   
三十六人集 装飾料紙 『金銀切箔散し』 (躬恒集) 花鳥折枝部分拡大
 躬恒集・装飾料紙(金銀切箔散し)右下側「冬の日」部分の拡大です。
写真二行目「ありけむ」の「けむ」の右横に「てふ」の文字。
「山ぞありけむ」でも意味は通じる。では何故「てふ」を付け加えたのか、「て」は柔らかく強調して念を押す助詞、とすると多少の嫌味を込めて、「山でも在るんでしょうかね」としたかったのか。或は普通通り。


三十六人集 装飾料紙 『金銀切箔散し』 (躬恒集) 拡大 書
 躬恒集・装飾料紙(叢雲ぼかし・金銀切箔散し)書手本 縦6寸7分、横1尺5分5厘 第四紙

歌番号は躬恒集での通し番号                   青色文字は使用字母
31
 ゆくきみか みちもたひらの みやこには
               
てふ
 まだきかへるの やまぞありけむ

    ふゆのひ、ひとにおくる
32
 もみぢはや たもとなるらむ かみなつき、しぐるる
 ごとに いろのまさるは

    ひらのやま
33
 かくてのみ わがおもふ
 ひらの やまさらは、みはいたづらに なりぬべらなり

    うちやま
34
 わだつうみの なみうちやまは
 はまにいでて、ひろひおきらむ こひわすれかひ

    ひえのやま
35
 なつならぬ くさとりすてて うへしたに、ひえの
 やますも おいにけるかな

    かみやかは
36
 すみのえの きしのまにまに むかしより、かみや
        

 かはらぬ まつやうへけむ

    みなせかは
37
 をちこちに わたりかねてぞ かへりつる
 みなせかはりて ふちになれれば


 
31
 由久支美可 身地毛堂飛良乃 美也己爾波
                    
天不
 満多起可部留乃 也万所安利計武

    婦由乃飛、比止爾於久留
32
 裳美知波也 堂母止那留良武 閑美那川支、之久留々
 古止爾 以呂乃満佐留盤

    比良乃也万
33
 加九天乃身 和可於毛婦
 飛良乃 也満左良盤、身盤以多川良爾 那利奴部良那利

    宇地也満
34  川宇
 和多々美乃 那三宇知也満盤
 盤万爾以天々、悲呂比於支良武 己比和寸礼可比

    比衣能也万
35
 那川那良奴 久佐止利寸天々 宇部之多爾、比衣能
 也万寸毛 於以爾計留加那

    加美也可盤
36
 数美乃盈乃 幾之乃満爾々々 武可之與利、加美也
          

 閑者良奴 万川也宇部計武
          

    身那世可者
37                       
 遠知己知爾 和多利可年天所 可部利川留
 身那世可者利天 婦知爾那礼々盤


「與」は「与」とすることも。
「爾」は「尓」とすることも。
「礼」は「禮」とすることも。

31
それでも往く君であるのか、路も平らで平穏な都の地には、まだその時期ではないのにと引き返すだけの山もあるというのに。(「けむ」を見消にして「てふ」としている。過去回想の推量「けむ」のままなら…と云うらしいのに。)

てふ;「といふ」の約音。…という。

32
紅葉を見ると早くも神無月が間近に迫っているのだなあ(と感じるよ)、時雨る毎に紅葉の色が鮮やかになって行くのでね。

ひらのやま
比良山;滋賀県の琵琶湖西岸の地にある比良山の一帯。「比良」は歌枕

33
このようにだけ私は思うのだが比良の山沙羅は(沙羅双樹の涅槃の入滅の如くに)、(恋焦がれた思いも告げずに)やはり空しく死んでしまうに違いない。(としみじみと思ってしまうよ。)

                                      
もぐさ
内山;外部村民の入会(一定地域内での特定の権利、木材・薪・艾などの採取権など)を拒否して、自村の者ばかりで村中入会する林野。

34
海は浪打ち、山は浜となってしまうような(山あり谷ありの私の物思いですが)、拾っておいたはずの(拾うと恋の想い・苦しさを忘れると云う)恋忘れ貝は、今どうなっているのやら。

ひえのやま
比叡山;琵琶湖の西、京都府と滋賀県との県境の山。京都市街北東の鬼門に当たり、王城鎮護の為の延暦寺がある。

35
夏ではないのに雑草を抜き捨てて(苦労して)植えた田圃に、稗を打ちのめすも大いに生えてきたものだなあ。

かみやがは
紙屋川;歌枕。京都市鷹峰の山中より、平野・北野を通って天神川となり桂川に合流する川。

36
住之江の岸の岸成りに従って昔から紙屋(院)は変わる事無くそこにある様に、松はそこに植えられていたことだろう。
「紙屋」は神が射るという不思議な矢である「神矢」に掛り、「松」は神がその木に天降ることを待つ意から神の縁語。

みなせがは
水無瀬川;歌枕。大阪府三島郡辺りを流れる川、島本町広瀬で淀川に合流。川の南側を水無瀬の里と称し、後鳥羽院の離宮もあった。又、瀬に水の無い川。伏流水で川底の表面に水の見えない川。

37
遠い所も近い所にも渡る事が出来ずに帰ってきましたよ、水の無いはずの瀬が打って変わって(水の深い)淵に代わってしまいましたので。


                                                         戻る 『三十六人集』 装飾料紙 一覧へ 
戻る 『三十六人集』 粘葉本 一覧へ


                                                                    ページトップ アイコン