『安宅切』（和漢朗詠集）巻子本第十一紙装飾料紙金銀泥下絵　

『安宅切』和漢朗詠集　　巻子本　第十一紙
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　巻子用一紙（８寸１分５厘×８寸８分５厘)　　
　鳥の子製　装飾料紙　純金銀泥下絵　金銀大小切箔ノゲ砂子　（暈し・雲紙その他）

和漢朗詠集の書写本で藤原行成筆と伝えられている安宅切の第十一紙になります。書写用の料紙としては西本願寺本三十六人集に並ぶほどの美しい装飾が施された料紙になります。実物の安宅切は一紙、横約八寸前後・縦約八寸八分五厘の大色紙大の料紙で元は巻子本です。隣同士の料紙にまたがって下絵が施されており、料紙を繋いだ状態で泥書が施されたものと推察できます。安宅切を集めて再現した巻子本になりますので一紙の大きさは最小幅三寸九分～最大幅八寸三分五厘までになります。料紙には金銀切箔ノゲが施されておりますが、本料紙では金銀切箔ノゲは施しておりません。（書き易さと価格面を優先した為でありその点ご了承ください。勿論中小切箔を施したタイプの物も御座います。）今回の写真は約三十年程前に製作された物で純金銀泥を使用している為、一部に銀焼け部分が御座いますがご了承下さい。臨書用紙はもちろん通常の清書用料紙としてもご利用いただけます。

写真をクリックすると別色が御覧に為れます。

巻子本『安宅切』です。使用されている装飾料紙は巻子用大色紙で、染紙や雲紙に隈ぼかし更に純金銀泥で州浜と菅千鳥などが描かれ、金銀大小切箔ノゲが散らされております。本清書用では切箔を除いて書き易さ、書の見易さを優先しております。勿論、金銀切箔ノゲを振ったタイプの物も御座います。

安宅切紙
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第十二紙（明灰色）	第十一紙（栗梅色）	第十紙・雲紙（水灰色）	第二紙（明灰色）	第一紙（ﾍﾞｰｼﾞｭ色）

安宅切第十一紙（栗梅色）

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本文	読み下し
711 　秋夜待レ月、纔望二出レ山之清光一。夏日　思レ蓮、初見二穿レ水之紅艶一。　催粧　菅 712 　算二取宮人才色兼一、粧樓未レ下詔来　添。 713 　雙鬢且理春雲軟、片黛纔生暁　月纖。 714 　羅袖不レ遑レ廻二火熨一、鳳釵還悔レ鎖二　香匳一。 715 　和風先導薫煙出、珍重紅房透二　翠簾一。	黄文字前紙にあり 711 秋の月を待つ、僅かに山を出づる清光を望む。夏の日蓮を思う、初めて水を穿つ紅艶を見る。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　催粧序　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　菅原道真紅艶；風情のある紅を挿した優美な美しさ。 712　　　　　　　　　　　かぞ　　　　　　しょうろう宮人の才色兼ねたるを算え取って、粧楼より　　　　　　　みことのりきた未だ下りざるに詔来り添う。（菅原道真）詔；天皇のお言葉。命令。詔は臨時の大事に使い、勅は平時の小事に使う。 713 そうびん雙鬢かつがつ理して春の雲軟らかなり、へんたいわず　　　な　　　　　　　ほそ片黛纔かに生って暁の月繊し。（菅原道真） 714　　　　　のし　　　　　　いとま羅袖は火の熨を廻らすに遑あらず、　　かんざし　　　　　　　　　とざ鳳の釵は還りて香の函を鎖すことを悔ゆ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　（菅原道真） 715 和風先づ導いて薫煙出づ、珍重たり紅房の翠簾に透けることを。　　　　　　　　　　　　　　　　　　（菅原道真）くんえん薫煙；練香を焚いて起こす良い香り。
711 秋の夜の澄み渡った月の光を待つ、（そして遂に）僅かに山を出た月の姿を望む。夏の日に蓮の事を考える、初めて水面から突き出した紅の差した優美な美しさを見る。 712 宮人の優れた才能と美しい要望とを兼ね備えている人を勘定していて、化粧処の高殿から未だに階下に降りてきてもいないのに（突然の）天皇のお言葉が掛り従うところですよ。 713 左右両方の髪の毛を不十分ながらともかくも整えて、何だか春の雲も軟らかに感じられることよ。片方の眉毛が僅かばかり生えてきて、まるで今夜の暁の月（三日月）の様に細い眉ですよ。 714 薄衣の袖は火熨斗でしわを伸ばすのにも暇が掛らない、鳳の髪差しは却って香の付いた櫛箱（化粧箱）を鎖してしまったことを後悔しているよ。 715 穏かな春の風が真っ先に薫物の良い香りを辺りに漂わせて来ているよ。有難いことであるよ、紅の差した房を緑の御簾を通して目に出来るとは。	蓮の花の情景ともとれるし、沐浴する女人の姿ともとれる。火熨斗；炭火を利用したアイロン。鳳；古来中国の想像上の瑞鳥。鳳凰の雄。
	安宅切　第十一紙左上側部分拡大
左上側部分拡大　　　　　　　　安宅切　第十一紙
	安宅切　第十一紙右下側部分拡大
右下側部分拡大　　　　　　　　安宅切　第十一紙

菅原道真；平安時代前期の貴族で学者。是善の子供。宇多天皇に仕えて信任を受け文章博士、蔵人頭、参議などを歴任する。寛平6年（894年）大使として遣唐使に任ぜられたが、その廃止を建議する。醍醐天皇の時右大臣となるも、延喜元年（901年）藤原時平の謀により、大宰権帥として左遷されて大宰府に流されることとなり、この地で骨を埋める。書をよく好み、三聖の一人として知られるようになる。「類聚国史」を編纂し、「三代実録」の撰にも参与する。詩文は「菅家文草」「菅家後集」に所収される。御霊は北野天満宮に祭られており、後に学問の神として尊崇されることとなる。（生年８４５～没年９０３）

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711 　秋夜待レ月、纔望二出レ山之清光一。夏日　思レ蓮、初見二穿レ水之紅艶一。　催粧　菅 712 　算二取宮人才色兼一、粧樓未レ下詔来　添。 713 　雙鬢且理春雲軟、片黛纔生暁　月纖。 714 　羅袖不レ遑レ廻二火熨一、鳳釵還悔レ鎖二　香匳一。 715 　和風先導薫煙出、珍重紅房透二　翠簾一。	黄文字前紙にあり 711 秋の月を待つ、僅かに山を出づる清光を望む。夏の日蓮を思う、初めて水を穿つ紅艶を見る。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　催粧序　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　菅原道真紅艶；風情のある紅を挿した優美な美しさ。 712　　　　　　　　　　　かぞ　　　　　　しょうろう宮人の才色兼ねたるを算え取って、粧楼より　　　　　　　みことのりきた未だ下りざるに詔来り添う。（菅原道真）詔；天皇のお言葉。命令。詔は臨時の大事に使い、勅は平時の小事に使う。 713 そうびん雙鬢かつがつ理して春の雲軟らかなり、へんたいわず　　　な　　　　　　　ほそ片黛纔かに生って暁の月繊し。（菅原道真） 714　　　　　のし　　　　　　いとま羅袖は火の熨を廻らすに遑あらず、　　かんざし　　　　　　　　　とざ鳳の釵は還りて香の函を鎖すことを悔ゆ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　（菅原道真） 715 和風先づ導いて薫煙出づ、珍重たり紅房の翠簾に透けることを。　　　　　　　　　　　　　　　　　　（菅原道真）くんえん薫煙；練香を焚いて起こす良い香り。
711 秋の夜の澄み渡った月の光を待つ、（そして遂に）僅かに山を出た月の姿を望む。夏の日に蓮の事を考える、初めて水面から突き出した紅の差した優美な美しさを見る。 712 宮人の優れた才能と美しい要望とを兼ね備えている人を勘定していて、化粧処の高殿から未だに階下に降りてきてもいないのに（突然の）天皇のお言葉が掛り従うところですよ。 713 左右両方の髪の毛を不十分ながらともかくも整えて、何だか春の雲も軟らかに感じられることよ。片方の眉毛が僅かばかり生えてきて、まるで今夜の暁の月（三日月）の様に細い眉ですよ。 714 薄衣の袖は火熨斗でしわを伸ばすのにも暇が掛らない、鳳の髪差しは却って香の付いた櫛箱（化粧箱）を鎖してしまったことを後悔しているよ。 715 穏かな春の風が真っ先に薫物の良い香りを辺りに漂わせて来ているよ。有難いことであるよ、紅の差した房を緑の御簾を通して目に出来るとは。	蓮の花の情景ともとれるし、沐浴する女人の姿ともとれる。火熨斗；炭火を利用したアイロン。鳳；古来中国の想像上の瑞鳥。鳳凰の雄。
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