針切 重之の子の僧の集7             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集7 (素色)15.1cmx22.6cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ



 山ざとに たびねのかずは つもるとも、花のあたりは

 いそがざらなむ


   あるところにてかへるかりといふだいを

   たまはりて

 わがさとに いまなむゆくと おとづれて、あまのはら

 より かりかへるなり


   山ざとのいへゐのあたりにきぎすのなくを

   ききはべりて

 かたをかの ははそのはらの やどちかみ、きぎすのこゑも

 みみなれにけり





 山里に 旅寝の数は 積もるとも、花の辺りは

 急がざらなむ


   或る所に帰る雁と謂う題を

   賜りて

 我が里に 今なむ行くと 訪れて、天の原

 より 雁帰るなり


   山里の家居の辺りに雉子の鳴くを

   聞き侍りて

 片岡の 柞の原の 宿近み、雉子の声も

 耳慣れにけり



 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~残り半葉分の内の詞書の一部
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       
解説

 山左止仁 多悲年乃可春波 川毛留止无、花乃安多利波

 以曾可左良奈無  

    安流止己呂仁天可部留可利止以不多以遠

    多万八利天

 和可左止爾 以万奈無由久止 於止川礼天、安万乃波良 

 與利 可里可部流那利

    山左止乃以部為乃安多利仁支々春乃奈久遠

    支々波部利天

 可多乎可乃 波々所乃波良乃 也止知可美、支々春乃己衛毛

 美々那礼爾希利



「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも

解説

 
山里に旅寝の数は積もるとも、花の辺りは急がざらなむ。
この山里で外出先での宿泊が度重なったとしても、花の賀の頃には急がなければならないでしょう。


旅寝;旅先で寝ること。又自宅以外の外出先で寝ること。

   或る所にて「帰る雁」と謂うお題を受け賜わって

 
我が里に今なむ行くと訪れて、天の原より 雁帰るなり。
自分の生まれ育った地に今から必ず行くと手がかりをたどって、広々とした大空を雁の群れは帰って行くそうだ。



   山里の家居の辺りで雉の鳴くを聞いておりまし時に

 
片岡の柞の原の宿近み、雉子の声も耳慣れにけり。
片岡の楢や橡の生えている原野が我が家の近くなので、雉の鳴声にももう聞き慣れてしまいましたよ。

                                                            
かたおかにますじんじゃ
片岡;歌枕。奈良県北葛城郡王寺町辺り。延喜式神名帳に記載されている式内社で官幣社としての片岡坐神社がある。

ははそ            なら  くぬぎ
柞;落葉広葉樹である楢や橡の総称。
きぎ す
雉子;雉の古称。





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