針切 重之の子の僧の集15             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集15 (素色)15.1cmx22.5cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ


   かひのこゑをききはべりて

 山風に ふかるるかひの こゑなくば、ねざめのとき

 を たれかつげまし


   くまのまうでのみちにやどりて、ゆきにふりうづ
   もれはべりて

 かひがねに つもれるゆきは みしがとも、おのがうへとは

 おもはざりしを


   ゆきのうちに冬つきぬといふこころを

 ゆきのうちに おほくの冬を すぐしつつ、わがみもいつ

 ○ ○しのしら山



   貝の声を聞き侍りて

 山風に 吹かるる貝の 声無くば、寝覚めの時

 を 誰か告げまし


   熊野詣の道に宿りて、雪に降り埋
   もれ侍りて

 甲斐が嶺に 積もれる雪は 見しがとも、己が上

 とは 思はざりしを


   雪の内に冬尽きぬと云ふ心を

 雪の内に 多くの冬を 過しつつ、我身も何時

 ○ ○しの白山


 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
○は判読不明文字
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説

     可悲乃己衛乎支々者部利天

 山風爾 吹可留々可悲乃 己衛奈久八、年左女乃止支

 遠 多禮可川希末之  


     久万乃万宇天乃美知仁也止利天、由支爾不利宇川
     毛禮者部利天

 可悲可年爾 川毛禮留由支波 美志可止毛、於乃可宇部止盤

 於毛八左利之遠


     由支乃宇知仁冬川支奴止以不古々路遠


 由支乃宇知仁 於保久乃冬遠 寸九之川々、和可美毛以川

 □ □之乃志良山




「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「个」は「介」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも  □は判読不明文字又は文字抜け

解説
               
ほ ら が ひ
     (時を告げる)貝(法螺貝)の声を聞き侍りて


 
山風に吹かるる貝の声無くば、寝覚めの時を誰か告げまし
山風に乗って吹き聞こえてくるほら貝の(時を告げる)音が無かったならば、一体だれが目覚ましの時間を教えてくれるのでしょうか!。




    熊野詣の途中で宿泊していると、雪に降られて足止めを食らってしまい。

 甲斐が嶺に積もれる雪は見しがとも、己が上とは思はざりしを
甲斐の山々の嶺に降り積もった雪は観てみたいとは思っていましたが、、(まさか)我が身の頭上とは思ってもおりませんでしたよ!。

しが;過去の助動詞「き」の連体形「し」に終助詞「か」の結合したものの濁音化したもの。動詞の連体形に付いて自分がそうしたいという願望を表す。…したい。

    雪の内に冬尽きぬと云ふ心を

 雪の内に多くの冬を過しつつ、我身も何時か憂しの白山
この雪の(降る地域の)中で数多くの冬を暮らし続けて参りましたが、我が身も何時の間にか思うに任せなく白髪の頭となって終うのでしょうね。

○○;不明文字に「か・う」を当ててみたもの。詞書及び歌の前後から意味の通る物としたもの。他の文字であったかもしれない。

○○;不明文字に「れ・こ」を当ててみると。詞書及び歌の前後から意味の通る物として。

 雪の内に多くの冬を過しつつ、我身も何れ越の白山
この雪の(降る地域の)中で数多くの冬を暮らし続けて参りましたが、我が身も何時かは越の国の白山の様に白髪の頭となって終うのでしょうね。





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