針切 重之の子の僧の集16             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集16 (素色)15.1cmx22.5cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ


   ゐなかにはべるはらからをわかれて京○の
   ぼる、又のひいひつかはす


 かどでせし きのふなみだは つきにしを、けふさへそで

 の ぬれまさるかな


   わづらふいもうとをみてよしの山よ○いひつ○
   はす

 あくるまの いのちもしらぬ よのなかに、あひみしことや

 かぎりなる覧


   いまはかぎりなりなどいひはべりてかへし

 いのちをば さらにもいはじ かなしきは、これやかぎ○の

 わかれなる覧


   田舎に侍る同胞を別れて京
登る
   又の日言ひ遣はす


 門出せし 昨日涙は 尽きにしを、今日さへ袖

 の 濡れ勝さるかな


   患ふ妹を見て吉野山よ
言ひ
   はす

 明くる間の 命も知らぬ 世の中に、相見し事や

 限りなるらん


   今は限りなりなど言い侍りて返し

 命をば 更にも云はじ 悲しきは、此や限


 別れなるらん

 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~残り半葉分の内の詞書の一部
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説

     為奈可仁波部留波良可良乎和可禮天京□乃
             
以比
     本留、又乃悲川可八寸


 可止天世之 支乃不奈美多波 川支仁之遠、遣婦左部所天

 乃 奴禮万佐留可奈  


     和川良不以毛宇止乎美天與之乃山與□以比川□

     者春

 安九留万乃 以能知毛之良奴 與乃奈可仁、安比之己止也

 可支利奈流覧


     以万波可支利奈利那止以比波部利天可部之

 以乃知乎波 左良仁毛以盤之 加奈之支八、己禮也可支□乃

 和可禮奈留覧





「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「个」は「介」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも □は文字不明か所

解説

     田舎に居る同胞と別れて京の都へ旅立つ。別の日に言い遣わす、


 
門出せし昨日涙は尽きにしを、今日さへ袖の濡れ勝さるかな
門出をしてしまった昨日にはもう既に涙は尽きてしまったはずなのに、今日は如何してこんなにも袖の濡れ増さっていることなのでしょうか!。(涙は枯れ果ててしまったにも関わらずにとめどなく訪れる悲しみの心を詠った歌)



    患う妹を見て、吉野山より使いを遣わす

 明くる間の命も知らぬ世の中に、相見し事や限りなるらん
(夜が)明ける迄の間の命が有るかどうかも判らない世の中で、互いにお目に掛れることなんて限りある事なのでしょうね。(期待をしておかないことですよ、期待し過ぎていると余計悲しみが増しますから)


    もはやこれまでか(死に際)などとおっしゃる返し。

 命をば更にも云はじ悲しきは、此や限りの別れなるらん
(別れの辛さで)命こそは今更言うまでもなく(最大の)悲しみと云うのは、それこそ死に臨んだ時の別れであるのでしょう。(今生の別れの中で最も悲しいのは今わの際だと共感する詠嘆の歌)

をば;格助詞「を」の働きを強調して動作・作用の対象を強く示す。…だけは。…こそは。「を」に係助詞「は」の付いたものの濁音化。

なる覧;「なるらむ」の転。断定の助動詞「なり」の連体形に推量の助動詞「らむ」の付いたもの。…であるのだろう。…なのだろう。





このページの