針切 相模集6                 戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出して歌のみを書写、書き下ろしてゆくに従い行がやや右に流れる特徴が有る物が多い中こちらの項はほぼ真下に書き下ろされており、詞書は有りません。


素色(しろいろ)

『針切』 相模集6 (素色)約15.5cmx22.3cm
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ



 くだくけれど なほうせせぬは かぎりなく、も

 のおもふ人の みにこそありけれ


 ゆめさむる あかつきがたの とこのうらは、

 なみだのうみと なりにけるかな


 うばたまの よるはゆめにも なぐさめつ、

 ひるこそものは わびしかりけれ





 砕くけれど 尚失せせぬは 限りなく、も

 の思ふ人の 身にこそありけれ


 夢覚むる 暁方の 床の裏は、

 涙の海と なりにけるかな


 烏羽玉の 夜は夢にも 慰めつ、

 昼こそものは 詫びしかりけれ



 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記

 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。解説


 久多久□□止 奈本宇世々奴盤 可支利那久、毛 

 乃於毛婦人乃 美爾己曾安利希禮


 由女佐無留 阿可川支可堂乃 東己乃宇良盤、 

 那美堂乃宇美止 那梨爾个留可那


 宇波堂万乃 與留波由女仁毛 那久左女川、

 悲留己所毛乃者 和日之可□个礼



「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し □部分は不明文字。
「爾」は「尓」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「个」は「介」とすることも
  
 解説

 砕くけれど尚失せせぬは限りなく、もの思ふ人の身にこそありけれ
心を痛めてしまうけれどもそれでも尚、(あの人のことが)消えて無くなってしまわないのは、尽きることなく思い悩む人の、その人自身にあったのだけれども。


 夢覚むる暁方の床の裏は、涙の海となりにけるかな
夢が覚めた後の明け方の寝床の下では、流れ落ちる涙で海の様になってしまうのかな。(どうすることも出来ないのでしょうか)


 烏羽玉の夜は夢にも慰めつ、昼こそものは詫びしかりけれ
(現実の見えない暗い)夜は夢の中だけでも慰められる、ところが昼間となると物事のなんと無情な(苦しくて辛い)ことでしょうか。

烏羽玉の;枕詞。「よる」「ゆめ」「黒」「闇」などに掛る。「射干玉の」の転じたもの。射干玉はヒオウギアヤメの丸い種で黒色。その色から連想されるものに掛る。「うばたまの」の烏羽はカラスの羽の色からの古人の当て字。




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