針切 重之の子の僧の集3             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集3 (素色)15.5cmx22cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。



             かな                                使用時母へ


 こち風も けぬるくなれば わがやどの、むめのに

 ほひを をりをりぞみる


   うぐひすのこゑはきくやととひてはべる

   かえりごとに

 山ふかみ 人にしられぬ やどなれば、まだうぐ

 ひすの おとづれもせず


   ものおもふころあをやぎをみはべりて

 えだわかみ 風にかたよる あをやぎの、いともみだ

 れて ものをこそおもへ


 
こち風も けぬるくなれば 吾やどの、梅の匂

 いを 折々ぞみる


   うぐいすの声は聞くやと問いてはべる

   かえりごとに

 山ふかみ 人にしられぬ 宿なれば、まだ鶯

 の おとづれもせず


   もの想うころ青柳をみはべりて

 枝分かみ 風にかたよる 青柳の、糸もみだ

 れて ものをこそ想へ

 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記

 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説

 己知風毛 希奴留久那礼盤 和可也止乃、武免乃仁  

 本日乎 々利ヽ曾美流

   宇久悲須乃己衛八支九也止々日天者部留 

   可部利己止仁

 山不可美 人仁之良礼奴 也止奈礼盤、万堂宇久

 悲春乃 於止川礼毛世須

   毛乃於毛婦己呂安乎也支遠美波部利天

 衣多和可美 風爾可多與留 安乎也支乃、以止毛美堂

 礼天 毛乃遠己曾於毛部



「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
 

 こち風も気温くなれば吾やどの、梅の匂いを折々ぞみる                   
かぐわ
春になって東から吹いてくる風も暖かく感じる様になれば、我が家の梅の花の香りも段々と馨しくなってきますよ。

   
鶯の声はもう聴きましたかと問われまして、お返しに

 山深み人に知られぬ宿なれば、まだ鶯の訪れもせず
山が深くて人にも知られることの無い我が家ですから、未だ鶯が訪れて来ることもありはしませんよ。

   
物思いに耽っている頃に青く芽を吹いた柳を拝見しまして

 枝分かみ風にかたよる青柳の、糸もみだれてものをこそ想へ
枝を分けて風に偏る青柳の糸(芽吹いたばかりの枝垂れ柳の枝)も乱れて(まるで髪を振り乱したような様子で)貴方(青柳=私)も物事を案じなさいな。(風に吹かれて乱れている青柳を見て自分と重ねて貴方も物思いに耽りなさいよとけしかけている歌。)


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