針切 重之の子の僧の集4             戻る 針切 へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集4 (素色)15.0cmx223cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。



             かな                                使用時母へ


   
山のはにいづる月をながめはべりて

 山ざとに いりぬるつきも なになれや、われはうき

 よの そむかれぬかな


   屏風のゑにもかりぶねのいづるみなとに

   たづのむれゐたるになみのさわぐをながめ

                たる所

 けふはよし かりにもいでじ たまもぐさ、たづのは風

 に なみさわぐなり


    いさり火をみはべりて

 なみまより ほのかにみゆる いさり火に、こがれや

 すらむ あまのつりぶね


   山の端に出る月をながめはべりて

 山ざとに 入りぬる月も なになれや、われは浮

 世の そむかれぬかな


   屏風の絵にもかりぶねの出るみなとに

   田鶴の群れ居たるに波のさわぐをながめ

                 たる所

 今日はよし かりにも出じ たまもぐさ、田鶴の羽風

 に 波さわぐなり


    いさり火をみはべりて

 波間より ほのかにみゆる いさり火に、こがれや

 すらむ あまの釣り船

 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
前項~の残り半葉分
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説

   山乃波爾以川留月乎奈可女波部利天  

 山左止爾 以利奴留川支毛 那爾奈礼也、和礼波宇支

 與乃 所武可礼奴可奈 

   屏風乃衛爾毛可利婦年乃以川留美那止仁

   多川乃武礼為多留仁奈美乃左和久遠那可女

                       多留所

 希婦波與之 可利仁毛以天之 多万毛具左、多川乃八風

 仁 奈美左和久那利

    以左利火遠美波部利天

 奈美末與利 本乃可爾美由留 以左利火爾、己可礼也

 春良无 安万乃川利不年



「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
 

    
山の端に出る月を眺めておりました時に

 山郷に入りぬる月もなになれや、我は浮世のそむかれぬかな
山里には必要とされる月も(私にとっては)何になるでしょうか、私はこの世の中から背を向けられてしまったものなのだなあ。(山の端に出る月を眺めてみても、何だか風情を感じられなくなりまして山里に沈んでゆく月影を見ても気が塞ぐばかりで、とうとう世捨て人になってしまったのかなとしみじみと感じるのですよ。)


    
屏風の絵の中に藻刈舟の出る港に鶴の群れが居た所で波が湧き立っているのを眺めていたところで

 今日はよしかりにも出じ玉藻草、田鶴の羽風に波さわぐなり
今日は止めておこう、玉のように美しい藻を刈りにも出かけないでいよう、辺りが鶴の羽風でざわざわと波立っているようなので!。


    
漁火を拝見いたしまして

 波間よりほのかに見ゆる いさり火に、焦れやすらむ海人の釣り船
波の間からほんのりと幽かに見える漁火に、恋い慕って思い悩むでしょうかあの漁師の釣り船を見て…!(魯で漕がれて舟を進めているのでしょうかあの漁師の釣舟は!、が風景の通り)。

「焦がれ」は「漕がれ」との掛詞。


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