針切 相模集1             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出して歌のみを書写、書き下ろしてゆくに従い行がやや右に流れる特徴が有り、詞書は有りません。


素色(しろいろ)

『針切』 相模集1 (素色)15.6cmx22cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。



             かな                                使用時母へ


 さわ水に かわずもいたく すだくなり、いまや

 さく覧 ゐでの山吹


 かすみだに みやこにしばし たちどまれ、すぎ

 ゆくはるの かたみともせむ


    なつ

 山がつの しばのかきねを みわたせば、あな

 うの花の さける所や


 沢水に 蛙もいたく すだくなり、いまや

 咲くらん 井手の山吹


 霞だに 都にしばし 立ち止まれ、過ぎ

 ゆく春の 形見ともせむ


    なつ

 山賤の 柴の垣根を みわたせば、あな

 卯の花の 咲ける所や

 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記

 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説


 左和水爾 可者須毛以堂久 春多具奈利、以末也 

 佐久覧 為天乃山吹


 閑須美堂仁 美也己仁之盤之 多知登万礼、春支 

 由具者留乃 可多見止毛世无


    那川

 山可徒乃 之盤乃可支年乎 美和堂世盤、安奈

 宇乃花乃 左希留所也



「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
 
      かはづ いた すだ
 沢水に蛙も甚く集くなり、いまや咲くらん井手の山吹
谷川の水に蛙達も随分と多く集まって騒いでいるよ、今まさに咲こうとしているのでしょうね。土手の山吹の花も!

らん;「らむ」の音便。現在の状態を表す「あり」の要素と推量の助動詞「む」の結合したもの「あらむ」の約音。現在の事に関して確かかどうか、或は如何してかなどの疑念を込めて述べる語句。現在起っていると推量している意を表す。
…であるのだろう。…なのだろう。


 霞だに都にしばし立ち止まれ、過ぎゆく春の形見ともせむ
せめて霞だけでも都に暫くの間立ち止まるが好い、移り去って行く春の形見にでもしようと思うので。


    


 山賤の柴の垣根を見渡せば、あな卯の花の咲ける所や
樵や漁師の住む家の粗末な柴(丈の低い雑木)の垣根を見渡すと、あらまあ!ちょうど卯木の花が咲いていた処じゃないですか。(山里の貧疎な家の粗末な生垣でも、変わらず美しくに卯木の花が咲いていた場所ですよ。)との感動の歌。

山賤;漁師、きこりなど山中(山里)に住む賤しい身分の人(低い身分の人)。山しず。






このページの