本阿弥切・巻子本(古今和歌集巻第十一 恋歌一)第七紙拡大        戻る 本阿弥切 一覧へ

                                    写真をクリックすると拡大画面になります 昭和初期模本
白・夾竹桃具引剥奪唐紙料紙一葉分

                                                                      
ここまで→|

本阿弥切 部分 具引剥奪唐紙 白 『夾竹桃』 夾竹桃(きょうちくとう)  巻子本本阿弥切
 (古今和歌集巻第十一 恋歌一)

 第七紙

解説及び
使用字母



清書用 臨書用紙 本阿弥切 白 『夾竹桃』
清書用 白
 具剥奪唐紙『夾竹桃』(元は具引唐紙が経年使用により部分剥落したもので、具引剥奪唐紙ともいう。)

 
歌番号は元永本古今和歌集での通し番号(歌の一部が異なっている場合も同じ番号で記載)          
( )内の歌番号は小松茂美氏監修「本阿弥切古今集」(二玄社発行)の通し番号(類推含む)
             かな                       使用字母          解釈(現代語訳)
             528       (524)
              おもひやる さかゐ

はるかに ありやする、などかゆめぢに あふ
人のなき

             
529       (525)
               ゆめのうちに
 あひみることを たのみつつ,くらせるよひは
 ねむかたもなし


          
530            (526)
         こひしねと するわざならし む
 ばたまの、よるはすがらに ゆめにみえつつ


531                    (527)
 なみだがわ まくらながるる うきねには
 ゆめもさだかに みえずぞありける


532                    (528)
  こひすれば 我みぞかげと なりぬべ
 き、さりとて人に そはぬものゆえ


533                    (529)
  かがり火に あらぬおもひ なぞ
 もかく、なみだのかはに うきて○ゆらめ


534                    (530)
 かがり火の か○となるみの わび
 しきは、よをつくしたに もゆるなりけり


535                    (531)
 はやきせで みるめおひせば
 我そでの、なみだのかわに うゑましものを


536                    (532)
 おきへにも よらぬたまもの なみのうへに
 みだれてのみや こひわたりなむ

537                    (533)
 あしがもの さ
わぐいりえの しらなみ
 の、しらずや人を か
くこひむと

               528
                於毛日也流 左可為

者留可爾 安利也春留,奈止可由免知仁 安不
人農那支


                 529
                  遊免乃有遅仁
安日美留己止越 多乃美川々,九良世流與
日八
年武可太毛奈之


530
        己日之年止 春留和左奈良志 武
者多末乃 與留者寸可良仁 由免爾美衣川々


531
奈美多可八 万久良奈可流々 宇支年仁盤
遊免毛左多可爾 美衣寸曾安利計留


532
己日寸連八 我美曾可介止 那利奴部
幾、左利止天人爾 曾者奴毛乃由衛


533
加々利火爾 安良奴於毛日 那所
毛可久、奈美□乃可盤爾 宇幾天□由良免


534
可々利火乃 可□止那留美乃 和日
之幾八、與遠川久之多爾 毛由留那利个利


535
八也支世天 美留免於比世波
我曾天乃、奈美多乃可者爾 宇衛万之毛乃越


536
於幾部爾毛 與良奴多万毛乃 奈美乃宇部仁
美多礼天乃美也 己日和多利奈无

537
安之可毛乃 左□□□□□□ □□□□
乃、之良寸也人遠 可□□□武止□

                          ページトップ アイコン
 「爾」は「尓」とすることも。     
 「與」は「与」とすることも。
 「个」は「介」とすることも。
 「礼」は「禮」とすることも。


528
 思ひやる 境はるかに りやする、などか夢路に 逢ふ人のなき

元永古今和歌集・公任本古今集(524)
 思ひやる 境はるかに りやする、まどふ夢路に 逢ふ人のなき


532
 恋すれば 我身影と なりぬべき、さりとて人に 添はぬものゆえ

元永古今和歌集・公任本古今集(528)
 恋すれば 我身影と なりにけり、さりとて人に 添はぬものゆえ


533
 かがり火に あらぬおもひ なぞもかく、なみだのかはに うきて○ゆら

元永古今和歌集
 かがり火に あらぬものから なぞもかく、なみだのかはに うきてゆら

公任本古今集(529)
 かがり火に あらぬわがみを なぞもかく、なみだのかはに うきてゆら


534
 かがり火の か○となる身の わびしきは、よをつくしたに もゆるなりけり

元永古今和歌集・公任本古今集(530)
 かがり火の となる身の わびしきは、ながれてしたに もゆるなりけり


                                                                   戻る 本阿弥切 一覧へ
一行目は第六紙

 解説右側は

  使用字母

左側のひらがな中漢字の意味の通じるものは漢字で表記








過がら;
「ら」は状態を表わす助詞。
すっと通して、途切れることなく。







○部分は「も」の書き忘れか




○部分は「け」の書き忘れか









灰色文字は元永本からの引用


□は判読不能文字



公任本古今集;
伝藤原公任筆古今和歌集


水色文字は他本との異なる箇所






















 
                現代語訳                         解釈              解説及び使用字母


528
「思ひ遣る境遥かに有りやする、などか夢路に逢ふ人の無き」
思い遣ることの境界線は遥か先には有るのだろうか、どうして夢の道にも逢うべき人も居ないのであろうか。



529
「夢の中に相見る事を頼みつつ、暮らせる宵は寝む方も無し」
夢の中でお会いすることを願いながら、時間を過ごす夜は寝るべき場所も無いことよ。



530
「恋死ねとする技ならし射干玉の、夜はすがらに夢に見えつつ」
恋焦がれて死ねとする呪術であるようだ、夜通し夢にまで見え続けているので。



531
「涙川枕流るる浮き寝には、夢も定かに見えずぞ有りける」
涙の川で枕が流されてしまう程の浮き寝には、夢もハッキリとは見えないのであったのだ。


532
「恋すれば我身ぞ影と成りぬべき、さりとて人に添はぬ物ゆえ」
恋をすれば私の体はきっと影となってしまうに違いない、とはいっても人には付き添うことの出来ないものだから。



533
「篝火に有らぬ思ひなぞも斯く、涙の川に浮きて燃ゆらめ」
篝火だとの思いも無いのにどうしてこうも、涙の川に浮いているように燃えているのだろうか。



534
「篝火の影となる身の侘しきは、世を尽くしだに燃ゆるなりけり」
篝火の物影となる身の辛いことには、せめて一生を終えるまでにだけでも情熱を燃やしたいものであったなあ。



535
「速き瀬で見る目追いせば我が袖の、涙の川に植えましものを」
もし激しい急流で外見を追いかけていたならば私はこの袖を、涙の川に植え付けておきましたでしょうに。





536
「沖辺にも寄らぬ玉藻の波の上に、乱れてのみや恋渡りなむ」
沖の方にも寄らない海藻が波の上に漂う様に、心乱れてばかりで恋し続けるのだろうか





537
「葦鴨の騒ぐ入江の白波の、知らずや人を斯く恋むとは」
鴨の騒ぐ入江に立つ白波ではないが、知らないのだろうか、人をこんなに迄恋い慕っていようとは。



 

528
(胸中の憂いを晴らすことの出来る可不可の分かれ目が遥か先には存在するのでしょうか、どうして夢の中の道にさへも逢いたいと思う人も現れないのでしょうか。否いるはずなのですが)との意で詠んだ歌。

などか…無き;どうして…ないのか、否…なくはない。下に打消し語を伴って反語の意を表す。「か」は係助詞なので結びは連用形「無き」となる。

529
夢の中でお会いすることを願いながら、日の暮れるまで時間を過ごすこととなる夜は寝ようと思う場所も無いことよ。)との意。

530
(恋焦がれて死んでしまえば、とかいう呪術であるに違いないでしょう、一晩中貴方の姿が夢にまで現れ続けているのですから。)との意。

ならし;…であるらしい。…であるに違いない。断定して推量する意を表す。断定の助動詞「なり」の連体形「なる」に推定の助動詞「らし」の付いた「なるらし」の約。
むばたま
射干玉の;「ぬばたまの」に同じ「夜」に掛る枕詞。訳さない。

531
(枕が流されてしまう程の大量の涙が溢れ出てしまった涙の川でゆらゆらと揺られてしまう悲しみの浮き寝には、夢もハッキリとは見る事が出来なかったことよなあ。)との意。

532
(恋焦がれてしまえば私の体はきっと影法師の様に痩せ細った姿となってしまうに違いない、とはいっても私は影の様にあのお方に寄り添う事が出来るわけでも無いですのに。)との意。

ぬべき;…てしまうだろう。きっと…に違いない。事の成り行きの当然性・必然性を推量する。係助詞「ぞ」を受けて「ぬべし」の連体形。

533
私自身は篝火だとの思いも無いのに、どうしてこうも涙の川に浮いているかのように心が激しく燃えているのだろうか。)との意で、恋焦がれる思いに何故悲しみを抱いて寝ているのでしょうか。と詠んだ歌。

534
(篝火の陰の様に光の当たらない身の上の辛い事には、せめて一生を終えるうちに一夜だけでも情熱を燃やしたいものであったなあ。)との意。

世を尽くし;一生を終える。「世を尽くす」の連用形。
「世」は「夜」との掛詞。「夜を尽くし」=一晩中。夜通し。

535
(もし急流の様に流行る恋心で貴方のお姿を追いかけていたならば私は私の袖を、涙の川の畔に愛情に飢えたかのようにして溢れる涙を拭う為のこの袖を備え付けていたでしょうになあ。)との意。

せば…まし;もし…だったら…であろうに。事実に反する事や実現しそうにないことを仮に想定し、その上に立って推量し想像する意を表す。過去の助動詞「き」の未然形「せ」に接続助詞「ば」更に反実仮想の助動詞「まし」の付いたもの。

536
(沖の方にも遠ざかる事無く岸の方にも近寄らない美しい海藻が、波の上を乱れ漂う様に、私は只もう心乱れんばかりに恋い慕い続けてしまうのでしょうか。)との意。

のみや;…だけが…か。…ばかり…か。強調の意を表す副助詞「のみ」に後に続く語に対し疑問の意を表す助詞「や」。

なむ;…てしまうだろう。きっと…だろう。完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」に推量の助動詞「む」。未来の推量が動かす余地の無いものだという強めを「な」が受け持つ。

537
(鴨の騒ぐ入江に知らず知らずのうちに立っている白波じゃないけど、知らないのでしょうか、私が貴方のことをこんなにも恋い慕っている事なんて。)との意。

葦鴨;葦の生えている水辺にいる処から鴨の別称。
 


浮き寝;水鳥が水に浮かんだまま寝る事。また同じような状態で寝る事。ここから比喩的に流す涙に浮き上がる程の悲しみを抱いて寝る事。



536参考
「沖辺にも寄らぬ玉藻の波の上に、乱れて飲み屋恋渡りなむ」
(沖の方にも寄らず岸にも寄らない美しい海藻が波の上に漂うかの様に、私もとことん乱れてあちこち飲み屋を恋しくはしごするつもりだ。)との意とも取れる。第三句までは「乱れて」を導き出すための序詞。

537参考
「葦鴨の騒ぐ入江の白波の、知らずや人を斯く恋む永遠」 (「や」を詠嘆を表す助詞、「とは」を「永久」と見た場合。)

(鴨の騒ぐ入江に知らず知らずのうちに立っている白波じゃないけど、知らないのでしょうねえ、私が貴方のことをこれから先もずっとこんなにも恋い慕っていく事を。)との意とも取れる。第三句までは「知らず」を導き出すための序詞。




                                                                  ページトップ アイコン 



本阿弥切 部分 具引剥奪唐紙 白 『夾竹桃』  解説へ