278
「頃を経て相見ぬ時は白珠の、涙も春の色変はりけり」
暫くの時間が経ってお互いに逢わないでいた時には、白珠の様な涙も春めいた様子に変って見えたなあ。
返し
279
「人恋ふる涙は春ぞ温みける、絶えぬ思ひの沸かすなりけり」
あの人のことを懐かしく思う涙は春にこそ少し生暖かくなりましたよ、絶えることの無い思いが沸かすからなのでしょうね。
こくわを
280
「紅の涙至極は緑色の、袖も満ちても見えまし物を」
非常に嘆き悲しんで流す涙が最後に辿り着くところは、緑の袖も紅く染まって見えたらよかったのになあ。
281
「紅に涙映ると聞きしをば、など偽りと我思ひけむ」
紅色に涙が移り変わると聞いていたのを、どうして事実ではないなどと私は思っていたのだろう。
人が小さな子をこれを婿にせよと
言ってこちらへよこすので、
282
「片時の人を見し間によるものは、徒片思ひに成るぞ悲しき」
ちょっとの間だけ人の世話をしていたことによるものは、単に空しく片思いになってしまう事こそ悲しいものですよ。
七夕の絵に
283
「有りとだに互に見えぬ物ならば、忘るる程もあらまし物を」
せめて無事でいるとだけでも、お互いに見る事が出来ないものなので、忘れることの出来る程度の物であったらよかったのに。
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278
(随分と長い時間が経ってお互いに逢わないでいた時には、白珠の様な涙も春めいた様子に映って見えた様に感じましたよ。)との意。
279
(あの人を恋い慕うて流す涙は春にこそ微温みますね。というのも思い続けてきた熱い思いが涙を沸かすからなのでしょうね。)との意。
280
(血の涙を流すほど悲しい出来事がもたらすものは、緑の袖の御方も願いが叶ったとしても長くは続かない様にその袖も紅く染まって見える事であれば良かったのに)との意。
くれないのなみだ
紅の涙;血の涙。非常に嘆き悲しんで流す涙。また女性の流す涙とも。
みどりいろのそで うえのきぬ
緑色の袖;緑の袖、緑の衣に同じ。六位の物が着用した衣、緑の袍。又、六位の異称。
こくは;こくわ=サルナシの古名。キウイを極小にしたような緑色の果肉。
木鍬;全体を木で作った鍬。
281
(血の涙の嘆きに対して、そんな事あるはずがないと思っていたのをそのような事も在ったのだ)と返して詠んだ歌
282
(ちょっとの間だけ人の世話をしていたと云うだけの間柄なので、その様な期間だけでの恋心などあやふやなもので、単に空しく片思いに終わってしまう事の方が悲しいものですよ。)との意。
283
(せめて無事でいるとだけでも通知が有れば、お互いに見る事が出来ない間柄なので、忘れることの出来る程度の恋心であったらよかったのに。)と忘れることの出来ない苦悩を詠んだ歌。
かたみ
互に;お互いに
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