香紙切  (巻第十 雑 断簡)           戻る 香紙切 へ 
    丁子染紙(丁字色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は単色の香染で、長年の変化により褪色、或は脱色した物と思われます。香色とは、丁子の煮汁で薄く染めた色でほんのりと赤味の出たような色。ほんのりと丁子の香りのするような色のこと。写真は殆ど薄香色のようになっています。

丁字色
(ちょうじいろ)
香紙切 麗花集 巻第十 雑 (丁字色) 解説へ 12cmx20.8cm
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。

          かな
           使用時母          現代語訳へ




       河原院にすずみに人々まかり

       たりしに、松のいといたくおひ

       てはべりしかば

           みちのぶ

  ゆくすゑの しるし許に のこるべき、

  まつさへいたく おいにけるかな









        河原院爾寸々見爾人々万可利

        多利之爾、松乃以止以多久於比

        天者部利之可八

              見遅乃不

 遊久寸恵乃 之流之許爾 乃己流部支、

 万川左部以多久 於以爾計留可奈




 
          現代語訳
              解説           使用字母へ




      河原院に涼みに人々罷りたりしに、
      松のいと甚く生ひて侍りしかば

              道信

河原院に涼みに人々が出向いて行かれた時に、
松が随分と酷く生い茂っておりましたので、

                     道信

 『行く末の標許りに残るべき、松さへ甚く老いにけるかな』

余命として僅かばかりを残して置くべきですね、松の木でさへもあんなに酷く生い茂るものだったのだからなあ。




かわらのいん
            までのこうじ       みなもとのとおる
河原院;京都六条坊門南万里小路東にあった源融の屋敷
陸奥の松島塩釜の景色を模して作庭し、毎日海水を搬入し
乍ら塩を焼き煙を立たせたという。死後宇多法皇に贈り、
その没後は寺となった。

(人の栄華は限りある寿命として過不足の無い程度を残して置くべきですね、繁栄の象徴である松の木でさへもあんなにも荒れ果てた風貌になってしまうものだったのですねえ。)との意。

行く末;進み行くずっと先の方。前途。未来。

しるしばか

標許り;いささか。少しだけの。僅かばかり。
 

「生(老)いにける」は「生い茂っている」のであるが同時に
年老いた松=詠者自身を言っているのでもある。

けるかな;…だったのだなあ。過去の助動詞「けり」の連体形「ける」に終助詞「か」、終助詞「な」の付いたもので、今まで知らなかったことにハッと気づいて詠嘆の意を表す。

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松;冬でも緑を保つマツ科の常緑高木。古くから神の宿る木とされ、長寿・繁栄・慶事・節操を表すものとして尊ばれてきた。

ふじわらのみちのぶ
藤原道信;平安時代中期の貴族・歌人で、中古三十六歌仙の一人。藤原北家の氏族、太政大臣藤原為光の三男で、左近衛中将となる。従四位上。(藤原北家は氏族の中の最有力で、平安以降摂政・関白・太政大臣を数多く輩出し、明治維新の前まで朝廷の中枢を占めて来た貴族。)


白鶴美術館蔵