香紙切  (巻第十 雑 断簡)           戻る 香紙切 へ 
    丁子染紙(香色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は単色の香染で、長年の変化により褪色、或は脱色した物と思われます。香色とは、丁子の煮汁で薄く染めた色でほんのりと赤味の出たような色。ほんのりと丁子の香りのするような色のこと。写真は殆ど薄香色のようになっています。

香色
(こういろ)
香紙切 麗花集 巻第十 雑 (香色) 解説へ21.8cmx20cm
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。

          かな
         使用時母            現代語訳へ


      かものまつりのおまへにしはべりけ

      るかへさのひ、あおいろのひもの

      をちてはべりけるを、をむなぐ

      るまにつけさせはべりければ、か

      らぎぬのひもをときてつけ

      はべりければ、たれともしらで

      やみはべりにけり。又のとし

      さい院の垣下にまいりてはべ

      るに、このをむなみはべりて、いづ

      らつけしひもは、ととひはべ

      りければ


 からころも むすびしひもは さしな

 がら、たもとははやく くちにしものを





       加毛乃万川利乃於万部仁志者部利希

       留可部左乃比、安遠以盧乃比毛乃

       遠知天者部利計留遠、遠无奈久

       留万爾川計左世者部利个礼盤、加

       羅幾奴乃比毛遠止支天川計

       者部利个礼盤、太礼止无之良天

       也見者部利爾希利。又乃止之

       佐以院乃垣下爾万以利天者部

       留爾、己乃遠无那三者部利天、以川

       良徒希之比毛波、止々比者部

       利希禮波


 加良己盧毛 无寸日之比毛者 佐之奈

 可良、多毛止波々也九 々知爾之毛乃遠



 
            現代語訳
             解説            使用字母へ


      賀茂の祭の御前にし侍りける帰さ
      の日、青色の紐の落ちて侍りけるを、
      女車に付けさせ侍りければ、唐衣
      の紐を解きて付け侍りければ、誰
      とも知らで罷み侍りにけり。

      又の年、斎院の垣下に参りて侍るに
      此の女見侍りて「何ら付けし紐は」と
      問ひ侍りければ

賀茂祭りをご鑑賞なされていた帰りの日、青色(葵鬘の緑)の紐の落ちていたのを、女房車にお飾り付けになられて、珍しい紐を解いて飾り付けていたのですが、誰かともお気づきになられないでそのまま何事も無かったのです。
別の年のある日、斎院が垣の端に参上して控えていると、この女性をご覧になられて、「そのお付けになられている紐は何なのですか」とお尋ねになられたので、


 『唐衣結びし紐はさしながら、袂は早くくちにしものを』

結んでいる紐はさながら、袂は早々にほころびてしまうものであったのになあ。




                       あおいまつり
賀茂の祭;下鴨神社及び上賀茂神社の葵祭。牛車、桟敷、御簾などを葵蔓で飾った。

かへ

帰さ;帰る事。帰り道。帰る時。

  はべ
罷み侍り;自然と納まりになられる。

さいいん
斎院;賀茂神社に奉仕した未婚の皇女。



(結んでいる紐は、そうですねえ…。この恋は早々と虚しく終わってしまうものであったと解っていたことではあったのですが、それでもねえひょっとしたら…。いえ何でもありませんよ。)との意。


唐衣;枕詞、「ひも」「きる」「たつ」「そで」「すそ」にかかる。

さしながら;さながら。すっかり。
「さ」は然りの意。「し」は強調の助詞。

にし;…てしまった。完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」に過去の助動詞「き」の連体形「し」の付いたもの。


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かものまつり               あおいまつり
賀茂祭;京都の賀茂神社の祭。葵祭のこと。五月十五日に上賀茂神社・下鴨神社の両社で行われる祭で、平安時代には祭と云えば賀茂祭を指した。葵祭の名で言われ出したのは近世以降のことで、葵鬘で飾った牛車を中心に平安朝の服装麗々しい供奉の行列が、午前十時半に京都御所の建礼門を出発し、下鴨神社で古式による祭儀を行った後、上賀茂神社に向かう。其々の社前で「社頭の儀」と云われる牽馬・東遊を行う。元々は陰暦四月の第二の酉の日に行っていた。
ひきうま                        くらおおい
牽馬;貴人或は諸侯などの外出時の行列に鞍覆を掛けて美々しく飾り、引き連れて行く馬。

 

個人蔵