香紙切  (巻第三 夏 断簡)          戻る 香紙切 へ 
    丁子染紙(香色或は薄香色)
夏の日も涼しかりけり川風の、祓ふることも斯くやあるらん
こちらの色は、未晒しの繊維そのものの色の様にも見えますが元々は淡色の香染で、長年の変化により褪色、或は脱色した物と思われます。香色とは、丁子の煮汁で染めた色でほんのりと赤くなったような色。そこはかとなく丁子の香りのするような色のこと。

香色
(こういろ)
香紙切 麗花集 巻第三 夏 (香色) 解説へ11.1cmx19.3cm
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。

          かな
         使用時母          現代語訳へ



       かはらにはらへしけるに

             かねもり

  なつのひも すずしかりけり かはかぜの

  はらふることも かくやあるらん
            


       なでしこのいとおもしろ

       かりけるをとりにやるとて








        可八良爾者羅遍之希留爾

                加年母利

  奈川乃比毛 寸々之可利希利 可八加世乃

  者羅不流己止无 加久也阿留良无



        奈天之己乃以止於毛之呂

        加利希流遠止利爾也留止天




 
            現代語訳
           解説         使用字母へ

     川原に祓しけるに

             兼盛

 夏の日も涼しかりけり川風の、祓ふることも斯くやあるらん

夏の日(陽)でさえも涼しかったようですよ、川を吹き抜ける風のおかげで、お祓いの行事もこのようであってほしいものだね。



     撫子のいと面白かりけるを
     とりに遣るとて

撫子のたいそう見ていて心が晴々とする様であったのを思い出して採りに遣わせると云って、






はらえ

祓;災厄などを除き去る為に行う神事。
  またその折、神に祈って誦む詞。

ギラギラ照り付ける夏の太陽でさえも涼しかったようですよ、川を吹き抜ける風のおかげで!、祓うべき災いもこの様に何事も無く涼しくあってほしいものですよね。)との意。

かりけり;…であったことよ。形容詞「涼し」の連用形語尾「く」が後に続く過去の助動詞「けり」に繋げる為に動詞「あり」を伴った「くあり」の約音「かり」となったもの。詠嘆の意を込めて今気づいた意を表す。


撫子;ナデシコ科の総称であるが、特に野生種の河原撫子を指す。日当たりの良い草地や河原などに自生する。白又はピンクで深く細裂した花弁の可憐な花を開く。秋の七草の一つ。大和撫子は美しく咲くその姿が、しとやかにゆらゆらと風に揺れる様を日本女性に喩えたもの。



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たいらのかねもり
平兼盛;平安時代中期の歌人で、三十六歌仙の一人。贈答歌を多く集めた家集に110首を収めた「兼盛集」がある。駿河守を務め、最終官位は従五位上。(生年?〜没年990)



 

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