香紙切  (巻第七 恋下 断簡)           戻る 香紙切 へ 
    丁子染紙(丁子色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は単色の香染で、長年の変化により褪色、或は脱色した物と思われます。丁子色とは、丁子の煮汁で染めた色でやや黄味の強く出たような色。ほんのりと丁子の香りのするような色のこと。

丁子色
(ちょうじいろ)
香紙切 麗花集 巻第七 恋下 (丁字色) 解説へ21cmx21cm
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。

          かな
            使用字母          現代語訳へ

       人にものいひはべりて、ま

       さひらのうちにある人のいみじう

       おもひしのびけるころ、しのびた

       る人のひまあらばいかで、といひたり

       ければ

  つのくにの こやとも人を いふべきに、ひまこそ

  なけれ あしのやへぶき


       まさひらがいなりのねぎのむす

       めにすみてこざりければ

           衛門あかそめ

  我やどの まつはしるしも なかりけり

  すぎむらならば たづねきなまし


       をむなのもとにつかはしける

           かねもり

  人しれず おもふこころは あきはぎの、した

  ばのいろに なりぬべきかな



       人爾毛乃以日者部利弖、万

       佐比良乃宇知爾安留人乃以美之宇

       於毛日之乃比希留己呂、之乃比多

       流人乃比万安良八以可弖、止以日多利

       希礼盤

 徒乃久爾乃 己也止无人遠 以不部支仁、比万己曾

 奈个礼 安之乃也遍不幾


       万左比良可以奈利乃禰支乃武寸

       免二寸見弖己左利希礼盤

            衛門安可曾女

 我也止乃 万川八之留之毛 奈可利个利

 寸幾无良奈良八 多川禰支奈末之


       遠无奈乃毛止仁川可八之希留

            可年毛利
                      

 人之禮寸 於母不己々路八 安幾波乃、志多

 者乃以路爾 奈利奴部幾可奈


 
           現代語訳
            解説              使用字母へ

      人に物言ひ侍りて、匡衡の家に在る人
      のいみじう思ひ偲びける頃、偲びたる人
      の「暇あらばいかで」と言いたりければ

 人に物を言っておりました所、匡衡の家に居った人が大変秘かに想い慕っていました頃、思い慕っていた人の「時間が有るのなら如何して」と言ったところ、


 津國の来やとも人を言う可きに、隙こそ無けれ葦の八重葺き

慕う心を意中の人に向けるべきだと人の事を云うのに、そんな暇なんてありませんよ、(隙間なく詰まった)葦で葺いた八重葺きの屋根の様に。


      匡衡が稲荷の祢宜の女に
      すみてござりければ

             衛門赤染

 我が宿の松はしるしも無かりけり、杉むらならば尋ね来なまし

我が家には目印となる松もありませんので、杉の群がって生えているところを見つけたならば(それを目印に)訪ねて来て下さいな。


      女の許に遣しける

             兼盛

 人知れず思ふ心は秋萩の、下葉の色に成りぬ可きかな

人に知られないように秘かに思う心は、秋萩の下の方の葉の様に色付くことなく(思いを顔に出すことなく)ひっそりとしているべきなのかな。
     





                      
こや   ながら  みつ
津國;摂津の国。「津國の」は枕詞。昆野、長柄、御津
などにかかる。又、類音の「来や」「何」「名」「ながらふ」「見つ」等にも掛かる。

つのくに
津國;摂津。今の大阪府北部から兵庫県東部に渡る地域の古称。難波の浦は葦の名所でも有る。

八重葺き;屋根を幾重にも重なる様に葺くこと。

 ねぎ          はふり
禰宜;神主の下で、祝の上に位置する神職。

 あかぞめえもん  おおえのまさひら
赤染衛門;大江匡衡の妻。平安中期の女流歌人で、中古三十六歌仙の一人。藤原道長の妻倫子に仕え、和歌では和泉式部と並び称された。歌集に「赤染衛門集」があり、栄花物語の正編の作者ではとも云われている。


しるし すぎ
験の杉;神木としての杉の木。参詣者はその杉の枝を
折り取って持ち帰ると願い事が成就するといわれた。
すぎむら
杉叢;杉の木の群がり生えている所。

平兼盛;平安中期の歌人。三十六歌仙の一人。家集に「兼盛集」がある。
上駿河守従五位。

下葉の色;青味が失せて陽の目を見ない色。
人知れず思いをかける心の色、容姿にかけたもの。


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水府明徳會蔵