『筋切・通切』　粘葉装模本・断簡（古今和歌集下）　

『筋切・通切』粘葉装模本「断簡」　筋切（表面）・通切（裏面）　

元は古今和歌集を書写した、上下２冊の粘葉本（7寸2分×4寸6分）。濃淡の両面加工を施した、鳥の子の染紙料紙が使用されております。表面には、羅門の漉き込みや飛び雲文様を施したもの、或いは切箔を散らした物、鳥・蝶・草銀泥下絵（花鳥折枝）を施したものなどもあり、総ての物に銀の界線が引かれております。（元々は他の目的で作られた物が、当初の用途とは別に使用された物と見られております。）この為、筋のある料紙切とみなされ、『筋切』と呼ばれております。
また粘葉装の為、裏面にも書写されており、裏面にはすべてに篩目（ふるいめ）の加工が施されております。ふるいにかける網目のことを篩目といいますが、選り分けて通す為に、この篩のことを通しとも云います。ここから裏面を『通切』と呼ばれております。
古筆の中には古今和歌集を書写したものが数多く残されています。墨蹟の面白さは、墨の濃淡をはじめ線質の違い、運筆の表現力に在りますが、使用字母の違いも見落とすことは出来ません。字母の違いは、それを使うに能っての背景があるはずです。時代なのか、個人なのか、それとも師によるものなのか。今に残されているものは錚々たる能書きの物であろうことから、書写するにあたり使用字母の違いはある種自我意識の芽生え、同一文章における独自性の他人に最も判り易い表現方法と考えられたのではないでしょうか。

下記写真は昭和中期の模本です。粘葉本上巻（古今和歌集上）昭和２７年頃までは関戸家が持っていた物を模写したものです。


裏表紙	表紙	裏表紙見返し料紙	裏見返し料紙二枚目	見返し料紙二枚目	見返し料紙

巻第一	序(仮名序)・巻第一	巻第一・序(仮名序)	序（仮名序）	序(仮名序・真名序)	序（真名序）
界線・飛雲・篩目	界線・飛雲・羅紋	界線・羅紋・飛雲	界線・飛雲	界線	界線・飛雲・切箔
巻第七	巻第七・巻第三	巻第三	巻第三	巻第三	巻第三・巻第一
篩目	篩目	界線	篩目	界線・飛雲	界線・飛雲

界線・羅紋	篩目	界線・飛雲	篩目	篩目	界線・切箔
界線・下絵	界線・下絵	界線・飛雲	界線・羅紋	篩目・切箔	篩目・切箔

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筋切・通切

『筋切・通切』　古今和歌集下巻第十一（恋一）	古今和歌集巻第十一　恋一　　題不知　　　　　　読人不知 474　　　　なく　さつきのほととぎす鳴や五月あやめくさ、あやめもしらぬ恋もするかな　　　　　　使用字母古今�魏僚鹸�莉衆� 　戀一　　題不知　　　　　　讀人不知 474 本止々支数鳴也五月安也女久散、阿也免毛之良奴戀毛須留可那
歌番号は元永本古今和歌集での通し番号 474 時鳥鳴くや五月の菖蒲草、文目も知らぬ恋もするかな。	あやめぐさ菖蒲草；サトイモ科の多年草でショウブのこと。葉には芳香があり菖蒲湯に使う。アヤメ科の菖蒲とは別物。あやめ文目；物事の筋道。条理。
『筋切・通切』　古今和歌集下巻第十一（恋一）	（あしひきの山したみずのこがくれて、たぎつこころを）せきそ兼鶴　　　　　　　　　入らず、この目録尋ぬるべし　　　　　　　　　　　　　家持 496 よしのがは　いはきりとほし　行水の、音にはたてじ　こひはしぬとも 497　　　　　なかにもたぎつせの　よどはも　ありと云を、などわがこひの　ふちせともなき 498 やまたかみ　した行水の　したにのみ、ながれてこひむ　こひはしぬとも　　　　　　　　使用字母世支曾兼鶴　　　　　　不入此目録可尋　　　　　　　　　　　家持 496 與之乃可波　意波支利止保之　行水乃、音爾波太天之　己比者之奴止毛 497　　　　　　　奈可爾毛太支川世能　與止波毛　安利止云遠、奈止和可己比乃　不知世止毛奈支 498 也万堂可身　志堂行水乃　之太爾乃三、奈可礼天己比無　己比八之奴止毛
歌番号は元永本古今和歌集での通し番号「爾」は「尓」、「與」は「与」とすることもあり。＊足引きの山下水の木隠れて、激つ心を塞きそ兼ねつる。元永本には記載されていない歌。公任本には「吉野川・・・」の前の歌として記載あり 496 吉野川岩切通行水の、音には立てじ恋はしぬとも。 497 滾つ瀬の中にも淀はも有と云うを、何ど我恋の淵瀬とも無き。	を足引きの；枕詞。「山」「峰」にかかる。「足曳く（足痛く）」の意か。足を引きずるほどの山道、峠道。塞きそ；塞き止めること。塞ぐこと。「そ」は強調の助詞「ぞ」に同じ兼ねつる；・・・する事が出来ない。淀；よどみ。
『通切・筋切』　古今和歌集下　巻第十一（恋一）	ちかけれどもあふよしのなき 511　　　　こ　　　　　　　　　　　　　　　　ゆふて思うとも恋ふとも会はむものなれや、結手もたゆ　　　　したひもく解くる下紐 512 いでわれを人なとがめそ大舟の、ゆたの　　　　　　もふ　　をたゆたにもの思ころぞ 513　　うみ　　　　　あま伊勢の海人に釣する海人のうけなれ　　　　　　　　　　　かねつるや、こころひとつを定め金鶴　　　　　使用字母知可个礼止毛阿不與之乃奈支 511 思鞆恋鞆會鬼奈礼也、結手毛太由久解留下紐 512 以天王礼遠人奈止可免曾大舟乃、由多能　　　　　　　　遠多湯太爾鬼思己呂曾 513 伊勢乃海人爾釣春留海人乃宇个奈礼也、己々呂比止都遠定金鶴
焦茶色・篩目・小切箔振歌番号は元永本古今和歌集での通し番号「个」は「介」とすることも、「爾」は「尓」、「與」は「与」とすることもあり。 511 思うとも恋ふとも会わむ物馴れや、結ふ手も弛く解くる下紐。 512 出で我を人な咎めそ大舟の、ゆたの揺に物思ふ頃を。 513 伊勢の海に釣する海人の浮子なれや、心ひとつを定め兼ねつる。	歌511は部分的に万葉仮名の仮名遣いです。ゆたたゆた寛の揺に；ゆらゆらと漂い動いて。う　け浮子；漁網用、釣魚用の浮。
『通切・筋切』　古今和歌集下　巻第十一（恋一）	題不知　　　　　　讀人不知 529　ゆめのうちに　あひみむことを　たのみつつ、　　くらせるよひは　ねむるもなし 530　こひしねと　するわざならし　ぬばたま　　の、よるはすがらに　ゆめにみひつつ 531　なみだがは　まくらながるる　うきね　　には、ゆめもさだかに　みえずぞありける 532　こひすれば　わが身はかげと　なりにけり、さ　　　　　　　使用字母　　　　題不知　　　　　　　讀人不知 529　由女乃宇知爾　安比美武己止越　多乃美川々、　　久良世留與比者　禰武留毛奈之 530　己比之禰止　寸留王散奈良之　奴波太万　　農、與留波春可良仁　由女爾美比川々 531　奈美堂可波　万久良奈可流々　宇紀年　　耳波、由女毛散太可爾　美衣須所安利計留 532　己比寸礼者　和可身者可个止　奈利爾个利、左
茶紫色・界線・羅紋歌番号は元永本古今和歌集での通し番号「个」は「介」とすることも、「爾」は「尓」、「與」は「与」とすることもあり。 529 夢の内に相見む事を頼みつつ、暮らせる宵は寝むるもなし。夢の内に相見む事を頼みつつ、暮らせる宵は寝むかたもなし。（元永本古今集） 530 恋ひ死ねとする業ならし射干玉の、夜はすがらに夢に見入つつ。恋ひ死ねとする業ならし射干玉の、夜はすがらに夢に見えつつ。（公任本古今集） 531 涙河枕流るる浮寝には、夢も定かに見えずぞありける。 532 恋すれば我が身は影となりにけり、然りとて人に添はぬもの故。	歌529「留」は「可多」ともとれる。字数からすると「可多」が正しい。恋ひ死ね；恋の為に病気になって死ぬ。わざ業ならし；仕業であるらしい。夜はすがら；夜通し、一晩中。うきね浮寝；涙に浸って寝ることさ然りとて；そうだといっても。
『通切・筋切』　古今和歌集下　巻第十二（恋二）	595 わがこひを　くらぶの山の　さくら花、まなくちるとも　かずはまさらじ　　　　　　　　　　　　　むねおかのおほより　　　　　　　　　　　　　宗岳大頼 596 冬かはの　うへはこほれる　われなれや、したにながれて　こひわたるとも　　　　　　　　　　　　　ただみね 597 たぎつせに　ねざしとどめぬ　うきくさの、うきたるこひも　われはするかな　　　　　　　使用字母 595 和可己悲遠久良不農山能左久良花、末那久知留止毛可須波末左良之　　　　　　　　　　　　　　宗岳大頼 596 冬可波乃宇部波己本礼留和礼奈礼也、志多爾奈可礼天己比和多留止无　　　　　　　　　　　　　　多々美禰 597 多支川世爾年左之止々女奴宇支久佐農、宇支多留己比毛王礼者須留可奈
茶色・篩目歌番号は元永本古今和歌集での通し番号「个」は「介」とすることも、「爾」は「尓」、「與」は「与」とすることもあり。 595 我が恋を暗部の山の櫻花、間なく散るとも数は勝らじ。 596 冬川の上は凍れる我なれや、下に流れて恋渡るとも。冬川の上は凍れる我なれや、下に流れて恋渡るらん。（公任本古今集） 597 滾つ瀬に根差し留めぬ浮草の、浮きたる恋も我はするかな。滾つ瀬に根差し止まらぬ浮草の、浮きたる恋も我はするかな。（公任本古今集）	暗部山；くらぶの山。鞍馬山の古名

銀泥下絵の物は本清書用には挿入しておりませんので、ご入用の方はお問合せ下さい。１枚１３２０円（税込）

『筋切・通切』　古今和歌集下巻第十一（恋一）	古今和歌集巻第十一　恋一　　題不知　　　　　　読人不知 474　　　　なく　さつきのほととぎす鳴や五月あやめくさ、あやめもしらぬ恋もするかな　　　　　　使用字母古今�魏僚鹸�莉衆� 　戀一　　題不知　　　　　　讀人不知 474 本止々支数鳴也五月安也女久散、阿也免毛之良奴戀毛須留可那
歌番号は元永本古今和歌集での通し番号 474 時鳥鳴くや五月の菖蒲草、文目も知らぬ恋もするかな。	あやめぐさ菖蒲草；サトイモ科の多年草でショウブのこと。葉には芳香があり菖蒲湯に使う。アヤメ科の菖蒲とは別物。あやめ文目；物事の筋道。条理。
『筋切・通切』　古今和歌集下巻第十一（恋一）	（あしひきの山したみずのこがくれて、たぎつこころを）せきそ兼鶴　　　　　　　　　入らず、この目録尋ぬるべし　　　　　　　　　　　　　家持 496 よしのがは　いはきりとほし　行水の、音にはたてじ　こひはしぬとも 497　　　　　なかにもたぎつせの　よどはも　ありと云を、などわがこひの　ふちせともなき 498 やまたかみ　した行水の　したにのみ、ながれてこひむ　こひはしぬとも　　　　　　　　使用字母世支曾兼鶴　　　　　　不入此目録可尋　　　　　　　　　　　家持 496 與之乃可波　意波支利止保之　行水乃、音爾波太天之　己比者之奴止毛 497　　　　　　　奈可爾毛太支川世能　與止波毛　安利止云遠、奈止和可己比乃　不知世止毛奈支 498 也万堂可身　志堂行水乃　之太爾乃三、奈可礼天己比無　己比八之奴止毛
歌番号は元永本古今和歌集での通し番号「爾」は「尓」、「與」は「与」とすることもあり。＊足引きの山下水の木隠れて、激つ心を塞きそ兼ねつる。元永本には記載されていない歌。公任本には「吉野川・・・」の前の歌として記載あり 496 吉野川岩切通行水の、音には立てじ恋はしぬとも。 497 滾つ瀬の中にも淀はも有と云うを、何ど我恋の淵瀬とも無き。	を足引きの；枕詞。「山」「峰」にかかる。「足曳く（足痛く）」の意か。足を引きずるほどの山道、峠道。塞きそ；塞き止めること。塞ぐこと。「そ」は強調の助詞「ぞ」に同じ兼ねつる；・・・する事が出来ない。淀；よどみ。
『通切・筋切』　古今和歌集下　巻第十一（恋一）	ちかけれどもあふよしのなき 511　　　　こ　　　　　　　　　　　　　　　　ゆふて思うとも恋ふとも会はむものなれや、結手もたゆ　　　　したひもく解くる下紐 512 いでわれを人なとがめそ大舟の、ゆたの　　　　　　もふ　　をたゆたにもの思ころぞ 513　　うみ　　　　　あま伊勢の海人に釣する海人のうけなれ　　　　　　　　　　　かねつるや、こころひとつを定め金鶴　　　　　使用字母知可个礼止毛阿不與之乃奈支 511 思鞆恋鞆會鬼奈礼也、結手毛太由久解留下紐 512 以天王礼遠人奈止可免曾大舟乃、由多能　　　　　　　　遠多湯太爾鬼思己呂曾 513 伊勢乃海人爾釣春留海人乃宇个奈礼也、己々呂比止都遠定金鶴
焦茶色・篩目・小切箔振歌番号は元永本古今和歌集での通し番号「个」は「介」とすることも、「爾」は「尓」、「與」は「与」とすることもあり。 511 思うとも恋ふとも会わむ物馴れや、結ふ手も弛く解くる下紐。 512 出で我を人な咎めそ大舟の、ゆたの揺に物思ふ頃を。 513 伊勢の海に釣する海人の浮子なれや、心ひとつを定め兼ねつる。	歌511は部分的に万葉仮名の仮名遣いです。ゆたたゆた寛の揺に；ゆらゆらと漂い動いて。う　け浮子；漁網用、釣魚用の浮。
『通切・筋切』　古今和歌集下　巻第十一（恋一）	題不知　　　　　　讀人不知 529　ゆめのうちに　あひみむことを　たのみつつ、　　くらせるよひは　ねむるもなし 530　こひしねと　するわざならし　ぬばたま　　の、よるはすがらに　ゆめにみひつつ 531　なみだがは　まくらながるる　うきね　　には、ゆめもさだかに　みえずぞありける 532　こひすれば　わが身はかげと　なりにけり、さ　　　　　　　使用字母　　　　題不知　　　　　　　讀人不知 529　由女乃宇知爾　安比美武己止越　多乃美川々、　　久良世留與比者　禰武留毛奈之 530　己比之禰止　寸留王散奈良之　奴波太万　　農、與留波春可良仁　由女爾美比川々 531　奈美堂可波　万久良奈可流々　宇紀年　　耳波、由女毛散太可爾　美衣須所安利計留 532　己比寸礼者　和可身者可个止　奈利爾个利、左
茶紫色・界線・羅紋歌番号は元永本古今和歌集での通し番号「个」は「介」とすることも、「爾」は「尓」、「與」は「与」とすることもあり。 529 夢の内に相見む事を頼みつつ、暮らせる宵は寝むるもなし。夢の内に相見む事を頼みつつ、暮らせる宵は寝むかたもなし。（元永本古今集） 530 恋ひ死ねとする業ならし射干玉の、夜はすがらに夢に見入つつ。恋ひ死ねとする業ならし射干玉の、夜はすがらに夢に見えつつ。（公任本古今集） 531 涙河枕流るる浮寝には、夢も定かに見えずぞありける。 532 恋すれば我が身は影となりにけり、然りとて人に添はぬもの故。	歌529「留」は「可多」ともとれる。字数からすると「可多」が正しい。恋ひ死ね；恋の為に病気になって死ぬ。わざ業ならし；仕業であるらしい。夜はすがら；夜通し、一晩中。うきね浮寝；涙に浸って寝ることさ然りとて；そうだといっても。
『通切・筋切』　古今和歌集下　巻第十二（恋二）	595 わがこひを　くらぶの山の　さくら花、まなくちるとも　かずはまさらじ　　　　　　　　　　　　　むねおかのおほより　　　　　　　　　　　　　宗岳大頼 596 冬かはの　うへはこほれる　われなれや、したにながれて　こひわたるとも　　　　　　　　　　　　　ただみね 597 たぎつせに　ねざしとどめぬ　うきくさの、うきたるこひも　われはするかな　　　　　　　使用字母 595 和可己悲遠久良不農山能左久良花、末那久知留止毛可須波末左良之　　　　　　　　　　　　　　宗岳大頼 596 冬可波乃宇部波己本礼留和礼奈礼也、志多爾奈可礼天己比和多留止无　　　　　　　　　　　　　　多々美禰 597 多支川世爾年左之止々女奴宇支久佐農、宇支多留己比毛王礼者須留可奈
茶色・篩目歌番号は元永本古今和歌集での通し番号「个」は「介」とすることも、「爾」は「尓」、「與」は「与」とすることもあり。 595 我が恋を暗部の山の櫻花、間なく散るとも数は勝らじ。 596 冬川の上は凍れる我なれや、下に流れて恋渡るとも。冬川の上は凍れる我なれや、下に流れて恋渡るらん。（公任本古今集） 597 滾つ瀬に根差し留めぬ浮草の、浮きたる恋も我はするかな。滾つ瀬に根差し止まらぬ浮草の、浮きたる恋も我はするかな。（公任本古今集）	暗部山；くらぶの山。鞍馬山の古名