針切 重之の子の僧の集(序)             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
写真は冒頭、詞書の部分です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集1 詞書(序) (素色)15.6cmx22.4cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                   使用時母へ



  
世をそむきてさるべきところどころこもりおこ

  なふ念ずのひまひまにひとりごちまたあひか

  たらうひとのいひすすむることにつけてもす

  ぎにしかたをおもひいでゆくすゑを思やり

  つつ年月のかはるをりをりはるは花に心を

  あくがらしなつはほととぎすのこゑをねざめにきき

  秋はもみちのふかき山にこころをいれ冬はこ

  ほりのかがみにむかひてゆきの山をみるごとに

  おいのなみだをとどめがたければかきつくるみづ


次項
  ぐきのあともいまはつつましくなむ

   春たつひある所のおほせごとにて

うわごほり とくるなるべし 山かはの、いは

まくぐみづ おとまさるなり



  
世を背きて然るべきところどころ籠り行

  なう念ずの暇暇に独り言ち、またあいか

  たらう人の言い勧むることにつけても過

  ぎにしかたを想い出で、行く末を思いやり

  つつ年月のかわる折々、春は花に心を

  憧らし夏はほととぎすの声を寝覚めに聞き

  秋はもみじの深き山にこころをいれ冬はこ

  おりの鏡にむかいて雪の山をみるごとに

  老のなみだをとどめがたければ掻き造る水


次項
  茎のあともいまは慎ましくなむ

   春たつ日ある所の仰せ言にて

上氷 解くるなるべし 山川の、岩

間潜水 音まさるなり

 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~は残り半葉分を歌一首まで記載
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説

  
世乎曾無支天左留部支止己呂乀己毛利於己  

  那不念春乃悲末ヽ仁悲止利己知、万堂安比可

  多良不悲止乃以日春々武留己止爾川遣天毛春 

  幾仁之可多乎於毛比以天、由久春衛乎思利

  徒々年月乃可者留乎利ヽ、盤留波花爾心遠

  安久可良之奈川波本止々支須乃己衛乎禰左女爾支々

  秋盤毛美知乃婦可支山仁古々呂遠以礼冬盤己

  本利乃可々美仁武可悲弖由支乃山遠美留己止仁

  於以乃奈美多乎止々女可多希礼盤可支川久流美川



「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
 

 俗世間から逃れ離れて(出家して)そうする事が当然と思われるそれぞれの場所場所で閉じこもって行う念誦を唱える暇毎に独り言を言ったり、

又相語らう人との強い口調で責め立てることなどにつけても過ぎ去った頃を懐かしく思い出して、行く末を思いやりながら年月の変わって行く折々に、春は花に心を惹きつけられながら、夏はホトトギスの声を寝覚めに聞いて、秋には紅葉の深い山々に熱中しつつ、冬は氷の鏡に向かって雪の山を見るたびに、

年老いて行くことへの悲しみをこらえる事が難しくて(涙を止める事が出来なくて)無造作に書綴る筆の跡(走り書きする詠歌)も今は気が引けて…。(きっと気が引けてしまうのでしょうね、そんな気がしますよ)


    
立春の日のある所での仰せの言葉に

 上氷解くるなるべし山川の、岩間潜水音まさるなり
表面に薄く張った氷が解けてしまうはずですよ、山間を流れる川の岩の隙間を潜る水の音も強く(勢い良く)なっておりますから。



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