針切 重之の子の僧の集8             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集8 (素色)15.5cmx22.6cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ


   むまきのむまのあやめのなかにたてるをみ
   はべりて

 なつくれど あれのみまさる こまなれば、あやめ

 のくさに のかふなりけり


   かみのやしろよりほととぎすのなきわたり
   はべるを

 けふきけば 山ほととぎす みやなれて、しめのうち

 より なきわたるなり


   山ざとをはてにおきてよめとある所のおほ
              せごとにはべれば

 こがくれて おそくいづれば ありあけの、月まちどほ

 に みゆる山ざと



   牧の馬の菖蒲の中に立てるを見
   侍りて

 夏来れど あれのみ勝る 駒なれば、菖蒲

 の草に 野飼ふなりけり


   神の社より時鳥の鳴き渡り
   侍るを

 今日聞けば 山時鳥 宮慣れて、標の内

 より 鳴き渡るなり


   山里を果てに置きて詠めとある所の仰
   せ事に侍れば

 木隠れて 遅く出れば 有明の、月待どほ

 に 見ゆる山里


 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~残り半葉分の内の詞書の一部
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。解説


   武万支乃武万乃安也女乃奈可爾多天留遠美
   波部利天

 奈川久礼止 阿礼乃美万左留 己末那禮盤、安也女

 乃久左爾 乃可婦奈利介利  


    可美乃也之呂與利本止々支春乃那支和多利
    波部留遠

 个不支个波 山保止々支寸 美也那礼天、志女乃宇知 

 與利 那支和多留奈利

    山左止乎者天爾於支天與女止安留所乃於保
                   世己止爾者部禮盤

 己可久礼天 於曾久以川礼盤 安利安遣乃、月末知止保

 二美由留山左止



「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「个」は「介」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも

解説

   牧場で馬が菖蒲の中に立っているのを見て

 
夏来れど荒のみ勝る駒なれば、菖蒲の草に野飼うなりけり。
夏が来たと云うのに暴れる事ばかりが目立ってしまう馬なので、菖蒲の草場に野放しになったままにされてたという事ですよ。
「菖蒲」は「文目」に通じ物事の筋道や道理をわきまえる事、そのような馬に育ってほしいとの願いが込められたものか。


野飼ふ;牛や馬などを放し飼いにする。


   神社の境内から時鳥の鳴き声が響き渡るのを聞いて

 
今日聞けば山時鳥宮慣れて、標の内より鳴き渡るなり。
今日聞いていると山時鳥がすっかり神社に慣れていて、境内より鳴き声が響き渡っておりますよ。


標の内;標によって示された区画の中のことで、主に神社の境内や宮中の中のことを言う。


   山里を端に置いて歌を詠めと或る御方が申されましたので

 
木隠れて遅く出れば有明の、月待遠に見ゆる山里。
木の枝陰に隠れて遅くなって姿を見せれば、明け方の月でさへ尚待ち遠しく見える山里ですこと。
あるいは
木の枝陰に隠れて遅くなって漸く姿を見せようとしているので、もう明け方だと云うのに月待の一団が薄っすらと遠く見える山里ですよ。

                                                          
有明の月;夜明けに尚、空に残っている月。

月待;十五夜・十九夜・二十三夜などの月例の夜、講員(神仏を祀る同行者で組織する団体)が寄り合って飲食を共にし月の出を待つ行事。このうち二十三夜待ちが盛んで、三夜供養とも言う物忌行事の一つ。伊勢講、稲荷講、太師講などの類。




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