針切 重之の子の僧の集9             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集9 (素色)15.2cmx22.1cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ




 なつふかく くさしげりゆく わがやどに、たれかきわ

 けて とはむとすらむ


   よふかきつきをながめはべりて

 むらさきに たなびくくもの たえまより、みにし

 むつきの いろをみるかな


   おぼつかなきみちのしるべする人の
   わかるるところにて

 みちしばの つゆうちはらひ しるべする、人を

 いづれの よにかわすれむ





 夏深く 草茂り行く 我が宿に、誰掻き分

 けて 訪はむとすらむ


   夜深き月を眺め侍りて

 紫に たなびく雲の 絶え間より、身に染

 む月の 色を見るかな


   おぼつかなき道の導する人の
   分るる所にて

 路芝の 露打ち払ひ 標する、人を

 何れの 世にか忘れん


 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~残り半葉分の内の詞書の一部
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                      解説




 那川不可久 々左之个利由久 和可也止爾、多礼可支和

 希天 止八無止春良舞  


    與不可支川支遠那可女者部利天

 武良左支仁 多奈悲久々毛乃 多衣万與利、美仁之 

 舞川支乃 以呂乎美留可那


    於保川可那支美知乃之留部春流人乃
    和可留々止己呂仁天

 美知之波乃 川由宇知波良悲 之留部春留、人遠

 以川礼乃 與仁可和春礼无



「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「个」は「介」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも

解説

 
夏深く草茂り行く我が宿に、誰掻き分けて訪わむとすらむ。
夏も深まって草が生い茂っている我家に、誰が好き好んで茫々と伸びた草を掻き分けてまで訪ねて来ようとするものか。



   夜も深くに月をご覧になられて

 
紫にたなびく雲の絶え間より、身に染む月の色を見るかな。
紫色にたなびいて見える雲の切れ目から覗ける月は、印象強く深く心に残る月の様に見えますよ。
(薄暗い紫色の雲と明るく青白い月とのコントラストが非常に美しく(なまめかしく妖艶でもあり)、印象深く心に残る月ですね。)

或は
紫色にたなびいて見える雲の隙間から、私の身を指すように心に沁み込んでくる月の色に見られますよ。
(夜も深く気温も下がってきているので、紫の合間に見える月の白さがより一層冷たさを感じさせてくれますね。)



   (行く手の)はっきりとしない野道で道案内する人の分れる所にて(道も人も)

 
道芝の露打ち払い標する、人を何れの世にか忘れん。
路芝の露を打ち払いながら道案内をしてくれた人の事でさへ、どのみち(何れにせよ)何時かは忘れてしまいますでしょうね。
 (私の為に、私が歩き易いように露払いまでしながら惑わぬように道案内をしてくれた人の事でさへ、どちら(の道を行く)にしても何時の日にか忘れてしまいますでしょうよ)


道芝;道端に生えている芝草(イネ科の雑草の総称)。道端の草。路傍の草。また人を導いて道案内する人の例えにも使う。(取り持ち役)





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