針切 重之の子の僧の集10             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集10 (素色)15.2cmx22.1cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ




 むらさきの いろゆるさるる みなりせば、けさは

 いそぎも かへらざらまし


   やどのむめすこしと、こひたるひとのかへり
         ごとに、

 むめの花 ちりにしやどの さびしきに、うきみたへ

 ぬる 人もありけむ








 紫の 色許さるる 身なりせば、今朝は

 急ぎも 帰らざらまし


   宿の梅少しと、乞ひたる人の帰り
        ごとに、

 梅の花 散りにし宿の 寂しきに、憂き身耐へ

 ぬる 人も在りけむ





 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~残り半葉分の内の詞書の一部
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       
解説




 武良左支乃 以呂由留左留々 美奈利世盤、希左波

 以所支毛 可部良左良万之  


    也止乃武女春己之止、己悲多留悲止乃可部利
           己止仁、

 武免乃花 知利仁之也止乃 左美之支仁、宇支美堂部 

 奴留 人毛安利希武






「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「个」は「介」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも

解説

 
紫の色許さるる身なりせば、今朝は急ぎも帰らざらまし。
紫の色を着ることが許される身であるので、(そうせざるを得ないが、もしそうでなかったならば)今朝は急いで帰ることも無かったであろうに!。


…せば…ざらまし;もし…だったらなら…無かったであろう。
打消しの助動詞「ず」の未然形「ざら」に反実仮想の助動詞「まし」の付いたもの。仮定条件と呼応して用いられ事実に反する事態を仮に想定して、その結果となるべきもう一つの事実に反する事態を推量する。


   宿の梅の花を少し分けて頂けませんかと、おねだりする人の帰りごと(返り言=返歌)に、

 
梅の花散りにし宿の寂しきに、憂き身耐えぬる人も在りけむ。
梅の花が散って終った後の我が家は寂しい様子なので、辛いことの多い身の上を耐えねばならないでいる人も在ったという事ですよ。
(花の咲いている今は良いのですが、散った後の我が家はたいそうみすぼらしくて訪れる人もなく、辛いことの多い身の上を案じつつ耐えながら暮らしていた人も居たそうですよ。と詠って暗に花時以外も来て欲しいものですよ伝える歌。)




                                                          







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