針切 重之の子の僧の集11             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集11 (素色)15.2cmx22.1cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ



 まきのとを あけてこそきけ ほととぎす、まださと

 なれぬ けさのはつこゑ


   うの花を

 うの花の さかりになれば 山がつの、かきねはよをも

 へだてざりける


   つくしへくだりはべる人にあふぎ心ざし
   はべりとて

 なにはがた こぎいづるふねに わがそふる、あふぎ

 の風や てにもおふらむ

   ものへまかりはべる人に、あふぎ心ざして
   はべるかへりごとに




 真木の戸を 開けてこそ聞け 時鳥、まだ里

 慣れぬ 今朝の初声


   卯の花を

 卯の花の 盛りになれば 山賤の、垣根は夜をも

 隔てざりける


   筑紫へ下り侍る人に扇志し侍りとて


 難波潟 漕ぎ出る舟に 我が添ふる、扇

 の風や 手にも負ふらむ

   物へ罷り侍る人に扇志して
   侍る返り事に


 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~残り半葉分の内の詞書の一部
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説




 万支乃止遠 安計天己所支希 本止々支春、万多左止

 奈礼奴 希左乃者川己衛  


     宇乃花乎

 宇乃花乃 左可利爾奈礼盤 山可川乃、可支禰者與遠毛

 部多天左利遣留


     川久之部久多利八部留人爾、安不支心左之
           八部利止天、

 奈爾者可多 己支以川留布禰爾 和可所不留、安不支

 乃風也 天爾毛於不良无


     毛乃部万可利波部留人仁、安不支心左之天 

     八部留可部利己止耳






「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「个」は「介」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも

解説

 
真木の戸を開けてこそ聞け時鳥、まだ里慣れぬ今朝の初声
時鳥の鳴く声は杉板の戸を開けてこそ聞くのが好い、(恐る恐る発したか細い声で)まだ里に慣れていないであろう今朝のような初声の時には!。



 卯の花の盛りになれば山賤の、垣根は夜をも隔てざりける
白い花の咲く卯の花の咲く盛りになると身分の低い人でさへも、(卯の花の)垣根は昼夜を隔てる事無く(夜でも)辺りを薄明るく照らしてくれますよ。


卯の花;卯木。白い花穂が束になって芳香と共に一斉に咲き誇る。枝が密になり、四方八方に張った灌木になるので、古来より生垣に用いられていた。


やまがつ

山賤;漁師・樵などの山中に住む卑しい身分の人。山に住む身分の低い者。賤(しず)。



   筑紫の国へ赴任なされる人に、扇子の贈り物を致そうと思いまして。

 
難波潟漕ぎ出る舟に我が添ふる、扇の風や手にも負ふらむ
難波の水面を漕ぎ出そうとする舟に私が贈り持たせた扇子の風が、きっと私の手にも降りかかって来るのでしょうね。
(追いかけて行きたいのに追う事が出来ない、心苦しい身の内にどうすることも出来ず、切ない思いを乗せて吹いてくるのでしょうね。)


扇;ヒノキの薄板二十枚前後を糸で綴じて作ったもの。平安時代には男女の礼装用として用いられた。檜扇とも。


   ある所へ旅立ってしまわれるお方に扇子の贈り物をしておりました返事として、

この後の返歌は不明です。







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