針切 重之の子の僧の集12             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集12 (素色)15.2cmx22.1cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ


   月をながめはべりて

 月かげの くもかくれぬる ものならば、なにをぞち

 よの なぐさめにせん


   はぎの花ひごとにいろまさるといふだいを
   中宮にて

 かりそめの よをかさねつつ おくつゆに、うさのみまさ

 る あきはぎの花


    だいしらず

 のりのうみに うかべるふねの ごふをへて、めぐるう

 きぎに あひにけるかな




   月を眺め侍りて

 月影の 雲隠れぬる ものならば、何をぞ千

 代の 慰めにせん


   萩の花日毎に色勝るという題を
   中宮にて

 仮初の 夜を重ねつつ 置く露に、憂さのみ勝

 る 秋萩の花


    題知らず

 法の海に 浮かべる舟の 護符を経て、廻る

 浮き木に 会いにけるかな



 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~残り半葉分の内の詞書の一部
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説


     月乎奈可女波部利天

 月可遣乃 久毛可久禮奴留 毛乃奈良波、奈爾乎曾知

 與乃 奈久左女爾世无  


     波支乃花悲己止爾以呂万佐留止以不多以乎
     中宮爾天

 可利所女乃 與遠可左禰川々 於久川由爾、宇左乃美万佐

 留 安支者支乃花


     多以之良春

 乃利乃宇美爾 宇可部留不禰乃 己不乎部弖、女久留宇

 幾々爾 安比爾希留可那






「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「个」は「介」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも

解説

     月を眺めておりまして

 
月影の雲隠れぬるものならば、何をぞ千代の慰めにせん
月の姿が雲に隠れて見られなくなってしまったならば、一体何をこの先生涯の慰めにしたら好いのでしょうか!。

(愛しい人の姿がもう二度と見られなくなってしまったとしたならば、一体何をこの先生涯の慰めにしたら好いのでしょうか。)


    萩の花日毎に色増さるという題を、詠めよ。中宮にて

 仮初の夜を重ねつつ置く露に、憂さのみ勝る秋萩の花                  し な だ     うな
一寸した夜を重ねながら現れる露に、辛いことばかりが積み重なってまるで夜露を受けて撓垂れた(項だれた)秋萩の花の様ですよ。

(その場限りの間に合せの夜を重ね続けながら現れ来る涙に、辛いことばかりが上回って私はまるで秋萩の花の心地ですよ)

かり そめ
仮初;一時限りの儚いこと。その場限りの間に合せ。


 う

憂さ;物事を思うに任せる事が出来ずに辛い心の内。



    題知らず。

 
法の海に浮かべる舟の護符を経て、廻る浮き木に会いにけるかな
法の海に浮かべる舟の護符を辿って来たなら、巡り巡って仏様の救いに出会う事が出来るでしょうか。
(それとも、本当はあるはずもない法の海だから心の内だけのことで、護符を受けても廻り廻って流木の様に不安定な浮き木に遇ってしまうのでしょうか。「浮き木」は「憂き気」との掛詞)


の り う み

法の海;仏教の教えの深いことを海に喩えて云う言葉。

浮き木;法の浮き木の事。迷いを持ってさまよっている衆生が会い難き仏の救いに会う事。
ご ふ
護符;神仏が加護して数々の厄難から逃れさせるというお札。護身符。護摩札。真言密呪文や神仏の姿・名前などを書いた紙の札。






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