針切 重之の子の僧の集13             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集13 (素色)15.2cmx22.1cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ


   ふゆのはじめに

 もみぢみて 秋はくらしつ かみなづき、いまはし

 ぐれの そらをながめむ


   たのむ人のとひはべらぬをうらみて

 あはれてふ ことのはもなく なりゆけば、そで

 にいくたび しぐれしぬらむ


    ものおもふころしぐれのしはべるに

 さらぬだに おもひはれまも なきものを、うくも
      
あまつそら
 しぐるる かみなづきかな


    きこりのかよひしみちの、ゆきふりての
    ちたえてみえはべらざりしに


   冬の初めに

 紅葉見て 秋は暮らしつ 神無月、今は時雨

 の 空を眺めむ


   頼む人の訪い侍らぬを恨みて

 哀れてふ 言の葉もなく 成り行けば、袖

 に幾度 時雨しぬらむ


    物思ふ頃時雨のし侍るに

 去らぬだに 思ひ晴れ間も 無きものを、憂くも

 時雨るる 天つ空かな


    樵の通ひし道の、雪降りて後
    絶えて見え侍らざりしに

 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~残り半葉分の内の詞書の一部
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説


     不由乃波之免仁

 毛美知美天 秋波久良之川 可美那川支、以万盤之

 久礼乃 曾良乎奈可女無  


     多乃武人乃止悲波部良奴乎宇良美天

 安波連天布 己止乃者毛奈久 那利由个波、所天

 仁以久多日 之久礼之奴良無


     毛乃於毛婦己呂之久禮之者部留仁

 左良奴多仁 於毛悲者礼万毛 奈支毛乃遠、宇久毛
        
安万川所良
 志久留々 可美奈川支可那


     支己利乃可與悲之美知乃、由支不利天乃
     知多衣天美衣者部良左利之仁




「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「个」は「介」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも

解説

     冬の初めに

 
紅葉見て秋は暮らしつ神無月、今は時雨の空を眺めむ
紅葉を眺めながら秋を過ごしておりましたが、陰暦十月の今は只々時雨の空を眺めておりますよ!。



神無月;陰暦十月の異称。初冬の季語。

    頼りにしている人の訪ねてこないことを、不満に思って

 哀れてふ言の葉もなく成り行けば、袖に幾度時雨しぬらむ 
哀れなものですねえ。次第に和歌も詠めなくなってしまへば、袖に何度の時雨が差す(涙で袖が濡れる)のでしょうか。





てふ;…という。「といふ」の約音。


 う

憂さ;物事を思うに任せる事が出来ずに辛い心の内。



    物思いに耽るころ時雨の降り始めた時に。

 
去らぬだに思ひ晴れ間も無きものを、憂くも時雨るる天つ空かな
時雨の過ぎ去って終わないことには(この憂き)思いの晴れる間もないことですよ、思うに任せられずに心の奥まで湿ったままの(涙で濡れたままの)何と心の落ち着かぬことなのでしょう。


 し ぐ

時雨るる;冬の初めごろにさっと降ってさっと上がる冷たい雨だが、断続的に降ったり止んだりを繰り返し時に晴れ間ものぞかせるなどすることもある趣深い雨降り。
あまつそら
天津空;大空。空の様に遥かな遠い所。宮中(雲の上の人々の意)。また、浮足立った心。






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