針切 相模集7                 戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出して歌のみを書写、書き下ろしてゆくに従い行がやや右に流れる特徴が有り、詞書は有りません。


素色(しろいろ)

『針切』 相模集7 (素色)約15.5cmx22.3cm
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ



 ゆめにだに みゆやとねても 心みむ、おもひおこ

 する 人はなくとも


 つねよりも けさのとここそ おきうけれ、こ

 よひいかなる ゆめをみつ覧


 うづみても おぼつかなきは 人にだに、か

 たりあわせぬ ゆめにざりける





 夢にだに 見ゆやと寝ても 心みむ、思ひ起こ

 する 人はなくとも


 常よりも 今朝の床こそ 起き憂けれ、今宵

 如何なる 夢を見つらん


 埋みても おぼつかなきは 人にだに、語り

 合わせぬ 夢にざりける



 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記

 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。解説


 由女爾堂仁 美由也止禰天毛 心美無、於毛悲於己 

 寸留 人波奈九止毛


 川禰與利毛 希左乃東己々所 於支宇遣禮、 己

 與悲以可奈留 由女遠美川覧


 宇川美弖毛 於保川可那支盤 人仁堂爾、可

 多利安和世奴 由女爾左利希留



「乀」;3文字の繰り返し、「ヽ」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し □部分は不明文字。
「爾」は「尓」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも
  
 解説

 夢にだに見ゆやと寝ても心みむ、思ひ起こする人はなくとも
夢の中だけでも見えるかもしれないと寝てみようと試みても(心に念じてみても)、(これといって)思い起こされる人も居はしないのだけれども。


 常よりも今朝の床こそ起き憂けれ、今宵如何なる夢を見つらん
いつもよりも今朝の寝床は起き辛かったのだけれども、いったい今夜はどんな夢を見てしまったのでしょうか。

つらむ;…たのだろう。…ただろう。確述を表す完了の助動詞「つ」の終止形に疑念を感じながら推し量る推量の助動詞「らむ」の付いたもの


 埋みてもおぼつかなきは人にだに、語り合わせぬ夢にざりける
覆い隠そうとして(無かった事にしようとして)もやはり気がかりなのですよ、だって人間ですもの。話をしあって夜を明かすことも出来ない夢だったのですから(ねえ!)。

ざりける;…だったのだなあ。…なのですね。係助詞「ぞ」にラ行変格活用の補助動詞「あり」の連用形が付いた「ぞあり」の約音「ざり」に過去の助動詞「けり」の連体形「ける」の付いたもの。

ざりけり;…ないのだった。…なかったのです。打消しの助動詞「ず」の連用形「ざり」に過去の助動詞「けり」の付いたもの。とは違うので注意!。




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