本阿彌切拡大８瓜唐草ー古今和歌集巻第十四・恋歌四

　　　　　　　　　　　本阿弥切・巻子本（古今和歌集巻第十四　恋歌四）第四紙拡大　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
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青グレー・瓜唐草具引剥奪唐紙料紙一葉分　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
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瓜唐草（うりからくさ）（相生唐草）

巻子本本阿弥切
　（古今和歌集巻第十四　恋歌四）

　第四紙

解説及び
使用字母へ

清書用　青灰
『瓜唐草』

具剥奪唐紙『瓜唐草（相生唐草）』（元は具引唐紙が経年使用により部分剥落したもので、具引剥奪唐紙ともいう。）

歌番号は元永本古今和歌集での通し番号（歌の一部が異なっている場合も同じ番号で記載）
（　）内の歌番号は小松茂美氏監修「本阿弥切古今集」（二玄社発行）の通し番号（類推）
　　　　　　　　　　　　かな　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　使用字母　　　　　　　解釈（現代語訳）へ

　ばこてふににたりまたずしもあらず

６９８　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（692）
　　　　　　　　　きみこずはねやへも
　　いらじこむらさき
　　　　　　　　　我もとゆひにしもは
　　　　　　　　　　　　　　　　おくとも

６９９　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（693）
　宮ぎののもたらのこはぎつゆを
　おもみ、かぜをまつごと君をこそまて

７００　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（694）
　あなこひしいまもみてしが山がつのか
　きをにおもはる山となでしこ

７０１　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（695）
　つのくにのなにはおもはずやましろの、と
　はにあひみむこと○のみこそ

　　　　　　　　　　　　　つらゆき
７０２　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（696）
　しきしまのやまとにはあらぬからころも
　ころもへずしてあふよしもがな

　　　　　　　　　　　　　ふかやぶ
７０３　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（697）
　こひしとはたがいひはめしことならむしぬと
　ぞただにいふべかりける

　　　　　　　　　　　　　よみびとしらず
７０４　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（698）
　みよしののおほかはのべのふぢなみの、なみに
　おもはばわれこひめやは

７０５　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（699）
　かくこひむものと○われもおもひにき,こころのうらぞ
　まさしかりける

７０６　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（700）
　あまのはらふみとどろかしなるかみも、お

者己天不爾々多利万太寸之毛安良数
６９８
　　　　　　　　　　支美己寸者禰也部毛
　以良之己武良左支
　　　　　　　　　　　　我毛止由比仁之毛八
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　於久止无
６９９
宮支乃々毛多良乃己者支川由遠
於无三加世遠万川己止君遠己曾万天

７００
安那己日之以末毛美天之可山可川乃可
支遠爾於毛者留山止奈天之己

７０１
川乃久仁乃奈爾者於毛者寸也万之呂乃止
者爾安日美武己止□乃美己曾

　　　　　　　　　　　　　川良由支
７０２
志支之万乃山止爾者安良奴可良己呂毛
己呂毛部春之天安不與之毛可那

　　　　　　　　　　　　　不可也布
７０３
己比之止波多可以日羽免之己止那良无之奴止
所多々爾以不部可利希流

　　　　　　　　　　　　　與美悲止之良春
７０４
美与之乃々於本可者乃部乃不知那美乃,奈美爾
於毛盤々我己日免也八

７０５
可久己日无毛乃止□我毛於毛日爾支心乃宇良所
　万左之加利个留
７０６
安万乃者良不美止々呂可之奈留可美毛、於

700
　あな恋ひし今も見てしが山がつの垣をに思はる大和撫子
　「を」は「ほ」の間違いか、それとも意図的に「を」としたのか、或いは「垣を」で「垣穂」と同義か。

元永本古今和歌集
　あな恋ひし今も見てしが山がつの垣穂に咲ける大和撫子　

公任本古今和歌集（694）
　あな恋ひし今も見てしが山がつの垣をに咲ける大和撫子

７０４
　みよしのの大川野辺の藤浪の、なみに思はば我こひめやは

元永本古今和歌集
　吉野川大川野辺の藤波のなみに思はばわれこひめやは

公任本古今和歌集（698）
　みよしのの大川野辺の藤波の、なみに思はば我こひめやは

解説右側は
　使用字母

左側のひらがな中漢字の意味の通じるものは漢字で表記

○部分「を」の脱字か
□の字母は「遠」と思われるが

○部分「は」の脱字か
□の字母は「者」と思われるが

初めの二行は第三紙

末尾の二行は第五紙

ページ

「爾」は「尓」とすることも。
「與」は「与」とすることも。
「个」は「介」とすることも。

　　　　　　　　　　　　　　現代語訳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　解釈　　　　　　　　　　解説及び使用字母へ

697
「月夜よし夜よしと人に告げ遣らば、こぞふに似たり待たずしもあらじ」
月夜が良い、今宵は良い夜だと人々に告げ遣れば、ことごとく集まり続けるのに似ている、待たないことも無い。

698
「君来ずは寝屋へも入らじ濃紫、我元結ひに霜は置くとも」
君が来ない内は寝室にも入らないつもりだ、濃い紫の私の元結に霜が降りる事が有ったとしてもね。

699
「宮城野のもたらの小萩露を重み、風を待つ如君をこそ待て」
宮城野で寄り掛る様に垂れている小萩が露を受けて重そうにたわんでいるよ、風を待つが如くに貴方をこそ待とう。

700
「あな恋ひし今も見てしが山がつの垣をに思はる大和撫子」
ああ懐かしい今も見ていたいものだなあ、山里の粗末な家の垣根に思われる大和撫子の花よ。

701
「津の国の難波思はず山城の、永遠に相見むことをのみこそ」
摂津の国の難波は思わないで山城の國で、永遠に共に暮らして行くことばかりをだけ思おう。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　紀貫之

702
「敷島の大和にはあらぬ唐衣、衣へずして逢ふ由もがな」
大和の国には無い唐衣、着物を手に入れなくても逢う手立てが有ったらなあ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清原深養父

703
「恋しとは互い云はめし事ならむ、死ぬとぞ直に言ふべかりける」
恋しいとはお互いに云うのがよい事であろう、死にたいとだけ直接に言うべきであったのだ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　詠み人不明

704
「御吉野の大川野辺の藤浪の、波に思はば我恋めやは」
吉野にある大川の野辺の藤の花が、風に靡いて波打っている様に見えたならば私に恋せよと云うのだろうか。

705
「斯く恋むものとは我も思ひにき、心の占ぞ正しかりける」
このように恋するであろうものとは私も思った、予想は正しかったという事だよ。

706
「天の原踏み轟かし鳴る神も、思ふ仲をば割くるものかは」
大空に鳴り響かせる雷も、親しい仲を引き裂けるものであろうか。否そんなことはないだろう。

697
（今夜は月が美しく見える名月だ、今宵は観月に良い夜だよと人々に知らせてやったならば、人々が悉く集まり続ける様に見える、月の出を待たないと云うことも無い。）との意。

698
（ここへ貴方が来ない間は寝室にも入らないでおきましょう、例え私の濃い紫色の元結が白くチラつく程に霜が置いたとしても。）私は外に立って待っていますよ。との意。

699
（宮城野の野原で露を受けて如何にも重そうにたわんでいる小萩が、露を打ち払う風を待っているかのように私も貴方のことを待っていることとしましょう。）との意。
もた
凭る；寄り掛る。それを支えに身を斜めにする。

700
（ああ懐かしい今でも見ていたいものだなあ、山里の粗末な家の垣根に好ましく咲いていた可憐で淑やかな大和撫子の花=山里の娘子よ。）

てしが；…ていたいものだなあ。完了の助動詞「つ」の連用形「て」に終助詞「しか」の濁音化した「しが」の付いた形で、自己の願望を表す。

701
（摂津の国の難波のことは訪ねようとは思わないでここ山城の國で、永遠に共にひたすら暮らして行くことばかりを考えましょうね。）との意。

702
（日本には無い裾が長く艶やかな唐風の衣服、その着物を手に入れる事が出来なくてもあの人と逢う方法が有ればよかったのになあ。）との意。

敷島の；枕詞。「やまと」に掛る。

703
（離れているとどうしようもなく慕わしく切ない程に心惹かれるとの思いは二人の間だけで云うのがよい事なのでありましょう、片思いの私は死にたいとだけ直接言った方が好かったに違いないでしょう。）との意。

べかりける；…べきだったのだ。…に違いないのだ。助動詞「べし」の連用形「べかり」に過去の助動詞「けり」の連体形「ける」の付いたもの。

704
（藤の花が波立つ様子に見えて花の穂先が手招きするかのように感じたならば、私の心は私に恋せよとでも云っているのでしょうか。）との意。
三句までの「の・の・の」の「の」の繰返しが波打つ様子を連想させ、更にその波立ちが胸騒ぎを、穂先の戻りが手招きを連想させる。

705
（この恋はこのように心苦しい程に恋するであろうものとは、あの時確かに私も思っていた、あの時の恋の予感はやっぱり正しかったのだよ。）との意。
こころ　うら
心の占；心の中での占い。予想。予感。

706
（広々とした大空を踏み鳴らすかのように遠くまで鳴り響かせる雷でも、想い合ってる二人の仲を引き離すことが出来るものであろうか。否出来はしない。）との意。

ものかは；…ものであろうか、否そうではない。ここでは反語の意を表す。形式名詞「もの」に係助詞「かは」。

やまとなでしこ
大和撫子；山野草の名で河原撫子の別名。日本の山野に自生しており、日当たりの良い草原や河原に生える、秋の七草の一つ。細くすらっとした茎の先に白～淡紅色の５弁花で各弁の先端が細く切れ込んだ可愛いらしい花を開く。又、この花は可憐さと凛々しさを兼ね備えた日本女性の美を花に託した美称でもある。

なには
難波；難波の浦=大阪湾の難波の海岸付近は葦の名所でその若葉の美しさは有名。歌枕。

やましろ
山城；旧国名で、畿内五か国のうちの一つ。現在の京都府南部一帯。古くは「山背（もと奈良山の背後の地であったことから）」「山代」とも書いたが桓武天皇の遷都の折、「山城」と改められた。

　しきしま　　　　　　　　　しきぐん　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　すじん　・　きんめい
敷島；大和の国の磯城郡の地（現在の奈良県）。日本書紀に見える記紀伝承上の天皇として崇神・欽明両天皇が都を置いた地である。

きのつらゆき
紀貫之；平安時代前期の歌人で歌学者でもあり、三十六歌仙の一人でもある。歌風は理知的で修辞技巧を駆使した、繊細優美な古今調を代表している。醍醐・朱雀両天皇に仕え、御書所預から土佐守を経て従四位下木工権頭に至る。紀友則らと共に古今和歌集を撰進する。家集に「貫之集」の他、「古今和歌集仮名序」、「大堰川行幸和歌序」、「土佐日記」、「新撰和歌（撰）」などがある。生年868年～没年945年頃

きよはらのふかやぶ
清原深養父；平安中期の歌人で、中古三十六歌仙の一人。清原房則の子で、清原元輔の祖父に当たり、清少納言の曾祖父でもある。官位は内蔵大允、従五位下。家集に深養父集がある。生没年未詳。

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