金沢本万葉集・16（万葉集巻二）

金沢本万葉集　（７寸１分５厘×８寸９分５厘）　　　　　　　　
万葉集・巻二具引唐紙極薄焦茶色『鉄線唐草』第二十二紙（清書用極薄茶色）

極薄茶色（ごくうすちゃいろ）　鉄線唐草（大花唐草）　　

	本文解説へ唐紙の柄は鉄線唐草（大花唐草）２１．６ｃｍｘ２７．１ｃｍ
佐佐木信綱氏の模本です。鉄線の唐草柄を全面にｷﾞﾗ摺りした具引唐紙のものです。柄は殆んど見えておりませんが、手に取ると幽かに確認できます。	水色文字は使用字母、
右日本紀曰三年巳丑、夏四月癸未朔乙未　　　薨　　柿本朝臣人麻呂献泊瀬部皇女忍坂部皇　　子歌一首　并短歌 194 　飛鳥　明日香乃河之　上瀬尓　生玉藻者　下瀬　尓　流觸讓　玉藻成　彼依此　靡相之　嬬乃命　乃　多田名附　柔膚尚乎　釼刀　於身副不寝　　　　　　　　　　　　　　　　　　一云阿礼　者　鴉玉乃　夜床母焦良無　奈　牟　　所虚故　名　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　一云君毛　具鮫魚天　気田敷藻　相屋當念而　相哉登　玉垂乃　越能大野之　旦露尓　玉藻者浸打　夕霧尓　衣者沾而　草枕　旅宿鴨為留　不相　　君故　　反歌一首 195 　敷妙乃　袖易之君　玉垂之　越野直去　又毛將　　　　　　　　　一云乎知野尓　（相八方　）　直奴	みのうし　　　　　みずのとひつじ　　　右は日本紀に曰く三年巳丑、夏四月癸未　　ついたちきのとひつじ　みまか　　　朔乙未、　薨りましきといへり。　　　　　　　　　　　　　はつせべのひめみこ　おさかべのみ　こ　　柿本朝臣人麻呂、泊瀬部皇女忍坂部皇子に　　たてまつ　　　　　　　ならび　　献れる歌一首　并に短歌 194 　　　　　　あすか　　　　　かみ　　　　　を　　　　飛ぶ鳥の明日香の河の上つ瀬に生ふる玉藻は　しも　　　　　　　　ふ　　　　　　　　　　かよ　　か　下つ瀬に流れ觸らふ玉藻なす彼依り此く依り　なび　　　　つま　みこと　　　　　　　　　にきはだ　　　つるぎたち　靡かひし嬬の命の多々なづく柔膚すらを剱刀　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひとつには　　　　そ　　　　　　　うばたま　　よどこ　　あ　　　　一云あ　身に副へ寝ねば鴉玉の夜床も荒るらむ　れなむ　　　　　　なぐさ　　　　　　　　　　　あふ　　おも　そこ故に慰めかねてけだしくも相やと念ひて　一云、君も　　　　　　　をち　　　　　　あさつゆ　相やと　　　玉だれの越の大野の旦露に玉藻は　ひづ　　　　　　　　　ぬれ　　くさまくら　たびね　浸ち夕霧に衣は沾て草枕旅宿かもする　あは　相ぬ君ゆえ　　反歌一首 195 　しきたへ　　　そで　　　　　　　　　　　　をちの　敷妙の　袖かへし君　玉だれの　越野過ぎ行く　　　　　　　　　　　一云越野に　又もあはめやも　過ぎぬ
なび　靡かふ；靡き続ける、しきりに靡く。つま　みこと嬬の命；夫に対して親愛の情を示して言う言葉。通常は妻に対しての語。　た　た　　　　　　　　　多々なづく；幾重にも重なりあう。にきはだ　　柔膚；和膚、やわはだ。やわらかな肌。うばたま　鴉玉の；「黒」、「夜」、「夕」、「月」、「今宵」、「暗き」、「夢」などにかかる枕詞。　しきたへ　　ころも　　そで　　たもと敷妙の；「衣」、「袖」、「袂」、「床」、「枕」、「家」などにかかる枕詞。	ひなみしのみこのみこと右とは日並皇子尊のこと。ひとつにはひとつ　い一云；一に云はく、或いは一つに云ふ。　う　　　　　　　　　うばたま　　　　　ぬばたま鴉；烏、からす。「烏羽玉の」、「射干玉の」に同じ　な　ぐさめかねて　　　　　　・名具鮫魚天；名具鮫兼天とする説も多い。

　　　　　　　　　　　　　　　
拡大図　鉄線唐草（極薄茶色）　　