金沢本万葉集・17（万葉集巻二）

金沢本万葉集　（７寸１分５厘×８寸９分５厘）　　　　　　　　
万葉集・巻二具引唐紙灰緑色『菱唐草』第三十一紙（清書用極薄茶色）

灰緑色（はいみどりいろ）　菱唐草（大菱唐草）　　

	本文解説へ唐紙の柄は菱唐草（大菱唐草）２１．６ｃｍｘ２７．１ｃｍ
日本古典文学会の模本です。大菱の唐草柄を全面にｷﾞﾗ摺りし、金銀切箔を施した具引唐紙のものです。光を当てた状態で中央に見えている程度と為ります。	水色文字は使用字母、
498 　いまのみの　のとにはあらぬ　いにしへの、　ひとにまさりて　ねにさへなきし 499 　百重二物　来及毳常　念鴨、君之使乃　雖見不飽有武　ももへにも　きしかれかもと　おもふかも、　きみがつかひの　みれどあかざらむ　　　碁檀越往二伊勢國一時、留妻作歌一首 500 　神風之　伊勢乃濱荻　折伏、客宿也將為　荒濱邊尓　かみかぜの　いせのはまをぎ　をりふせて、　たびねやすらむ　あらきはまべに　　　柿本朝臣人麿歌三首 501 　未通女等之　袖振山乃　水垣之、久時従　憶寸吾者　をとめらが　そでふるやまの　みづがきの、ひさ　しきよより　おもひきわれは 502 　夏野行　小牡鹿之角乃　束間毛、妹之心乎　忘而念哉　　なつのゆく　をしかのつのの　つかのまも、いもが　こころを　わすれておもふや	498 　以万能美乃　々止耳者安良奴　以爾之部能、　比止耳万左利天　禰爾佐部奈幾之 499　　　　　き　し　　　　　　　おもふ　百重にも来及かぬかもと念かも、君が使の見れど　飽かざらむ　毛々部耳毛　幾之可礼可毛止　於毛不可毛　幾美可川可比乃　美礼止安可左良武　　　ごのだにをち　　　　　　　　　　　　　とどま　　　碁檀越の伊勢國に往きし時、留れる妻の　　　作れる歌一首 500 　かむかぜ　　　　　はまをぎ　　　　　　　　たびね　神風の伊勢の濱荻折り伏せて、客宿やすらむ　荒き浜辺に　可美可世能　以世能者万遠支　遠利不世天、　多比禰也寸良无　安良幾者万部爾　　　柿本朝臣人麻呂の歌三首 501 　　を　と　め　ら　　そでふるやま　　　　　　　　　　　　　おもひ　未通女等が袖振山の水垣の、久しき時より憶し吾は　遠止女良可曾天布留也末能美川可幾能、比左　之幾与々利　於毛比幾和礼波 502　　　　　　をじか　　つの　夏野行く小牡鹿の角の束の間も、妹が心を忘て念へや　奈川能由久遠之可能川乃々川可能万毛,以毛可　己々呂遠　和寸礼天於毛不也
ね　哭にさへ泣く；心に訴えてくるような声にして泣く。音に泣く。　き　し来及く；しきりに来る。重ねて来る。はまをぎ　　　　　　　　　濱荻；浜辺に生えている荻。ススキに似るイネ科の多年草、高さ約１．５ｍ。たびね客宿；家を離れて寝ること。旅の宿り。旅寝。そでふるやま　　袖振山；奈良県吉野山の背後にあるとする山。みづがき　水垣の；瑞垣の、「久し」にかかる枕詞。	そでふるやま袖振山天武天皇が吉野宮で日暮れに琴を弾じ、「乙女ども乙女さびすも唐玉を、袂にまきて乙女さびすも」と歌うと、雲中に現れた女神が歌曲に応じて袖を翻して5回舞ったと伝えられる。後世の五節の舞の起源となる。瑞垣；神霊の宿る山、森などの周囲に木をめぐらした垣。神社の周囲の垣　ま万；使用時母「末」とも「万」ともとれる崩し方。

　　　　　　　　　　　　　　　
拡大図　菱唐草（灰緑色）　　