金沢本万葉集・18（万葉集巻二）

金沢本万葉集　（７寸１分５厘×８寸９分５厘）　　　　　　　　
万葉集・巻二具引唐紙極薄焦茶色『孔雀唐草』第三十二紙（清書用極薄茶色）

極薄茶色（ごくうすちゃいろ）　孔雀唐草　　

	本文解説へ唐紙の柄は孔雀唐草２１．６ｃｍｘ２７．１ｃｍ
佐佐木信綱氏の模本です。鉄線の唐草柄を全面にｷﾞﾗ摺りした具引唐紙のものです。柄は殆んど見えておりませんが、手に取ると幽かに確認できます。	水色文字は使用字母、
507 　しきたへの　まくらをくくる　なみだこそ　　うきねをしける　こひのしげさに　　　三方沙彌歌一首　并短歌 508 　衣手乃　別今夜従　妹毛吾毛、　甚恋名　相因乎無美　ころもでの　わくこよひより　いももわれも、いと　もこひしな　あふよしをなみ　　　丹比眞人笠麿下筑紫國時作歌一首并短歌 509 　臣女乃　函尓乗有　鏡成、　見津乃濱邊尓　狭丹　頬相、　紐解不離　吾妹児尓、　恋乍居者　明晩乃、　旦霧隠　鳴多須乃、　哭事之所哭　吾恋流、　千重　乃一襌母　名草漏、　情毛有哉　家當、　吾立見　者　青旗乃、　葛城山尓　多奈引流、　白雲隠　天佐　我留、　夷乃國邊尓　直向、　淡路乎過　粟嶋乎、　背　尓見管　朝名寸二、　水手之音嚏　憂名寸二、　梶　　之響為乍　浪上乎、　韋行左具久美　磐間乎、　射往廻　稲日都麻　浦箕乎過而　鳥自物　無浦　（左比去者　家乃嶋　荒磯之宇倍尓　打靡　四時二　　生者　名莫告我　奈騰可聞妹尓　不告来二計謀　）	507 　之幾多部能　末久良遠久々留　奈美多己曾、　宇幾禰遠之介留　己比能之計左仁　　みかたの　さ　み　　三方沙弥の歌一首　 508 　　ころもで　　わ　こよい　　　いも　わ　　衣手の別く今夜より妹も吾も、いたく恋ひしな　　　　よし　あふ因をなみ　己呂毛天乃和久己与比与利以毛々和礼毛、　以止毛己比之奈　安不与之遠那見　　たぢひのまひと　かさ　ま　ろ　　つくしのくに　　丹比眞人笠麻呂、筑紫國に下りし時作れる歌　　　　　ならび　　一首并に短歌 509 　をみのめ　　くしげ　　　　　　　　　　　　　み　つ　臣女の　櫛笥に乗れる　鏡なす、見津の濱邊に　　に　　　　　ひぼ　　　さ　　　　わぎもこ　さ丹つらふ、紐解き離けず　吾妹子に、　　　　　　を　　　　あけぐれ　　　　　がく　　　　たづ　恋つつ居れば　明晩の、朝霧隠り　鳴く鶴の、　ね　　　　な　　　わが　　　　　ち　へ　　　　　　なぐさ　哭のみし哭かゆ吾恋ふる、千重の一重も慰もる　こころ　　情もありや　家の辺り、吾立ち見れば　青旗の、　かつらぎやま　　　　　　　　　　　　　　　　あま　葛城山に　棚引ける、白雲隠る　天ざかる、　ひな　　　　　　　ただむか　夷の國邊に　直向ふ、淡路を過ぎて　粟島を、　　　　　　　　　　　　　　　か　こ　背に見つつ　朝なぎに、水手の聲よび　夕凪に、　かぢ　　　　　　　　　　へ　楫の音しつつ　波の上を、い行きさぐくみ岩の間を　　　　　　　　　いなび　つ　ま　　うらみ　　　　　　とり　い行き廻れる稲日都麻、浦廻を過ぎて鳥じもの、　　　　　　　　　　　　　　　　　ありそ　　　　　　　　なび　なづ（さひ行けば家の島、荒磯の上に　打ち靡き、　しじ　　を　　　　　　なのりそ　繁に生ふるは　莫告藻が、などかも妹に　　の　告らず来にけむ）
くしげ　函；=櫛笥、櫛などの化粧道具を入れておく箱。　に　　にいろさ丹；丹色、赤色。（さ）は接頭語。　あさぎりがく　　　　　　　　　朝霧隠り；朝霧の中に隠れて見えぬ様子。朝霧籠りとも。　か　こ　　水手；舟をこぐ者、水夫。船乗り。ひな　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　えびす夷；都から離れて、支配の及んでいない未開の地。又その住民。夷とも。　とり鳥じもの；鳥のように。鳥が飛び立ち、或いは水に浮かぶ様子から、　　　　　　　　　　　　「立つ」、「浮く」、「なづさふ」などの助詞とする。　し　じ四時；春・夏・秋・冬の四つの時。年がら年中。　　　　晦・朔・弦・望のひと月の中の四つの時。　　　　朝・昼・暮・夜の一日の中の四つの時。　なのりそ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　な　の莫告藻；海藻のホンダワラの古称。「名」、「名告る」にかかる助詞として用いる。	（　）は次項にあり。あわしま　　　　　いざなぎのみこと　　いざなみのみこと粟島；淡島。伊弉諾尊、伊弉冉尊が生んだとされる　　　　　　　すくなびこなのかみ　島。また、少彦名神がそこから常世の国に渡った島。なづさふ；水に浸かる。水に漂う。

　　　　　　　　　　　　　　　
拡大図　孔雀唐草（極薄茶色）　　