巻子本「桂本万葉集」(8寸8分8厘×27尺9寸4分  戻る 『桂本万葉集』巻子本 一覧へ 

   金銀泥下絵万葉集(巻第四残巻) (両面加工)昭和初期の模写本

この巻子本、巻頭と巻末が切取られているが、芳春院尼によってその献上先と成っておるのが、関白秀次公である。豊臣秀吉の養子で聚楽亭の主である。子のない秀吉の世継ぎであったが、後年茶々に秀吉の子が出来ると、石田三成によって高野山に幽閉され、自害に追いやられることになる。不遇の運命を遂げるが、古筆には特に熱心で、烏丸光弘の弟子平沢弥四郎(平沢了佐、後の古筆了佐)に古筆の姓を送り「琴山」の金印を与えて、古筆鑑定の極印とし、古筆家の創設を許した人物。

写真では金銀の下絵が輝いておりませんが、文字を見易くする為です。ご了承下さい。(手に取ればちゃんと金銀に輝いて見えます。)

第一紙 桂本万葉集(桂万葉集)
       灰青緑   
    
 古筆臨書 巻子本 『桂本万葉集』 第一紙 (次へ)  
縦26.9cmx横49.7cm 
拡大図
桂本万葉集

第一紙


清書用 臨書用紙 『桂本万葉』 第一紙

清書用臨書用紙
 第一紙
 第一紙 桂本万葉集(桂万葉集)

529
 佐保河乃 涯之官能 少歴木莫苅 焉在
 乍毛張之來者 立隠金
                  
寧楽宮即
天皇賜海上女王御歌一首位天皇也 

530
 赤駒之 越馬柵乃 緘結師 妹情者 疑毛奈思

 あかこまの こゆるむまおりの しめゆひし
 いもがこころは うたがひもなし

  右今案此歌擬古之作也。但以
時當便
  賜
斯歌歟。

海上□王奉
和歌一首志貴皇子之女也
531

 梓弓 爪引夜音之 遠音爾毛 君之御幸
 乎 聞之好毛

 あづさゆみ つめひくよとの とほとにも
 きみがみゆきを きくはうれしも

                
佐保大納言卿之
大伴宿奈麻呂宿禰歌二首
第三子也 
532
 打日指 宮爾行児乎 眞悲見 留者苦聴
 去者為便無

 うちひさす みやにゆくこを まがなしみ
 とむればくるし やればすべなし
533
 難波方 鹽干之名凝 飽左右二 人之見
 児乎 吾四乏毛

 なにはがた しほひのなごり あくまでに
 ひとのみるこを われしともしも

安貴王歌一首
并短歌
534
 遠嬬此間不在者玉桙之道乎多遠見思
 空 安莫國嘆慮不安物乎水空往雲爾毛
 欲成 高飛鳥爾毛欲成明日去而於妹
 言問為吾 妹毛事無為妹吾毛事無
 久 今裳見如副而毛欲得
 
529
 
佐保河の 岸のつかさの 柴な苅 そね在り
 つつも春の来らば 立ち隠るがね
    
うなかみ
天皇、海上の大君に賜へる御歌一首
 寧楽宮即位の天皇也

530
 
赤駒の越ゆる馬柵の緘結ひし、妹が情は疑ひも無し

 
安可己末能 己由留武末於利乃 之女由悲志
 以毛可己々呂波 宇多可比毛奈之


  右は今案ずるに、此の歌は擬古の作なり。但し、時の当
  たれるを以て、すなわちこの歌を賜へるか。

うなかみ

海上の大君に(返へて)奉れる和歌一首
志貴皇子の女也
531
 
梓弓爪引く夜音の遠音にも、君が御幸を聞くし好も

 
安川左由美 川女比久與止乃 止保止仁无
 幾美可美由支遠 幾久波宇礼之毛


 おおとものすくなまろすくね
大伴宿奈麻呂宿禰の歌二首
佐保大納言卿の第三子なり
532
 打ち日さす宮に行く児を真悲しみ、留むれば苦し
 遣ればすべ無し

 
宇知悲左数 美也爾由久己遠 末可奈之美
 止武礼波久留之 也礼者須部奈志

533

 難波潟潮干の名残り飽くまでに、人の見る児を吾し乏しも

 
那爾者可太 之保比乃奈己利 安久末天仁
 比止乃美留己遠 和礼之止毛之无

あきのおおきみ
安貴王の歌一首 並びに短歌
534
 遠嬬の此処に在らねば、玉桙の道をた遠み、思ふ空
 安けなくに、嘆くそら安からぬものを、美空行く雲にもがも、
 高飛ぶ鳥にもがも、明日行きて妹に言問ひ、吾為に
 妹も事無く、妹がため吾も事無く、
 今も見しごと副ぐひてもがも


                                                 ページトップ アイコン


529にはかな(女手)解説が添えられていません。


漢文調の万葉仮名の部分は非常に難解である。
漢字として読む部分と、仮名として読む部分とが入り乱れて作られている。

水色文字はかな部分の使用字母



□は「女」の脱字部分か






























第二紙 桂本万葉集(桂万葉集)
淡茶
古筆臨書 巻子本 『桂本万葉集』 (第二紙) (次へ)
縦26.9cmx横49.7cm
拡大図 
桂本万葉集


第二紙


清書用 臨書用紙 『桂本万葉』 第二紙
 
清書用臨書用紙
 第二紙
 第二紙 桂本万葉集(桂万葉集)


反歌
535
 敷細乃 手枕不纏 間置而 年曾經來 不
 相念者

 しきたへの たまくらまかず へだておきて
 としぞへにける あわじとおもへば


  右、安貴王娶
因幡八上采女、係念極甚、愛
  情尤盛。於
時勅断不敬之罪、退却本郷
  焉。干
是王意、悼怛聊作此歌





門部王恋歌一首

536
 飫宇能海之 鹽干乃鹵之 片念爾 思哉
 將去 道之永手呼

 おうのうみの しほひのかたの かたおもひ
 に おもひやるかも みちのながてに


  右、門部王任出雲守時部内娘子也。未
  有
幾時、既絶往來。累月之後、更起
  心
。仍作此歌致娘子

高田女王贈
今城王歌六首

537
 事清 甚毛莫言 一日太爾 君□之哭者
 痛寸取勿
538
 他辭乎 繁言痛 不相有寸 心在如莫 思
 吾背子

 ひとごとを しげみこちたみ あはざれば
 こころあるごと おもふなわがせ

539
 吾背子師 遂常云者 人事者 繁有登
 毛 出而相麻志乎

 わがせこし とげむといはば ひとごとは し
 げるありとも いでてあはましを

540
 吾背子爾 復者不相香常 思墓 今朝
 (別之 為便無有都流)


反歌
            
あいだ                おも
 敷妙の手枕纏かず間置きて、年ぞ経にける逢わず念へば

 
之支太部乃 多末久良末可数 部多天於支天
 止之曾部爾計留 安者之止於无部波


      
あきのおおきみ       うねめ  めと   かかるおもひ
  右は、安貴王因幡の八上采女を娶りて、係念極めて

  甚だしく愛情尤も盛んなり。時に勅して不敬の罪に断め、
                         
い た   いささ
  却って本郷に退かしむ。ここに王の意、悼怛みて聊か

  この歌を作る也

かどべのおおきみ
門部王の恋の歌一首

536 お う     しほひ     かたもひ
 飫宇の海の潮干の潟の片念ひに、
 思いや行かむ道の長手を


 
於宇乃宇美能 之保悲乃可多能 可太於无比
 仁 於无比也留可毛 美知乃奈可天仁


  右は、門部王が出雲守に任せられし時、部内の娘子を
  娶るなり。いまだ幾時有らずして、既に往来を絶ちき。
  月を累ぬるの後、更愛しむ心を起し、依りてこの歌を作りて
  娘子に贈り致しき。

高田女王の今城王に贈れる歌六首

537            ひとひ
 言清くいともな言ひそ一日だに、君いし無くは堪へ難きかも

538
  ひとごと
     こちた
 他辞を繁み言痛み逢はざりき、心あるごとな思ひ吾背子

 
比止己止遠 之計美己知多美 安者左礼者
 己々呂安留己止 於无不那和可世


539
 吾背子し遂げむと云はば人事は、
 繁くありとも出でて逢はましを

 
和可世己之 止个武止以波々 比止己止波之
 計久安利止毛 以天々安者末之遠

540
     また
 吾背子に復は逢わじかと思へばか、今朝の
 (別れのすべなかりつる)



                                                 ページトップ アイコン
水色文字は
かな部分の使用字母
























かさ
累ぬる;
年月を経る





□部分は不明文字















ここの( )は第三紙に在り

                              第三紙 桂本万葉集(桂万葉集)
                                        淡茶
古筆臨書 巻子本 『桂本万葉集』 (第三紙) 
                                  縦26.9cmx横49.7cm
 桂本万葉集


  第三紙



清書用 臨書用紙 『桂本万葉』 第三紙

 清書用臨書用紙
   第三紙
 第三紙 桂本万葉集(桂万葉集) 



 別之為便無有都流

 わがせこに またはあはじと おもへばか
 けさのわかれの すべなかりつる
541
 現世爾波 人事繁 來生爾毛 將相吾背
 子 今不有十方

 このよには ひとことしげし こむよにも あ
 はむわがせこ いまならずとも

542
 常不止 通之君我 使不來 今者不相跡
 絶多比奴良思

 とことはに かよひしきみが つかひこず い
 まはあはじと たゆたひぬらし


神亀元年甲子冬十月、幸紀伊國之時為贈従駕人
所誂娘子作歌一首
并短歌      笠朝臣金村

543
 天皇之行幸乃随意物部乃 八十伴雄興出

 去之 愛夫者天翔哉 輕路従玉田次 畝火

 乎見管麻裳吉 水道爾入立眞土山 越良

 武公者黄葉乃 散飛見乍親 吾者不念

 草枕 客乎便宜常思乍 公將有跡安蘇

 々二破 旦者雖知之加須我仁 黙然得不

 在者吾背子之 往乃萬々將追跡者 千

 遍雖念乎弱女 吾身之有道守之 將問

 答乎言將遣 為便乎不知跡立而爪衝


反歌
544
 後居而恋乍不有者木國乃妹背乃山
 爾有盆物乎

 おくれゐて こひつつあらずは きのくに
 の、いもせのやまに あらましものを
545
 吾背子之跡履求追去者木乃關守
 伊將留鴨

 わがせこが あとふみもとめ おひゆかば
 (きのせきもりや とどめてむかも)


 
 (吾背子に復は逢わじかと思へばか、今朝の)
 別れのすべなかりつる

 
和可世己仁 末多波安者之止 於无部者可
 計左乃和可礼乃 春部那可利徒留

541

 
このよ            
 現世には人言繁し来む生にも、逢はむ吾背子
 今ならずとも

 
己乃與爾波 比止己止之計志 己武與仁无 安
 波武和可世己 以末那良春止毛


542
                         たゆた
 常止まず通ひし君が使ひ来ず、今は逢はじと揺蕩ひぬらし

 
止己止波爾 可與比之支美可 川可比己数 以
 末者安波之止 多由太悲奴良之


                    
いでま    みとち
神亀元年甲子冬十月、紀伊国に幸しし時、従駕の人に贈らむが為に、娘子に誂へられて作れし歌一首 並びに短歌
                          笠朝臣金村
543
     
みゆき      もののふ   やそとも    
 大君の行幸のまにま物部の、八十伴の男と出で行きし
 
うるは つま  あま                  うねび
 愛し夫は天飛ぶや、軽の路より玉だすき、畝火を見つつ
 
あさも     き じ                    もみぢば
 朝裳よし、紀路に入立ち真土山、越ゆらむ君は黄葉の、
           
むつま
 散り飛ぶ見つつ親しみ、吾は思はず草枕、旅を宜しと

 思ひつつ、君はあらむとあそそには、且つは知れどもしかすがに
 
 だ も                ゆき
 黙然も得あらねば吾背子が、往のまにまに追はむとは、
 
 ちたび     たわやめ
 千遍思へど手弱女の、吾身にしあれば道守の、
                           
つまづ
 問はむ答を言ひ遣らむ、すべを知らにと立ちて躓く。

反歌
544
 後れ居て恋つつあらずは紀国の、妹背の山にあらましものを

 
於久礼為天 己比川々安良須者 幾乃久仁
 乃、以毛世能也末仁 安良末之毛乃遠


545
       
 吾背子が跡履み求め追ひ行かば、紀の関守や
 留めてむかも

 
和可世己可 安止不美毛止女 於悲由可波
 (幾乃世支毛利也 止々女天武可无)




                                                            ページトップ アイコン



ここの( )は第十紙に在り


水色文字はかな部分の使用字母














 みちと
従駕;(じゅうが)
行幸に従って行くこと。


あとら

誂ふ;
頼みかける。誘いかける。




























ここの( )は第四紙に在り






                      第四紙 桂本万葉集(桂万葉集)
古筆臨書 巻子本 『桂本万葉集』 (第四紙)  
                                 縦26.9cmx横49.7cm
 桂本万葉集


  第四紙




清書用 臨書用紙 『桂本万葉』 第四紙

 清書用臨書用紙
   第四紙
  第四紙 桂本万葉集(桂万葉集)


きのせきもりや とどめてむかも

二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子作歌
一首并短歌      笠朝臣金村
546
 三香之原客之屋取爾 珠桙乃道能去相

 爾 天雲之外耳見管 言將問縁乃無者 情

 耳咽乍有爾 天地神祇辭因而 敷細乃衣

 手易而 自妻跡憑有今夜 秋夜之百夜

 乃長有興宿鴨

反歌
547
 天雲之 外従見 吾妹児爾 心毛身副 縁
 西鬼尾

 あまぐもの よそにみしより わぎもこに
 こころもみさへ よりにしものを
548
 今夜之 早開者 為便乎無三 秋百夜乎
 願鶴鴨

 こよひのや はやくあくれば すべをな
 み あきのももよを ねがひつるかも

五年戊辰 太宰少貳石川足人朝臣遷任餞
筑前國蘆城驛家
歌三首
549
 天地之 神毛助興 草枕 羈行君之 至家左右

 あめつちの かみもたすけよ くさまくら
 たびゆくきみが いへにいたるまで
550
 大船之 念憑師 君之去者 吾者將恋名
 直相左右二

 おほふねの おもひたのみし きみがいなば
 われはこひむな ただにあふまでに
551
 山跡道之 嶋乃浦廻爾 縁浪 間無牟
 吾恋巻者

 やまとぢの しまのうらわに よするなみ
 あひだもなけむ わがこひまくは 



 
 (和可世己可 安止不美毛止女 於悲由可波)
 幾乃世支毛利也 止々女天武可无


二年乙丑春三月、三香原離宮に幸しし時、娘子を得て作れる歌一首並びに短歌      笠朝臣金村
546
 
 みか
 三香の原旅の宿りに、珠桙の道の行きあひに、
 
あまぐも  よそ              よし
 天雲の外のみ見つつ、言問はむ縁の無ければ、
 
こころ            あめつち かみ こと
 情のみ咽せつつあるに、天地の神祇辞よせて、
          
    おのづま      こよひ
 しきたへの衣手易へて、自妻とたのめる今夜
       
ももよ
 秋の夜の百夜の長くありこせぬかも

反歌
547            わぎもこ          
 天雲の外に見しより吾妹子に、心も身さへ縁りにしものを

 
安末久毛乃 與曾仁美之與利 和支无己仁
 己己呂无美左部 與利爾之毛乃遠

548

 今夜の早く明けなば術をなみ、秋の百夜を願ひつるかも

 
己與比乃也 者也久安久礼波 春部遠那
 美 安支能毛々與遠 禰可比川留可毛


        
だざいのしょうに    たりひとあさおみ  うつ   
五年戊辰、太宰少弐石川足人朝臣の遷さゆるに、筑前國
 あしき  うまや  はなむけ
蘆城の驛家に餞せる歌三首

549
 天地の神も助けよ草枕、旅行く君が家に至るまで

 
安女川知乃 可美毛多春計與 久散末久良
 多比由久支美可 以部仁以太留末天


550
   おもひ                   ただ
 大船の念たのみし君がいなば、吾は恋なむ直逢ふまでに

 
於保不禰乃 於毛比多乃美之 支美可以那者
 和礼波己悲武奈 太々仁安不末天仁

551

  
やまとぢ     うらみ        あいだ     わがこひ
 大和道の嶋の浦廻によする浪、間も無けむ吾恋まくは

 
也末止知能 之末乃宇良和爾 與春留那美
 安比多无奈个武 和可己悲末久盤



                                                            ページトップ アイコン
ここの( )は第十紙に在り


水色文字はかな部分の使用字母









































うらみ

浦廻;(浦曲)
海岸の曲がって入り込んだ所。うらわ。




                          第五紙 桂本万葉集(桂万葉集)
古筆臨書 巻子本 『桂本万葉集』 (第五紙) 
                                  縦26.9cmx横49.7cm

 桂本万葉集


  第五紙



清書用 臨書用紙 『桂本万葉』 第五紙

 清書用臨書用紙
   第五紙
  第五紙 桂本万葉集(桂万葉集)



  右三首作者未詳

大伴宿禰三依歌一首
552
 吾君者 知気乎波死常 念可毛、相夜
 不相夜 二走良武

 わがきみは わけをはしねと おもふかも、あ
 ふよあはぬよ よませなるらむ


丹生女王贈太宰師大伴卿歌二首
553
 天雲乃 遠隔乃極 遠鶏跡裳 情志行者
 恋流物可聞

 あまぐもの へだてのきはめ とほけども
 こころしゆけば こふるものかも

554
 古 人乃令食有 吉備能酒 痛者為便
 無 貫簀賜牟

 いにしへの ひとののませる きびのさけ や
 もはばすべな ぬきすたまはむ


太宰師大伴卿贈大貳丹比縣守卿遷任民部卿歌一首

555
 為君 醸之待酒 安野爾 獨哉將飲 友無二
 思手

 きみがため したみしさけを やすののに
 ひとりやのまむ ともなしにして
                     
故左大臣長屋
賀茂女王贈大伴宿禰三依歌一首 王之女也

556
 筑紫船 未毛不來者 豫 荒振公乎 見之悲左

 つくしぶね またもこざれば かねてより
 あらぶるきみを みしがかなしさ


土師宿禰水道、従筑紫上京海路作歌二首

557
 大船乎 榜乃進爾 磐爾觸 覆者覆 妹爾因而者

 おほぶねを こぎのすすみに いはにふれ
 かへらばかへれ いもによりては

558
 千磐破神之社爾我挂師幣者將賜妹
 爾不相國

 
                つまびらか
  右の三首の作者は未だ詳ならず
 おおとものすくね みより
大伴宿禰三依の歌一首
552
 吾君はわけおば死ねと思へかも、逢ふ夜
 逢はぬ夜二つ行くらむ

 
和可支美波 和个遠波之禰止 於无不可毛、安
 不與安者奴與 々末世那留良武

 にふのおほきみ
丹生女王、太宰師大伴卿に贈れる歌二首
553    そく へ          こころ
 天雲の遠隔の極み遠けども、情し行けば恋ふるものかも

 
安末久毛乃 部多天乃支波女 止保个止无
 己々呂之由計者 己不留毛乃可毛


554        をし
 いにしへの人の食たる吉備の酒、病めばすべ無し
 
 ぬきす
 貫簀賜はむ

 
以爾之部乃 比止乃々末世留 支比乃左計 也
 毛波々春部那 奴支数太末者武


          
 だいに たぢひのあがたもり         まけうつ
太宰師大伴卿、大貳丹比縣守卿の民部卿に任遷さゆるに贈れる歌一首
555                 ひとり
 君がため醸みし待ち酒安の野に、独や飲まむ友無しにして

 
支美可多女 之多美志左計遠 也春乃々仁
 比止利也乃末武 止毛奈之仁之天


賀茂女王、大伴宿禰三依に贈れる歌一首 故左大臣長屋
                          
王の女なり

556     いま      あらかじ 
 筑紫船未だも来ねば予め、荒ぶる君を見るが悲しさ

 
川久之不禰 末多无己左礼波 可禰天與利
 安良不留支美遠 美之可々奈之散

 はにし    み みち 
土師宿禰水道、筑紫より京に上る海路にて作れる歌二首

557                 かへ
 大船をこぎの進みに磐に触れ、履らばかへれ妹によりては

 
於保不禰遠 己支乃須々美爾 以者爾不禮
 加部良波可部礼 以毛仁與利天波


558
                 ぬさ 
 ちはやぶる神の社に我掛けし、幣は賜ばらむ
 妹に逢はなくに


                                                            ページトップ アイコン

水色文字はかな部分の使用字母












 をし
「食」、食ること・飲むこと・着ることの
尊敬語


 
たま
「賜はむ」を
  た
「賜ばらむ」と読むこともある





















古筆臨書 巻子本 『桂本万葉集』 第一紙


古筆臨書 巻子本 『桂本万葉集』 第二紙


古筆臨書 巻子本 『桂本万葉集』 第三紙

古筆臨書 巻子本 『桂本万葉集』 第四紙


古筆臨書 巻子本 『桂本万葉集』 第五紙