第二紙 桂本万葉集(桂万葉集)
淡茶
縦26.9cmx横49.7cm
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拡大図
桂本万葉集
第二紙
清書用臨書用紙
第二紙 |
第二紙 桂本万葉集(桂万葉集)
反歌
535
敷細乃 手枕不纏 間置而 年曾經來 不
相念者
しきたへの たまくらまかず へだておきて
としぞへにける あわじとおもへば
右、安貴王娶二因幡八上采女一、係念極甚、愛
情尤盛。於レ時勅断二不敬之罪一、退二却本郷一
焉。干レ是王意、悼怛聊作二此歌一也
門部王恋歌一首
536
飫宇能海之 鹽干乃鹵之 片念爾 思哉
將去 道之永手呼
おうのうみの しほひのかたの かたおもひ
に おもひやるかも みちのながてに
右、門部王任出雲守時娶二部内娘子一也。未レ
有二幾時一、既絶二往來一。累レ月之後、更起二愛
心一。仍作二此歌一贈二致娘子一。
高田女王贈二今城王一歌六首
537
事清 甚毛莫言 一日太爾 君□之哭者
痛寸取勿
538
他辭乎 繁言痛 不相有寸 心在如莫 思
吾背子
ひとごとを しげみこちたみ あはざれば
こころあるごと おもふなわがせ
539
吾背子師 遂常云者 人事者 繁有登
毛 出而相麻志乎
わがせこし とげむといはば ひとごとは し
げるありとも いでてあはましを
540
吾背子爾 復者不相香常 思墓 今朝
(別之 為便無有都流)
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反歌
あいだ おも
敷妙の手枕纏かず間置きて、年ぞ経にける逢わず念へば
之支太部乃 多末久良末可数 部多天於支天
止之曾部爾計留 安者之止於无部波
あきのおおきみ うねめ めと かかるおもひ
右は、安貴王因幡の八上采女を娶りて、係念極めて
甚だしく愛情尤も盛んなり。時に勅して不敬の罪に断め、
い た いささ
却って本郷に退かしむ。ここに王の意、悼怛みて聊か
この歌を作る也
かどべのおおきみ
門部王の恋の歌一首
536 お う しほひ かたもひ
飫宇の海の潮干の潟の片念ひに、
思いや行かむ道の長手を
於宇乃宇美能 之保悲乃可多能 可太於无比
仁 於无比也留可毛 美知乃奈可天仁
右は、門部王が出雲守に任せられし時、部内の娘子を
娶るなり。いまだ幾時有らずして、既に往来を絶ちき。
月を累ぬるの後、更愛しむ心を起し、依りてこの歌を作りて
娘子に贈り致しき。
高田女王の今城王に贈れる歌六首
537 ひとひ
言清くいともな言ひそ一日だに、君いし無くは堪へ難きかも
538
ひとごと こちた
他辞を繁み言痛み逢はざりき、心あるごとな思ひ吾背子
比止己止遠 之計美己知多美 安者左礼者
己々呂安留己止 於无不那和可世
539
吾背子し遂げむと云はば人事は、
繁くありとも出でて逢はましを
和可世己之 止个武止以波々 比止己止波之
計久安利止毛 以天々安者末之遠
540 また
吾背子に復は逢わじかと思へばか、今朝の
(別れのすべなかりつる)
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ページ
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水色文字は
かな部分の使用字母
かさ
累ぬる;
年月を経る
□部分は不明文字
ここの( )は第三紙に在り
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第三紙 桂本万葉集(桂万葉集)
淡茶
縦26.9cmx横49.7cm
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桂本万葉集
第三紙
清書用臨書用紙
第三紙 |
第三紙 桂本万葉集(桂万葉集)
別之為便無有都流
わがせこに またはあはじと おもへばか
けさのわかれの すべなかりつる
541
現世爾波 人事繁 來生爾毛 將相吾背
子 今不有十方
このよには ひとことしげし こむよにも あ
はむわがせこ いまならずとも
542
常不止 通之君我 使不來 今者不相跡
絶多比奴良思
とことはに かよひしきみが つかひこず い
まはあはじと たゆたひぬらし
神亀元年甲子冬十月、幸紀伊國之時為贈従駕人
所誂娘子作歌一首并短歌 笠朝臣金村
543
天皇之行幸乃随意物部乃 八十伴雄興出
去之 愛夫者天翔哉 輕路従玉田次 畝火
乎見管麻裳吉 水道爾入立眞土山 越良
武公者黄葉乃 散飛見乍親 吾者不念
草枕 客乎便宜常思乍 公將有跡安蘇
々二破 旦者雖知之加須我仁 黙然得不
在者吾背子之 往乃萬々將追跡者 千
遍雖念乎弱女 吾身之有道守之 將問
答乎言將遣 為便乎不知跡立而爪衝
反歌
544
後居而恋乍不有者木國乃妹背乃山
爾有盆物乎
おくれゐて こひつつあらずは きのくに
の、いもせのやまに あらましものを
545
吾背子之跡履求追去者木乃關守
伊將留鴨
わがせこが あとふみもとめ おひゆかば
(きのせきもりや とどめてむかも)
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(吾背子に復は逢わじかと思へばか、今朝の)
別れのすべなかりつる
和可世己仁 末多波安者之止 於无部者可
計左乃和可礼乃 春部那可利徒留
541
このよ よ
現世には人言繁し来む生にも、逢はむ吾背子
今ならずとも
己乃與爾波 比止己止之計志 己武與仁无 安
波武和可世己 以末那良春止毛
542 たゆた
常止まず通ひし君が使ひ来ず、今は逢はじと揺蕩ひぬらし
止己止波爾 可與比之支美可 川可比己数 以
末者安波之止 多由太悲奴良之
いでま みとち
神亀元年甲子冬十月、紀伊国に幸しし時、従駕の人に贈らむが為に、娘子に誂へられて作れし歌一首 並びに短歌
笠朝臣金村
543
みゆき もののふ やそとも を
大君の行幸のまにま物部の、八十伴の男と出で行きし
うるは つま あま うねび
愛し夫は天飛ぶや、軽の路より玉だすき、畝火を見つつ
あさも き じ もみぢば
朝裳よし、紀路に入立ち真土山、越ゆらむ君は黄葉の、
むつま
散り飛ぶ見つつ親しみ、吾は思はず草枕、旅を宜しと
思ひつつ、君はあらむとあそそには、且つは知れどもしかすがに
だ も ゆき
黙然も得あらねば吾背子が、往のまにまに追はむとは、
ちたび たわやめ
千遍思へど手弱女の、吾身にしあれば道守の、
つまづ
問はむ答を言ひ遣らむ、すべを知らにと立ちて躓く。
反歌
544
後れ居て恋つつあらずは紀国の、妹背の山にあらましものを
於久礼為天 己比川々安良須者 幾乃久仁
乃、以毛世能也末仁 安良末之毛乃遠
545 ふ
吾背子が跡履み求め追ひ行かば、紀の関守や
留めてむかも
和可世己可 安止不美毛止女 於悲由可波
(幾乃世支毛利也 止々女天武可无)
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ページ
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ここの( )は第十紙に在り
水色文字はかな部分の使用字母
みちと
従駕;(じゅうが)
行幸に従って行くこと。
あとら
誂ふ;
頼みかける。誘いかける。
ここの( )は第四紙に在り
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第四紙 桂本万葉集(桂万葉集)
縦26.9cmx横49.7cm
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桂本万葉集
第四紙
清書用臨書用紙
第四紙 |
第四紙 桂本万葉集(桂万葉集)
きのせきもりや とどめてむかも
二年乙丑春三月幸二三香原離宮一之時得二娘子一作歌
一首并短歌 笠朝臣金村
546
三香之原客之屋取爾 珠桙乃道能去相
爾 天雲之外耳見管 言將問縁乃無者 情
耳咽乍有爾 天地神祇辭因而 敷細乃衣
手易而 自妻跡憑有今夜 秋夜之百夜
乃長有興宿鴨
反歌
547
天雲之 外従見 吾妹児爾 心毛身副 縁
西鬼尾
あまぐもの よそにみしより わぎもこに
こころもみさへ よりにしものを
548
今夜之 早開者 為便乎無三 秋百夜乎
願鶴鴨
こよひのや はやくあくれば すべをな
み あきのももよを ねがひつるかも
五年戊辰 太宰少貳石川足人朝臣遷任餞二于
筑前國蘆城驛家一歌三首
549
天地之 神毛助興 草枕 羈行君之 至家左右
あめつちの かみもたすけよ くさまくら
たびゆくきみが いへにいたるまで
550
大船之 念憑師 君之去者 吾者將恋名
直相左右二
おほふねの おもひたのみし きみがいなば
われはこひむな ただにあふまでに
551
山跡道之 嶋乃浦廻爾 縁浪 間無牟
吾恋巻者
やまとぢの しまのうらわに よするなみ
あひだもなけむ わがこひまくは
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(和可世己可 安止不美毛止女 於悲由可波)
幾乃世支毛利也 止々女天武可无
二年乙丑春三月、三香原離宮に幸しし時、娘子を得て作れる歌一首並びに短歌 笠朝臣金村
546
みか
三香の原旅の宿りに、珠桙の道の行きあひに、
あまぐも よそ よし
天雲の外のみ見つつ、言問はむ縁の無ければ、
こころ む あめつち かみ こと
情のみ咽せつつあるに、天地の神祇辞よせて、
か おのづま こよひ
しきたへの衣手易へて、自妻とたのめる今夜
ももよ
秋の夜の百夜の長くありこせぬかも
反歌
547 わぎもこ よ
天雲の外に見しより吾妹子に、心も身さへ縁りにしものを
安末久毛乃 與曾仁美之與利 和支无己仁
己己呂无美左部 與利爾之毛乃遠
548
今夜の早く明けなば術をなみ、秋の百夜を願ひつるかも
己與比乃也 者也久安久礼波 春部遠那
美 安支能毛々與遠 禰可比川留可毛
だざいのしょうに たりひとあさおみ うつ
五年戊辰、太宰少弐石川足人朝臣の遷さゆるに、筑前國
あしき うまや はなむけ
蘆城の驛家に餞せる歌三首
549
天地の神も助けよ草枕、旅行く君が家に至るまで
安女川知乃 可美毛多春計與 久散末久良
多比由久支美可 以部仁以太留末天
550 おもひ ただ
大船の念たのみし君がいなば、吾は恋なむ直逢ふまでに
於保不禰乃 於毛比多乃美之 支美可以那者
和礼波己悲武奈 太々仁安不末天仁
551
やまとぢ うらみ あいだ わがこひ
大和道の嶋の浦廻によする浪、間も無けむ吾恋まくは
也末止知能 之末乃宇良和爾 與春留那美
安比多无奈个武 和可己悲末久盤
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ページ
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ここの( )は第十紙に在り
水色文字はかな部分の使用字母
うらみ
浦廻;(浦曲)
海岸の曲がって入り込んだ所。うらわ。
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第五紙 桂本万葉集(桂万葉集)
縦26.9cmx横49.7cm
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桂本万葉集
第五紙
清書用臨書用紙
第五紙 |
第五紙 桂本万葉集(桂万葉集)
右三首作者未詳
大伴宿禰三依歌一首
552
吾君者 知気乎波死常 念可毛、相夜
不相夜 二走良武
わがきみは わけをはしねと おもふかも、あ
ふよあはぬよ よませなるらむ
丹生女王贈太宰師大伴卿歌二首
553
天雲乃 遠隔乃極 遠鶏跡裳 情志行者
恋流物可聞
あまぐもの へだてのきはめ とほけども
こころしゆけば こふるものかも
554
古 人乃令食有 吉備能酒 痛者為便
無 貫簀賜牟
いにしへの ひとののませる きびのさけ や
もはばすべな ぬきすたまはむ
太宰師大伴卿贈大貳丹比縣守卿遷任民部卿歌一首
555
為君 醸之待酒 安野爾 獨哉將飲 友無二
思手
きみがため したみしさけを やすののに
ひとりやのまむ ともなしにして
故左大臣長屋
賀茂女王贈大伴宿禰三依歌一首 王之女也
556
筑紫船 未毛不來者 豫 荒振公乎 見之悲左
つくしぶね またもこざれば かねてより
あらぶるきみを みしがかなしさ
土師宿禰水道、従筑紫上京海路作歌二首
557
大船乎 榜乃進爾 磐爾觸 覆者覆 妹爾因而者
おほぶねを こぎのすすみに いはにふれ
かへらばかへれ いもによりては
558
千磐破神之社爾我挂師幣者將賜妹
爾不相國
|
つまびらか
右の三首の作者は未だ詳ならず
おおとものすくね みより
大伴宿禰三依の歌一首
552
吾君はわけおば死ねと思へかも、逢ふ夜
逢はぬ夜二つ行くらむ
和可支美波 和个遠波之禰止 於无不可毛、安
不與安者奴與 々末世那留良武
にふのおほきみ
丹生女王、太宰師大伴卿に贈れる歌二首
553 そく へ こころ
天雲の遠隔の極み遠けども、情し行けば恋ふるものかも
安末久毛乃 部多天乃支波女 止保个止无
己々呂之由計者 己不留毛乃可毛
554 をし
いにしへの人の食たる吉備の酒、病めばすべ無し
ぬきす
貫簀賜はむ
以爾之部乃 比止乃々末世留 支比乃左計 也
毛波々春部那 奴支数太末者武
だいに たぢひのあがたもり まけうつ
太宰師大伴卿、大貳丹比縣守卿の民部卿に任遷さゆるに贈れる歌一首
555 か ひとり
君がため醸みし待ち酒安の野に、独や飲まむ友無しにして
支美可多女 之多美志左計遠 也春乃々仁
比止利也乃末武 止毛奈之仁之天
賀茂女王、大伴宿禰三依に贈れる歌一首 故左大臣長屋
王の女なり
556 いま あらかじ
筑紫船未だも来ねば予め、荒ぶる君を見るが悲しさ
川久之不禰 末多无己左礼波 可禰天與利
安良不留支美遠 美之可々奈之散
はにし み みち
土師宿禰水道、筑紫より京に上る海路にて作れる歌二首
557 かへ
大船をこぎの進みに磐に触れ、履らばかへれ妹によりては
於保不禰遠 己支乃須々美爾 以者爾不禮
加部良波可部礼 以毛仁與利天波
558 ぬさ た
ちはやぶる神の社に我掛けし、幣は賜ばらむ
妹に逢はなくに
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ページ
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水色文字はかな部分の使用字母
をし
「食」、食ること・飲むこと・着ることの
尊敬語
たま
「賜はむ」を
た
「賜ばらむ」と読むこともある
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