香紙切 (麗花集巻第三 夏 断簡)         戻る 香紙切へ 
    丁子染紙(丁子色)
旅寝してつきて来ぬらし時鳥、神南備山に小夜更けて鳴く
こちらは色むらがあり、ボカシの様にも見えますが元々は単色染めで、長年の変化により褪色、或は脱色した物と思われます。やや濃い目の丁子色でもう少し濃く染めると丁子茶色になります。

丁子色
ちょうじいろ
香紙切 麗花集 巻第三 夏 (丁字色) 解説へ 12.2cmx21cm
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。

          かな
         使用時母         現代語訳へ



       ければ  人丸

  たびねして つきて
ぬらし ほとと

  ぎす、かみなびやまに さよふけて
                  なく


       ゑちごのくにになりける

       はじ
て、ほととぎすのなかざ

       りければ
               人丸







        希禮波  人丸

  太日年之天 川支弖衣奴良之 保止々

  幾須、可見奈飛也末爾 左與不个弖
                      奈久


        恵知己乃久爾々奈利希留

        八志可弖、本止々幾寸乃奈可左

        利希禮波
                   人丸




 
              現代語訳
            解説         使用字母へ

     ければ  人丸

 『旅寝してつきて得ぬらし時鳥、神南備山に小夜更けて鳴く』

旅先で寝ていると如何やら終わりで会得出来ない様だ、時鳥が神南備山で夜が更けてまで鳴いているよ。
或は、
旅先で寝ていると寄り添ったとして如何やら手に出来ない様だ、時鳥が神南備山で夜が更けてまで鳴いているよ。



     越後国になりける
     初めて、時鳥の鳴かざりければ
                         人丸

越後の国に入って初めてホトトギスが鳴かなかったので、
或は
越後の国に入って初めてホトトギスが鳴いていたので、



(旅先で横になって寝ていると疲れ果ててしまいもう終わりのの様でこれ以上何も身に付けられない様ですよ、時鳥が神南備山の方で夜が更けてまで鳴いておりますのでね。)との意。この場合の時鳥は「死出の田長」の意で、その時を告げに死出の山を越えてやってくる鳥。
或は
(旅先で寝ながら考えていると、あの人に寄り添ったとしても如何やら手に入れる事は出来ない様ですよ、恋心を募らせるばかりに時鳥が神南備山で夜が更けてまで鳴いているので。)との意。



 「可」は「女」の見間違いか

ざりけれ;打消しの助動詞「ず」の連用形「ざり」に過去の助動詞「けり」の已然形「けれ」のついたもの。…しなかった。
或は係助詞「ぞ」にラ変補助動詞「あり」の連用形「あり」が付いた「ぞあり」の約音「ざり」に、過去の助動詞「けり」の連体形「ける」が接続助詞「ば」を受けて係り結びの流れた已然形「けれ」の付いた「ざりければ」で、…であったので。
次に来る歌により文意が変わる。

人丸;柿本人丸(人麻呂)

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『旅寝してつきて来ぬらし時鳥、神南備山に小夜更けて鳴く』(「衣」を「己」の見間違いと見ると)
旅先で寝ていると如何やらホトトギスはついては来ない様だ、神南備山で夜が更けてまで鳴いているよ。
(旅先で横になって寝ているとこの近くでは鳴声がしませんよ、如何やらホトトギスはついては来ていない様ですよ、昨日通り越してきた神南備山の方で夜が更けてまで鳴いておりますのでね。)との意。この場合の時鳥は「死出の田長」の意にも「恋心を募らせる」意にもどちらの意とも取れる。


神南備山;神の鎮座する山の意。特に奈良県生駒郡斑鳩町の紅葉や時雨の名所でもある三室山(歌枕)。奈良県高市郡明日香村の三諸山(歌枕)。また神がいます辺りの意で、神霊の鎮座する森や山など出雲風土記にも4ヶ所が見える。

かきのもとのひとまろ

柿本人麻呂;万葉歌人で、三十六歌仙の一人。天武・持統・文武天皇に仕え、六位以下ではあるが舎人として出仕、石見の国の役人となり、讃岐の国などへも出向いている。石見の国で没っしたとされるが、定かでは無い。序詞・枕詞・押韻などを駆使して想・詞豊かに歌を詠み、特に長歌に於いては深く心に訴える様な厳かで格調高い作風を好んだ抒情歌人として君臨。後の人々に、山部赤人と共に歌聖と仰がれた。生没年不詳。


 

東京国立博物館蔵