香紙切 (巻第八 恋 断簡)         戻る 香紙切 へ   
    丁子染紙(丁子茶色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は単色の香染で、長年の変化により褪色、或は脱色した物と思われます。丁子茶色とは、丁子の煮汁で濃く染めた色でやや黄茶味の強く出たような色。ほんのりと丁子の香りのするような色のこと。

丁子茶色
(ちょうじちゃいろ)
香紙切 麗花集 巻第八 恋 (丁字茶色) 解説へ12cmx20.3cm
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。

          かな
         使用時母           現代語訳へ




           大とものやかもち

  かしはぎの もりのしたこそ こひしけれ、

  そのこまほしき ほとのへぬれば


       あるをむなのつれなかりければ

           よしのぶ

  さりともと たのむこころに はかられて、

  しなれぬものは いのちなりけり


  





              大止无乃也可毛知

 可之者幾乃 毛利乃之太己曾 己日之个礼、

 所乃己万保之幾 本止乃部奴禮波


        安留遠无奈乃川礼奈可利希礼盤、

              與之乃不

 佐利止无止 太乃武古々盧爾 者可良礼天、

 志奈礼奴毛乃波 以乃知奈利个利


 
            現代語訳
              解説           使用字母へ


           大伴家持

 『柏木の森の下こそ恋しけれ、そのこまほしきほとのへぬれば』

柏の森の木の下ほど恋しいものである、そこへ来たいと願う程の時が過ぎればね。



      或女の連れ無かりければ

           能宜

ある女性がお供の人も居られなかったので、
                  大中臣能宜

 『さりともと頼む心に計られて、しなれぬ物は命なりけり』

そうは言ってもと寄り縋る心に絆されて、し慣れていないことが人生なのですから。命あっての物種ですよ。


                  ひょうえ 
柏木;皇居守衛の任務に当る兵衛、衛門の別名。
柏の木に葉守の神が宿っているという伝説より。

そのこま
其駒;御神楽の最終曲。
                 

まほし;願望を表す助動詞。「来まほしき」、「来」の未然形「こ」に「まほし」の連体形「まほしき」で、…へ来たいと願う。


(今にも身投げしそうな女性に、知人でもないし知らぬふりしても…、それでも何とかしてと頼る気持ちに縛られ思いを懸けて申しましょう、何事も未熟で馴れないことばかりの人生ですよ。この世は命あってこその事、死んだらお終いですから。)との意。

 さ

然りとも;そうではあっても。それでも。

 し な
   
為慣れぬ;し慣れていない。熟練してない。未熟である。

いのち
命;生涯。人生。

或は
死なれぬ物は;死んではならないものは。
命なりけり;命があったればこそ出来るのである。

死なれぬ物は命なりけり;=命あっての物種
何事も命あっての上の事、死んでしまってはお仕舞いである。


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おおとものやかもち

大伴家持;奈良時代の歌人で、三十六歌仙の一人。旅人の子として越中守を初め、中央や地方の諸官を歴任し、延暦2年(783年)には中納言となる。万葉集の中で歌数が最も多く、長歌・短歌合わせて約480首があり、その編纂者の一人ではとも思われている。感傷的で繊細な歌風の抒情歌は万葉後期を代表する。坂上郎女は叔母に当たる。

おおなかとみのよしのぶ

大中臣能宜;平安中期の歌人で、伊勢神宮の祭主でもある。梨壺五人衆の一人で、三十六歌仙にも入る。坂上望城、源順、清原元輔、紀時文らと共に951年、三代集の第二である20巻もの後撰集(村上天皇の勅命による勅撰和歌集)を撰進する(成立年代は未詳、約1400首収められているが、ここに撰者の歌は無い)。能宜の歌は拾位遺、後拾遺集などに入る。正四位下、生921年、没991年。



 

根津美術館蔵