香紙切 (巻第五 秋下 断簡)          戻る 香紙切 へ 
    丁子染紙(丁子色)
人知れず荻の下なる小牡鹿の、穂に出る文無音には鳴くらん
こちらの色は、やや渋みの強いの様にも見えますが元々は単色の香染で、長年の変化により褪色、或は脱色した物と思われます。丁子色とは、丁子の煮汁で染めた色でやや黄味の強く出たような色。ほんのりと丁子の香りのするような色のこと。

丁子色
(ちょうじいろ)
香紙切 麗花集 巻第五 秋下 (丁字色) 解説へ11.8cmx20.8cm
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。

            かな
           使用時母          現代語訳へ



       むらかみの御時の御屏風

       に、をぎのしたにしかのな

       く所   中つかさ

  人しれず をぎのしたなる さをし

  かの、ほにいづるあやな ねにはなくらん


       かりをききてよめる






        无良可美乃御時乃御屏風

        爾、遠幾乃之多爾之可乃奈

        久所     中川可左

 人之礼春 遠支乃之多奈留 左遠之

 加乃、本爾以川留安也奈 禰爾八奈久良无


        可利遠支々天與女留



 
             現代語訳
             解説         使用字母へ

      村上の御時の御屏風に、
      荻の下に鹿の鳴く所
                   中務

 人知れず荻の下なる小牡鹿の、穂に出る文無音には鳴くらん

人目に付かぬ様ひっそりと荻の陰に隠れている牡鹿ではあるが、隠れている甲斐が無いねえ!、そこで声に出して鳴いているのだろう。(姿は見えずとも其処に居るのが判ってしまうよ)


      雁を聞きて詠める



びょうぶ
屏風;そこに描かれている屏風絵を主題として和歌を詠む
のに用いられた。
はぎ            さをしか
荻の下に鹿の鳴く所;小牡鹿の分け入る野原。     
はぎのつま
            荻の影に隠れる状態。又鹿の事を「萩の夫」とも

  いづ
穂に出る;表面に出る。隠れていたものが人目に付くようになる。

あやな

文無;文無しの語幹。理屈に合わない。甲斐が無い。
 
 ね
音には鳴く;声を立てて泣く。

らん;「らむ」の音便、活用語の終止形に付いて現在の事態を表す要素と
推量を表す「む」とが結合したもの。・・・しているだろう。・・・なのだろう。


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