寸松庵(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻四 秋上
具引唐紙『牡丹唐草』(薄茶色)「天の川」 田中親美氏作模写本
寸松庵色紙は古今和歌集の四季の歌を精撰して書写したもので、元は粘葉本と思われる冊子に書写されたものが分割され、色紙の形に残ったもの。佐久間将監が京都大徳寺の離れ寸松庵で愛玩していた事により、江戸時代の初期に寸松庵色紙と名付けられた(「古筆切名物」古筆了佐の曾孫了仲書写)。またその後に書かれた『古筆名葉集』には「寸松庵色紙、唐紙地哥チラシ書」とあり、既に唐紙に散らし書きされた書として認識されていた事が伺える。
元々堺が繁盛していた頃に南宗寺の襖に三十六枚の色紙が貼られており、その内の十二枚を寸松庵に譲り受けたもの。残りの幾つかは烏丸光弘が譲り受けている。
そもそもなぜ南宗寺に豆色紙の古今和歌集抄本「四季」の断簡が伝来していたのかは不明で、おそらくは堺の豪商が価値も知らずに寄進したものと思われる。その頃は未だ茶掛と云えば著名な和尚の墨蹟(禅林墨跡)を掛けるのが習わしで、古筆はそれ程尊ばれてはいなかった。真勝が茶掛に古筆を嗜んだ事により、やがて大徳寺に点在していた庵にも広まってゆくこととなる。(但し、古筆寸松庵は真勝の生存後暫くは絵扇面六枚*1を伴った手鏡の状態にあった)
茶掛けとして古筆が持て囃されてくると、この小さな色紙もその散らし書きの美しさからやがて陽の目を見ることとなり、後の世に高値で取引されるに至った。
歌『あまのがは あさせしらなみ たどりつつ・・・』へ、 歌『あきかぜに はつかりがねぞ きこゆなる・・・』へ、
歌『山ざとは 秋こそことに わびしけれ・・・』へ、 歌『おく山に もみじふみわけ なくしかの・・・』へ。
かな 水色文字は使用時母
12.2cmx13.0cm |
きのとものり
あまのがは あさせ
しらなみ たどり
つつ、わたりはてぬ
に あけぞし
にける
使用時母
幾乃止无能利
安万乃可盤 安左勢
志良奈美 太止利
川々、和多利者天奴
爾 安个所之
爾个留
|
紀友則
177
天の川浅瀬白波たどりつつ、渡り果てぬに明けぞしにける。
美しく流れ天の川も浅瀬や白波ばかりを辿っていると、渡り切らぬ間にもう夜明けになってしまったものよ。
薄茶色具引唐紙・白雲母『牡丹唐草』(全面) 三井高保氏旧蔵
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漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
写真では辛うじて牡丹唐草が確認できている。
薄茶色;茶とすることも。
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右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙 |
上製 普通清書用
清書用 茶色具引唐紙・白雲母『牡丹唐草』 |
このページの
(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻四 秋上
具引唐紙『瓜唐草』(薄渋黄土色)「秋風に」
かな 水色文字は使用時母
12.6cmx13.0cm |
とものり
あきかぜに はつかり
がねぞ きこゆなる、
た が た ま づ さ を
か け て き つ らん
使用時母
止毛能利
安支可世爾 盤川可利
加 禰 曾 支己由奈留、
堂 可 多 万 川 左 遠
可 个 天 支 川 良无
|
紀友則
207
秋風に初雁が音ぞ聞こゆなる、誰が玉梓を懸けて来つらむ。
秋風と共に初雁の声が聞こえて来る、誰の手紙を携えて来たのだろうか。
玉梓;手紙を梓の枝に結び付けて使いの者が持参したことから。文、消息。便り。
懸けて;ことを託して
薄渋黄土色具引唐紙・白雲母『瓜唐草』(全面) 高橋義雄氏旧蔵 |
漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
写真では確認し辛いが、瓜唐草(相生唐草)が施されている。
薄渋黄土色;薄茶とすることも。 |
右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙(左は上製)
これまでの清書用には入れられていない柄色(上製のみ)
(普通清書用では薄渋黄土色柄無の物を利用してください、右側)
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上製 普通清書用
清書用 薄黄茶色具剥奪唐紙・『瓜唐草』 |
このページの
(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻四 秋上
具引唐紙『萱一本』(薄渋黄土色)「山里は」
かな 水色文字は使用時母
12.6cmx13.0cm |
ただみね
山ざとは 秋こそこ
とに わびしけれ、し
かのねなくに めを
さましつつ
使用時母
堂々見禰
山佐止波 秋己曾己
止爾 和比之个礼、志
可乃禰奈久爾 女遠
佐末之川々
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壬生忠岑
214
山里は秋こそ殊に侘しけれ、鹿の音なくに目を覚ましつつ。
山里は秋こそ特に侘しいものである、牡鹿の鳴き声に目を覚ましてしまう時ほどそう思う。
音泣くに;声を立てて泣く。牡鹿が秋になって牝を呼ぶ声は、もの悲しさを伴い古来詩歌に多く詠まれている。
薄渋黄土色具引唐紙・白雲母『萱一本草』(左下から右斜め上に一本)
三井八郎次郎氏旧蔵
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漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
写真では確認できないが、萱草(一本)が施されている。
或は左側が、柄本来の下側か。(右から吹き付けられる風に靡く萱)
薄薄渋黄土色;薄茶とすることも。 |
右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙(左は上製)
これまでの清書用には入れられていない柄(上製のみ)
(普通清書用では薄渋黄土色柄無の物を利用してください、右側) |
上製 普通清書用
清書用 薄渋黄土色具剥奪唐紙・『萱一本』 |
このページの
(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻四 秋上
具引唐紙『消息不明の柄』(薄渋黄土色)「奥山に」
かな 水色文字は使用時母
10.6cmx11.8cm |
おく山に もみぢふ
みわけ なくしか
の、こゑきくときぞ
あ き は か な し
き
使用時母
止毛能利
於久山爾 毛美知不
美和个 那久之可
乃、己恵支久止支所
安 幾 者 可 那 之
幾
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(詠人不知)
215
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の、声聞く時ぞ秋は悲しき。
人里離れた奥深い山で色付く木々の中、踏み付け乍ら分け入りて鳴く鹿の声を聴いた時こそ、秋のもの悲しさが身に染みるなあ。
薄渋黄土色具引唐紙・白雲母『崖の草』(軒忍(忍草)、或は岩垂一ッ葉か)
三井八郎右衛門氏旧蔵
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漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
写真では確認し辛いが、左側に不明の柄が施されている。
或は崖から枝垂れる何某かの草か?
薄渋黄土色;薄茶とすることも。 |
右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙(左は上製)
これまでの清書用には入れられていない柄(上製のみ)
(普通清書用では薄渋黄土色柄無の物を利用してください、右側) |
上製 普通清書用
清書用 薄渋黄土色具剥奪唐紙・『崖の草』 |
このページの
*1
「這一冊之内扇子等和歌色紙面二十四枚有之。色紙十二枚、紀貫之之御真跡無紛者也。当代希有物。最可謂、天下無双之至宝。応令乍憚証之而己。慶安四年十月上旬、古筆了佐」(花押) との箱書のあることから、もしかしたら色紙一枚に一枚の扇面が付けられていたのかも知れない。