寸松庵(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻一・春上
具引唐紙『亀甲紋』(薄渋黄土色)「我背子が」 田中親美氏作模写本
寸松庵色紙は古今和歌集の四季の歌を精撰して書写したもので、元は粘葉本と思われる冊子に書写されたものが分割され、色紙の形に残ったもの。佐久間将監が京都大徳寺の離れ寸松庵で愛玩していた事により、江戸時代の初期に寸松庵色紙と名付けられた(「古筆切名物」古筆了佐の曾孫了仲書写)。またその後に書かれた『古筆名葉集』には「寸松庵色紙、唐紙地哥チラシ書」とあり、既に唐紙に散らし書きされた書として認識されていた事が伺える。
また「いろもかも・・・」(鴻池氏旧蔵)の一葉には古筆了佐の折紙が付いており、「寛永十三年小春上旬」(故田中塊堂氏の紹介)とあることから、将監が寸松庵を立てて後この豆色紙の古筆が有名になった頃であり、南宗寺からの流出と窺える。(古筆了佐は将監の没後暫くしてこの豆色紙の治められた帖を清尼より譲り受けている。将監自身がこの古筆を寸松庵色紙と呼んでいたとは考え難く、了佐によって使用拡散されたものと思われる。)
歌『わがせこが ころもはるさめ ふるごとに・・・』へ、 歌『さととほみ ひともとがめぬ さくらばな・・・』へ、
歌『いろもかも おなじむかしに さくらめど・・・』へ、 歌『わがやどの 花見がてらに くるひとは・・・』へ。
かな 水色文字は使用時母
12.6cmx13.0cm |
つらゆき
わがせこが ころもはる
さめ ふることに、のべ
のみどりぞ いろまさ
りける
使用時母
徒良由支
和可世己可 己呂毛波留
左免 不留己止仁、能部
乃美止利所 以呂末左
利个類
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紀貫之
25
我背子が衣春雨経るごとに、野辺の緑ぞ色勝りける。
愛しい人の衣にしとしとと静かに春の雨が降る毎に、野辺の若芽も色付いてその度ごとに草木の緑が濃くなってゆきますね。
わがせこ
我背子;自分の夫、恋人を親しんで言う呼び方。男性が女性を親しんで言う場合には、吾妹子(わぎもこ)
薄渋黄土色具引唐紙・白雲母『亀甲紋』(一重亀甲・全面)
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漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
「个」は「介」とすることも。
「ふる」は「降る」と「経る」とに掛けてある
「衣」は或は前栽や野辺や山の木々の葉のことか。
写真では辛うじて亀甲紋が確認できている。
薄渋黄土色;薄茶、黄とすることも。
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右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙(左が上製)
これまでの清書用には入れられていない柄(上製のみ)
(普通清書用では薄渋黄土色柄無の物を利用してください、右側) |
上製 普通清書用
清書用 薄渋黄土色具剥奪唐紙・『亀甲紋』 |
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(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻一・春上
具引唐紙『牡丹唐草』(薄渋黄土色)「里遠見」
かな 水色文字は使用時母
12.6cmx13.0cm |
さととほみ ひともとが
め ぬ さ く ら ば な、
いたく な わ び そ 我
み は や さ む
使用時母
佐止々本美 比止毛止可
女 奴 左 久 良 者 那、
以多久 那 和 比 所 我
美 者 也 左 武
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(詠人不知)
50
里遠見人も咎めぬ桜花、いたくなわびそ我見栄やさむ。
里の方を遠く見渡すと人も特に気に掛ける様子もない桜の花、如何かそんなにがっかりしないでおくれ私が見て持て囃しますから。
咎める;気にかける。取り立て気にする。問いただす。
ぬ;打消しの助動詞。「ず」の連体形が口語として用いられる様に為ったもの。
薄渋黄土色具引唐紙・白雲母『牡丹唐草』(全面) |
漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
写真では確認し辛いが、牡丹唐草が施されている。
薄渋黄土色;茶とすることも。 |
右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙(左が上製)
これまでの清書用には入れられていない柄(上製のみ)
(普通清書用では薄渋黄土色柄無の物を利用してください、右側) |
上製 普通清書用
清書用 薄渋黄土色具剥奪唐紙・『牡丹唐草』 |
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(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻一・春上
具引唐紙『柄不明』(灰白色)「色も香も」
かな 水色文字は使用時母
12.7cmx13.0cm |
とものり
いろもかも おなじむ
かしに きくらめと、
と し ふ る ひ と ぞ
あらたまりけ
る
使用時母
東毛乃利
以呂毛可毛 於那之武
可 志 爾 左久良女止、
止 之 不 留 悲 止 曾
安良太万利个
留
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紀友則
57
色も香も同じ昔に咲くらめど、年ふる人ぞ改まりける。
花の色も香りもあの時と同じに咲いているけれども、年月が経ち(ここで愛でている)人だけが変わってしまっているのだなあ。
年経る;年老いる。年齢が重なる。
灰白色具引唐紙・白雲母『柄不明』 鴻池氏旧蔵 |
漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記 「爾」は「尓」とすることも、「个」は「介」とすることも。
模本でも柄は確認できない。
灰白色;素色、白色とすることも。
清書用は薄渋黄土色で対応。 |
右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙(左が上製)
(普通清書用でも薄渋黄土色柄無の物を利用してください、右側) |
上製 普通清書用
清書用 薄渋黄土色具剥奪紙・『柄無』 |
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(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻一・春上
具引唐紙『亀甲紋』(薄蜜柑茶色)「我が宿の」
かな 水色文字は使用時母
12.7cmx13.0cm |
みつね
わがやどの 花見がて
らに くる人は、ち
りなむのちぞ こひ
しかるべき
使用時母
美川年
和可也度乃 花見可天
良爾 久留人盤、知
利奈武乃知所 己比
志可留部支
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おほしかふちのみつね
凡河内躬恒
67
我が宿の花見がてらに来る人は、散りなむ後ぞ恋しかるべき。
我が家の庭を花見がてらに訪れる人は、花びらの散ってしまった後にこそ愛でるのが相応しい。(降り積もって幽かに舞う花びらの絨毯がキラキラと輝いてそれはそれは見事ですよ。)
恋しかるべき;恋然る可き(「然るべし」の連体形、恋しくあるのが当然だ)
恋しかるべき;恋しがるべき(形容詞の語幹に付き五段活用の動詞を作ったもの)
恋しかるべき;恋しくあるべき(連用形語尾「く」に助詞「あり」を付属させたものの約音)
薄蜜柑茶色具引唐紙・白雲母『亀甲紋』(一重亀甲・全面) |
漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
「爾」は「尓」とすることも。
おおしこうちのみつね
凡河内躬恒;平安前期の歌人で三十六歌仙の一人宇多天皇、醍醐天皇に仕え古今和歌集撰者の一人でもある。家集に「躬恒集」がある。
写真では確認し辛いが、亀甲紋が施されている。
薄蜜柑茶色;或は薄茶、薄黄茶とすることも。
具引には若干の青味が見て取れる為元は薄藍色であったかも。 |
右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙(左が上製)
これまでの清書用には入れられていない柄(上製のみ)
田中親美氏作成の物では茶味で具はやや青白っぽい、
また飯島春敬氏の物では薄灰緑につくられております。
恐らく元は薄藍色であったと思われる為、臨書用紙にはこの色を当てています。
(普通清書用では灰青緑色柄無の物を利用してください、右側)
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上製 普通清書用
清書用 灰青緑具剥奪紙・『亀甲紋』 |
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