針切 重之の子の僧の集18             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集18 (素色)15.1cmx22.5cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ


   かたらふひとの、さすがにむつまじからぬを
   うらみつかはす


 あふことも なくてやみぬる ものならば、なにを

 このよの おもひいでにせん


   さらにものへだててきこえむとはべれば

 せきのとに あらましものを なかなかに、なにあふさか

 を いそぎこえけむ


   わすれじとちぎりたる人のつらきさまをみは
   べりて

 なにせむに わすれじとのみ ちぎりけむ、うきにはたへぬ

 よにこそありけれ


   語らふ人の、流石に睦まじからぬを

   恨み遣はす


 逢ふ事も 無くてや見ゆる ものならば、何を

 この世の 思ひ出でにせん


   更に物隔てて聞こえむと侍れば


 関の門に あらましものを 中々に、なに逢坂

 を 急ぎ超えけむ


   忘れじと契りたる人の辛き様を見
   侍りて

 何せむに 忘れじとのみ 契りけむ、憂きには耐ぬ


 世にこそ在りけれ

 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~残り半葉分の内の詞書の一部
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説

     可多良不悲止乃、左春可仁武川末之可良奴遠
    
     宇良美川可者春


 安婦己止毛 奈九天也美由留 毛乃那良盤、奈仁遠

 己乃與乃 於毛比以天爾世无  


     左良波毛乃部多天々支己衣武止波部礼盤


 世支乃止仁 安良万之毛乃遠 奈可
仁、奈仁安婦左可

 乎 以所支己衣希無


     和春礼之止知支利多留人乃川良支佐万遠美波
     部利天

 奈仁世无爾 和春礼之止乃美 知支利計無、宇支仁者堂部奴

 與仁己所安利希禮





「乀」;3文字の繰り返し、「~」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「个」は「介」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも □は文字不明か所

解説

     親しく付き合っている人で、流石に仲睦まじいとは見えない人たちに不満に思うことを言い遣わす、


 
逢ふ事も無くてや見ゆるものならば、何をこの世の思ひ出でにせん
(懇意にしている人と)逢うことも無くて済むように思えるものならば、一体何を今の(生きている)世の中の思い出としたら好いことなのでしょうか!。(逢えば小言を言ってしまうので逢わないで済むのならそうしたい、けれども逢いたい気持ちがそうもさせない。この矛盾した苛つきを何としたものでしょう。)



    更に物を隔てて、聞き取れないですよとおっしゃるので

 関の門にあらましものを中々に、なに逢坂を急ぎ超えけむ
関所の門が有るわけでも無いでしょうに、むしろ中途半端に、どうして逢坂の関を急いで超えようとするのでしょうね。(期待をしておかないことですよ、期待し過ぎていると余計悲しみが増しますから)


    決して忘れませんよと約束している人の辛い様子ををご覧になって。

 何せむに忘れじとのみ契りけむ、憂きには絶えぬ世にこそ在りけれ
何のために「決して忘れませんよ」とだけは約束してしまったのでしょうか、それこそ気にくわないことには途中で途絶えてしまうくらいの世の中で在って好しい物ですね。(こんなに滅入るくらいなら、約束なんてするんじゃなかった。なんてね)

何せむに;代名詞「何」にサ変動詞「為」の未然形「せ」と推量の助動詞「む」の連体形「む」、更に格助詞「に」の付いたもので、反語を表す。どうして…なのだろうか(いや、…ではない。)。何を為そうとして。






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