針切 重之の子の僧の集19             戻る 針切 一覧へ 
    生成り楮紙(素色)
こちらの色は、ぼかしの様にも見えますが元々は未晒しの繊維の色で、長年の変化により褪色、或は褐色化した物と思われます。素色(しろいろ)とは、漂白していない元の繊維の色でやや黄味の砥の粉色~薄香色の様な色。本来染めていない為、素の色のことを素色(しろいろ)といいます。。写真は薄目の薄香色でかなり褪色しているように見えます。
高い所より書出してあるのが歌、一段低い所より書出してあるのが詞書です。


素色(しろいろ)

『針切』 重之の子の僧の集19 (素色)15.1cmx22.5cm
実際は極淡い薄茶色です。
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。


             かな                                使用時母へ


   ふかき山にて風のおとの心を○○ことなどいひ
   はべりて


 山風の はげしきことを なげきつつ、なみだにのみも

 ひをくらすかな


   さてはべるほどに人のまうできたれば

 とふ人は われにてしりぬ おく山に、おぼろげにてや

 われもいりにし


   はらからのとひまうでこぬことをうらみはべ
    りて




   深き山にて風の音の心を
思ふ事等言ひ
   侍りて


 山風の 激しきことを 嘆きつつ、涙にのみも

 日を暮すかな


   さて侍るほどに人の詣で来れば

 訪ふ人は 我にて知りぬ 奥山に、朧げにてや

 我も入にし


   同胞の訪ひ詣で来ぬことを恨み侍
    りて



 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
一行は一行に、繰返しは仮名で表記
次項~残り半葉分の内の詞書の一部
 読みやすい様に所々に漢字、読点を入れております。
                       解説

     婦可支山仁天風乃於止乃心乎□□己止奈止以比
    
     波部利天


 山風乃 者希之支己止乎 那个支川々、奈美堂仁乃美毛

 悲乎久良春可那  


     佐弖波部留本止爾人乃止悲仁万宇天支多礼八


 止婦人盤 和礼爾天之利奴 於久山仁、於本呂希仁天也

 和礼毛以利二之


     者良可良乃止悲万宇天己奴己止乎宇良美波部
      利天





「乀」;3文字の繰り返し、「~」;2文字の繰り返し、「々」;1文字の繰り返し
「爾」は「尓」とすることも
「个」は「介」とすることも
「禮」は「礼」とすることも
「弖」は「天」とすることも
「與」は「与」とすることも □は文字不明か所

解説

     奥深い山の中で風の音の気持ちになって思う事等言っておりまして、


 
山風の激しきことを嘆きつつ、涙にのみも日を暮すかな
(奥深い山中に住んでいると四六時中聞こえてくるのは風の音ばかりなので、特に近頃は)山風の激しく吹き荒れることを嘆きながら、(一体何故なのでしょう、これから先も)涙ばかりが込み上げてくる日々を暮してゆくことになるのでしょうか!。(ただでさえ訪れてくる人も少ない山奥で、この強風の中訪ねて来る人などいましょうか。この風の音はまるで誰かの泣き声のようですね。)



    そうこうしているうちに人が参られて来たので

 訪ふ人は我にて知りぬ奥山に、朧げにてや我も入にし
訪ねて来る人は自分の経験においてのみ知る事が出来る山奥(の寺)で、ぼんやりとしていて未だはっきりとしないのですが私も如何やら(仏門に)入ってしまっていたのですね。


    兄弟姉妹の参りに訪ねて来ないことを残念に思いまして。







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