伊勢集（石山切）具引染紙『馬ﾛｰｾﾝ』

　　　　
伊勢集(石山切) 　具引染紙『馬蝋箋』　（清書用臨書用紙）　　　　

伊勢集第四十二紙料紙、具引染紙『馬蝋箋』の部分の清書用臨書用紙になります。伊勢集そのものには裏面にも歌が書かれておりますが、表面のみの加工ですので表面のみの使用と御承知おきください。裏面にも墨入れをすることは可能ですが、裏面を使用するには力量が必要となります。裏面の歌の臨書をご希望の場合には同じ柄をご用意ください。
蝋箋も具引唐紙の一つに分類されます。多くは唐草柄や、紋柄で風景柄は稀です。写真では蝋箋部分の柄が輝いておりませんが、光を反射させればちゃんと輝いて見えます。

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具引染紙　馬ﾛｰｾﾝ　花鳥折枝金銀袷型打　（半懐紙）	伊勢集　書

	馬蝋箋部分　具引染紙　花鳥折枝金銀袷型打光を受けての見え方
馬蝋箋部分　具引染紙　花鳥折枝金銀袷型打　　小高い丘の上に馬二頭、静かに草を食んでます。そばに生えるは柿の木でしょうか。少し暗くて判り辛いのですが、光の当たり具合で柄の見え方が変化します。右の馬の肩の部分と、丘の斜面のみに光が当たって輝いております。	伊勢集臨書用紙
	右上側部分花鳥折枝金銀袷型打
右上側部分　花鳥折枝金銀袷型打の様子です。こちら側にはﾛｰｾﾝは施されておりません。。	伊勢集臨書用紙
	馬蝋箋部分　具引染紙　柄部分にも墨は乗ります。
馬蝋箋部分　具引染紙　花鳥折枝金銀袷型打　　光を受けての見え方になります。少し斜めに写しておりますのでご了承下さい。少し青みがかって写っておりますので、お許しください。小高い丘の上に馬二頭、静かに草を食んでます。そばに生えるは柿の木でしょうか。	伊勢集臨書用紙

解説及び使用字母へ

伊勢集『馬蝋箋』　書　縦6寸7分、横1尺5分5厘　第四十二紙　　　　　　　　　田中親美氏模本

歌番号は伊勢集での通し番号　　　　　　　　　　　　　　　　　　　青色文字は使用字母　　　　　解釈（現代語訳）へ

423
　(こころのみくもゐのほとにかよひつつ、こひ)
　こそまされかささぎのはし

424
　いはくぐるやまゐのみづをむすびあけて
　たがためをしきいのちとかしる

425
　いはしろの野中の松をひきむすび、いのち
　しあらばかへりきてみむ

426
　いはしろの山したかぜぞさむからし、いもせ
　のかはのなみだかくみゆ

427
　しらなみのうちおどろかすうきしまに、たて
　るなみだにねこそなかるれ

428
　かこのしま松原ごしになくたづの、あたら
　なかこへきく人もなみ

429
　なにはかたみしかきあしのふしごとに、あはで
　このよをすくしてよとや

430
　しらなみをよするいはまにこぐふねの、かぢ
　とるまなくおもほゆるかな

431
　うきつつもかくてややまむこぐふねの、ふなで
　しこともなにゆへにそは

432
　かたしきのころもでさむきまつかぜに、あきの
　ゆふべとしらせずもがな

433
　みやぎののかきのの草はわれなれや、露
　しげけれどしる人もなし

423
　(己々呂乃三久毛為能本止爾可與比徒々、己比)
　己曾末左礼加左々支之者之

424
　以者久々類也末為能美川乎武春比安計天
　多可太女遠之支以乃知止可之流

425
　以者之路乃野中能松乎比幾武寸比、以乃遅
　之安良波可部利幾天美武

426
　以盤之呂能山之太可世所左武可良之、伊毛世
　能可者乃奈三堂可久美遊

427
　志良那三乃宇知於止呂可春宇支之万仁、多天
　流奈三多爾年己所奈可類礼

428
　加己能之万松原己之二奈久太川乃、安堂良
　奈可己部幾久人毛奈三

429
　奈二者可太三之可支安之能不之己止仁、安者天
　己能與遠寸久之天與止也

430
　志良那三越與春類以者万爾己久不年乃、加知
　止類末奈久於毛本由留可那

431
　宇支川々毛可久天也々末武己久不禰乃、不那天
　之己止毛那爾由部爾所者

432
　可太之支能己呂毛天左武支末川可世仁、安喜乃
　由不部止之良世春毛可那

433
　美也支乃々可支乃々草者和連奈礼也、露
　志希々連止之留人毛奈之

（　）は前項にあり。
「與」は「与」とすることも。
「爾」は「尓」とすることも。
「礼」は「禮」とすることも。

　　　　　　　　　　　　現代語訳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　解釈　　　　　　　解説及び使用字母へ

423
「心のみ雲居の程に通ひつつ、恋こそ勝れ鵲の橋」
心だけは宮中の辺りに通い続けておりますよ、恋は偉大なりです、鵲の橋の様にね。

424
「岩潜る山井の水を掬び上げて、誰が為をして命とか知る」
岩の下を潜って湧きだした山の泉の水をすくい上げて、誰の為を愛しんでのこのいのちなのでしょう。

425
「磐代の野中の松を引き結び、命しあらば帰り来て見む」
磐代の野中の松の枝を引き結んで、もし命が有ったなら帰ってきてまた見るとしよう。

426
「磐代の山下風ぞ寒からし、妹背の川の波高く見ゆ」
磐代の山颪が見るからに寒そうだ、妹背の川の波も高く見える。

427
「白波の打ち驚かす浮島に、立てる波だに根こそ無かるれ」
白波が以外にもハッと驚かす浮島に、立つ波でさへ根は無いのですから。

「白波の打ち驚かす浮島に、断てる涙に音こそ無かるれ」

428
「可古島松原越しに鳴く田鶴の、可惜なかこへ聞く人もなみ」
可古島から松原越しに鳴いている鶴の声がしているが、惜しい事に間を越えて聞く人もおりませんよ。

429
「難波潟短き葦の節ごとに、逢はでこの世を過ぐしてよとや」
難波潟の葦の短い節々の様に、逢わずにこの世を過ごしてよと言うのですか。

430
「白波を寄する岩間に漕ぐ舟の、舵取る間無く思ほゆるかな」
白波が打ち寄せる岩間で漕ぎ進める舟のように、舵を取る間もなく思われてきますよねえ。

431
「浮きつつも掻く手や止まむ漕ぐ舟の、舟出しことも何故にぞは」
落着かない事ではありますけれども櫓を掻く手を止める訳にはいきませぬ、既に漕ぎ出した舟を出港するとは何事ぞと言われましても。

432
「方敷きの衣手寒き松風に、秋の夕べと知らせずもがな」
寂しい独り寝で袖が寒く感じる松を吹く風に、秋の夕べと知られたくないものであるなあ。

433　　　　　かぎの
「宮城野の陰野の草は吾なれや、露繁けれど知る人も無し」
宮城野の山陰の野原の草は私なのであろうか、露がいっぱいではあるがそれを知っている人も居ないことですよ。

423
（気持ちだけは天上である宮中の辺りに通い続けておりますよ、恋は偉大なりです、あたかも天空の懸け橋の様にあの方との中を繋ぐのですよ。）との意を読んた歌
　ほ　ど
火床；囲炉裏の中心部のくぼみ。炎の燃え盛る場所。

424
（困難や危険の中を切り抜けてきて両手ですくい上げた命を繋ぐ水を飲んでみて、一体誰の為に捧げてきたこの命だったのでしょうね。）との意。
　お　　いと
愛し；愛しい。

425
（磐代の野原の中の松の枝を結んで幸いを祈るのだが、もしも無事で命が有ったのなら帰ってきて再びこの結んだ松を見るとしよう。）との意。

426
（岩代の山から麓へ吹き下ろす風が随分と冷たそうだ、妹背の川の波も高いように見えるよ。）との意。

427
（突然訪れる波に揺り動かされる根を張っていない浮島ではあるが、立つ波でさへも根は無いのですからお互い様ですよ。）との意。
又、
（不意の出来事にハッと驚かされる私ですので、我慢している涙に泣声さへありませんよ。）との意も含んだもの。

428
（可古島から鶴の鳴声がするのですが、松林を越してまで行って聞く人もないなんてもったいないですね。）との意。
あたら
可惜；惜しくも。もったいないことに。

429
（難波潟に生えている短い葦の節と節との間の様に、そんなつかの間も逢わないで一生を終えてしまえと云うのですか。）との意。

「よ」は「節」と「世」との掛詞。
「てよ」は完了の助動詞「つ」の命令形。

430
（岩間を漕ぐ小舟の様に波に揺られて思うように漕ぎ進める事が出来ない、岩に当たってしまえば砕け散ってしまいかねない危険なこの場所でね。自然とそう思われてきますよ。）小舟は自分自身、岩間は置かれている立場での心境を詠んだもの。

431
（既に漕ぎ出した舟ですので、もはや手を止める事は出来ません。今更どうしてかと聞かれましてもねえ…。）との意。

ぞは；…だろうかなあ。…だねえ。疑問を表す語を受けて感動を以って強調する意を表す。

432
（寂しい独り寝で袖が寒く感じる程淋しい音の松を吹き抜ける風に、自分の衣の片袖だけを下に敷いて一人で寝る事への飽きの夕べと知られたくないものだなあ。）との意。

もがな；…であればなあ。係助詞「も」に終助詞「か」が付いて「もが」に転じ更に軽い詠嘆を含んだ終助詞「な」が付いたもので願望を表す。

433
（宮城野の日陰の野原の草は私の様だからなのでしょうか、涙でいっぱいではあるけれどもそれを解っている人もおられないようですね。）と山陰の草に露が多いことを自分の境遇と照らし詠んだもの。

なれや；断定の助動詞「なり」の已然形「なれ」にここでは疑問を表す助詞「や」の付いたもの。…だからなのだろうか。

かささぎ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　えなんじ
鵲の橋；陰暦七月七日の夜牽牛と織女の両星が天の川にて遇う時に、鵲が現れて翼で架けて両名を渡すと云う想像上の懸け橋。中国の「淮南子」に書かれてあり、七夕伝説と共に日本に伝わり和歌などにも多く詠まれている。転じて、宮中を天上に喩えた時に云う、宮中の御殿の階段にも言う。
かささぎ
鵲；七夕伝説に出てくるカラス科の鳥の名。腹部と肩が白く烏より小さくて、尾が長い。日本では天然記念物。鷺の仲間の笠鷺は別種で今のアオサギともコサギとも云われている。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　さき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ありまのみこ
歌425参考；「磐代の浜松が枝を引き結び、ま幸くあらばまた帰り見む」（万葉集二・141、有間皇子）
孝徳天皇の皇子である有間皇子が斉明四年（658年）謀反を企てたが捉えられて、牟婁の湯へと護送された。後に藤白の坂まで連れ戻されてそこで絞殺された。この歌はその往路で詠んだ歌である。
いわしろ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　む　ろ　
磐代；和歌山県日高郡南部町岩代　　　牟婁の湯；和歌山県西牟婁郡白浜町・湯崎温泉　　　藤白の坂；和歌山県海南市藤白
かこのしま
可古島；播磨の国の加古川の河口にある島。歌枕。
みやぎの　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かぎの　　　やまかげ
宮城野；歌枕。萩の名所として古くから歌に詠まれる。宮城県仙台市東方の平野。「陰野」は山陰で日当たりの悪い野原。

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	馬蝋箋部分　具引染紙　花鳥折枝金銀袷型打光を受けての見え方
馬蝋箋部分　具引染紙　花鳥折枝金銀袷型打　　小高い丘の上に馬二頭、静かに草を食んでます。そばに生えるは柿の木でしょうか。少し暗くて判り辛いのですが、光の当たり具合で柄の見え方が変化します。右の馬の肩の部分と、丘の斜面のみに光が当たって輝いております。	伊勢集臨書用紙
	右上側部分花鳥折枝金銀袷型打
右上側部分　花鳥折枝金銀袷型打の様子です。こちら側にはﾛｰｾﾝは施されておりません。。	伊勢集臨書用紙
	馬蝋箋部分　具引染紙　柄部分にも墨は乗ります。
馬蝋箋部分　具引染紙　花鳥折枝金銀袷型打　　光を受けての見え方になります。少し斜めに写しておりますのでご了承下さい。少し青みがかって写っておりますので、お許しください。小高い丘の上に馬二頭、静かに草を食んでます。そばに生えるは柿の木でしょうか。	伊勢集臨書用紙