伊勢集　石山切三十六人集・装飾料紙

　　伊勢集（石山切）　三十六人集装飾料紙（清書用臨書用紙）　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　

伊勢の随想を自身の伝記的処遇を伝えながら、心の内を歌として書き綴った家集。歌数は483首あり、その殆どが贈答歌の形式をとっている。筆者は不明ながら、その筆跡は優美で漢字的要素を多分に少なくし仮名に重点を置いた書風となっている。伊勢集は多くの物が現存するが、この三十六人集以外の物はすべて歌数が多く、その採録歌を比べてみるとこの伊勢集が最も古い形態の物であると推察される。
昭和四年西本願寺本三十六人集より分割譲渡され、石山切とも呼ばれている。
特筆されるべきはここに使用されている料紙で、現存する家集の中では最も美しい装飾料紙がふんだんに使われている。料紙は全部で四十八枚使われているが、多くの技法が用いられている。
装飾料紙とは、広い意味では生成り以外の着色された総ての料紙は装飾料紙と為り、一般的には染無地以外の別の加工が付け加えられている料紙を指す。染紙、具引紙、具引唐紙、具引蝋箋、雲紙、羅紋紙、隈ぼかし、金銀箔砂子ノゲ振、破り継、重ね継、の料紙があり複合して加工されているものも多くみられる。殊に破り継・重ね継は実に半数の二十四枚にも及び類稀なる帖と成っている。
また、全ての料紙に金銀泥で花鳥折枝（全て細描タイプ）あるいはそれに準ずる下絵が施されており、布目或は絹目が付けられている。ほぼ全項に花鳥折枝が描かれているのは花鳥風月を友とするのと折枝、即ち恋文や手紙をやり取りする際には人々は意に沿った折枝を添えて届けさせていたと云う風習が有った為、これ等を歌集に綴じ込めたと思われる。

下記掲載の物は四十八紙の一部です。（右から左への並び順です。緑字は裏面部分です）組順はこちら
伊勢集の文字の背景がベージュ色の部分は解釈(現代語訳)を付け加えております。


伊勢集（破り継）	伊勢集（重ね継）	伊勢集 (重ね継)	伊勢集 (具引染紙)	伊勢集 (具引染紙)	伊勢集（具引唐紙）	伊勢集（表紙）

伊勢集 (具引唐紙）	伊勢集 (破り継）	伊勢集 (重ね継）	伊勢集 (染紙）	伊勢集 (破り継）	伊勢集 (具引唐紙）	伊勢集 (具引染紙）

伊勢集 (具引唐紙）	伊勢集（具引染紙）	伊勢集（破り継）	伊勢集 (具引唐紙）	伊勢集 (破り継）	伊勢集 (破り継）	伊勢集 (具引唐紙）

伊勢集 (具引唐紙)	伊勢集 (重ね継)	伊勢集 (破り継)	伊勢集 (重ね継)	伊勢集 (破り継）	伊勢集 (具引唐紙）	伊勢集 (破り継）

伊勢集 (重ね継）	伊勢集 (ギラ引唐紙）	伊勢集 (具引唐紙)	伊勢集 (破り継)	伊勢集 (重ね継)	伊勢集 (具引唐紙)	伊勢集 (重ね継)

伊勢集 (具引唐紙)	伊勢集 (破り継)	伊勢集 (具引唐紙)	伊勢集 (破り継)	伊勢集（具引唐紙）	伊勢集 (破り継)	伊勢集 (具引唐紙）

	伊勢集 (重ね継)	伊勢集 (具引唐紙）	伊勢集 (破り継)	伊勢集 (重ね継)	伊勢集 (破り継）	伊勢集（具引蝋箋）

西本願寺本三十六人集には様々な装飾料紙が使用されております。具引唐紙を始め、染紙や具引紙或はこれらに暈しや絵・金銀彩を施した装飾料紙、破り継料紙、重ね継料紙及び切継料紙等で、殆どの料紙に金銀で花鳥折枝が描かれているのが特徴です。当時集められる凡その美術料紙がふんだんに用いられております。
三十六人集で使われております染紙、具引染紙の一部です。

解説及び使用字母へ

伊勢集（第五紙）　書　　項を捲ると裏側にも書が書かれております。　田中親美氏模本
　縦6寸7分、横1尺5分5厘
両面加工の料紙を使用して綴じた帖です（見開き）。中央部分が窪んで、平行線が確認できるのは粘葉綴じの証です。

歌番号は伊勢集での通し番号　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　青色文字は使用字母　　　　　　　解釈（現代語訳）へ

　　　おなし女としごろいふともなくいは
　　　ずともなきをとこありけり。かへりごとも
　　　せざりければとしへにけるを、などか
　　　みつとだにのたまはぬとはべりけれ
　　　ば、このをむなみつとなむなをばつ
　　　けたりける。たちかへりをとこ、

１９
　たちかへりふみゆかざらばはまちどり
　あとみつとだに君いはましや

　　　かへし
２０
　としへぬることおもはずばはまちどり
　ふみとめてだにみべきものかは

　　　夏いとあつきひさかりにおなしをとこ
２１
　なつのひのもゆるわがみのわびしさに
　みつこひどりのねをのみぞなく

　　　かへりごとなし、これかれとかくいへど
　　　きかでみやづかへをのみしけるほどに
　　　時のみかどめしつかひたまひけり。よくぞ
　　　まめやかなりけるとおもふに、をとこ宮
　　　むまれたまひぬおやなどもいみじう
　　（よろこびけりつかうまつる。・・・）

　　　於奈之女止之己呂以不止毛奈具以盤
　　　寸止毛奈支乎止己安利希利加部利己止毛
　　　世左利希礼八東之遍爾計留乎奈止可
　　　美川止太爾能堂万者奴止者部利希礼
　　　者己能乎无那美川止奈無奈遠波川
　　　希太利希類堂遅可部利乎止己

１９
　堂遅可部利不美由可左良波々万遅止利
　安止美川止多爾君以者末之也

　　　可部之
２０
　止之部奴類己止於毛者寸者々末知止利
　婦美止女天多爾美部支毛乃可者

　　　夏以止安川支比左可利爾於奈之乎止己
２１
　奈川乃比能毛由留和可美乃和比之左仁
　美川己比止利能年遠乃三所奈久

　　　可部利己止奈之己礼可連止可久以部止
　　　支可天美也川可部乎乃三之計留本止爾
　　　時乃美可止女之川可比多万比希利與久所
　　　万女也可奈利計留止於毛不爾遠止己宮
　　　武末礼太万比奴於也那止毛以三之宇
　　（與路己比希利川可宇末川留・・・）　

　「礼」は「禮」とすることも。
　「與」は「与」とすることも。
　「爾」は「尓」とすることも。
　（　）は次項にあり現代語訳

　　　　　　　　　　　現代語訳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　解釈

　　　同じ女性に、長い間求婚すると云う訳でも無く
　　　求婚しないとも取り難い男性がいた。返事も
　　　しないままに年月だけが過ぎてしまったので、如何して
　　　（願いを）叶えたいとだけでも言わないのかと仰られたので、
　　　この女性に「みつ」と言う名前を
　　　付けたのであった。折り返し男性は

19
「立ち返り文行かざらば浜千鳥、跡（後）満つとだに君言わましや」
繰返し手紙を送っても届いた様子も無いのであれば浜千鳥よ、足跡を付けても（何れ後には潮が）満ちるだけだからと君は言うのだろうか

　　　返し歌

20
「年経ぬる事思はずば浜千鳥、踏み止めてだに見べきものかは」
長い年月を経てしまった事を思はないのであれば浜千鳥よ、踏んで跡を残す仕草をだけ見ていたら良いのであろうか。（否そんな事は無いだろう）

　　　夏のたいそう暑い日頃に同じ男性、

21
「夏の日の燃ゆる我が身の侘しさに、水恋鳥の音をのみぞ鳴く」
炎えるような夏の暑い日、（私の心も激しく燃えて思ってはいるけれどそれとは裏腹に）何とこの身の侘しい事よ。水恋鳥の鳴声だけが、物悲しく鳴り響いているよ。

　　　返歌も無くあれこれと、とやかく言っても
　　　聞かないで、宮仕えする事をだけやっていた時に、
　　　その時代の帝が傍に呼び寄せて要件をおさせになっていた。善くまあ
　　　誠実でまじめな様子であると、思うに男性は
　　　宮生まれで有られた。親たちも大変
　　　（お悦び申し上げ為されていた。）

19
（何度手紙を送っても、その手紙は浜千鳥の付けた足跡のように潮が満ちれば消えてしまう運命にあるとでも云うのだろうか。）無駄だと云うのかとの意を詠んだ歌。

浜千鳥；浜辺に来ている千鳥。和歌ではよく「あと」「跡無し」「行方も知らぬ」等に続けられる。その足跡は「筆跡」「手紙」等の意となる。

20
（長い間したためた手紙だけを後生大事に眺めていたら良いとでもいうのだろうか。否そうとは限ら無いだろう。）と思うのだが、との意。

「踏み止めて」は「文留めて」との掛詞。

かは；…だろうか、否…ではない。反語の意を表す。単独の「か」で用いられる時よりも反語となる事が多い。
又、「ものかは」で終助詞となり、強い感動を表す場合もある。…ではないか。…なことよ。
終助詞と取るとここでは自虐めいた歌となる。さてどちらを取るかは読む人次第である。

21
（水恋鳥は自分自身、「みつ」が恋しいとただただ泣いている。）

みづこひどり
水恋鳥；カワセミの一種で赤翡翠と呼ばれるツグミ程の大きさの鳥。渓流近くの広葉樹林に棲み、梅雨時によく鳴くので雨乞鳥とも云う。キョロロロロと響き渡るほどの大声で鳴く。

音を泣く；声に出して泣く。

音をのみぞ鳴く；万葉集の「音のみし泣かゆ」（只々もう泣けてくる）を念頭に置いたもの。

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　　　　　　　解説及び使用字母へ

伊勢；平安中期の歌人で三十六歌仙の一人。伊勢守藤原継蔭の女(娘)で宇多天皇の子供（行明親王）を産んで伊勢の御とも称されたが、皇子は早くに亡くなってしまう。同じく三十六歌仙の一人である中務の母でもある。元々は宇多天皇の中宮温子に仕えていたが、やがて天皇の寵愛を得る事となった。更に後には敦慶親王と親しくなり生れたのが中務となる。古今集時代の代表的な女流歌人で、上品で優美な歌を得意として古今和歌集以下の勅撰集に約１８０首もの歌が残る。生没年不詳、877年頃～938年頃。

中務；平安中期の歌人で三十六歌仙の一人。古今和歌集を勅撰したことで知られる醍醐天皇の皇弟で中務省長官、中務卿敦慶親王の王女。家集は『中務集』、天暦・天徳歌合せの作者。

伊勢集料紙組順

紙順	料紙主仕様	料紙特徴
第一紙	具引唐紙丸獅子唐草（白具引）	具引唐紙（丸獅子唐草）白具引に白雲母で柄刷りした料紙に金銀泥で花鳥折枝が全体に描かれている。右項に墨付けは無く左項よりの書き出し。
第二紙	具引唐紙丸唐草（二重複丸唐草）	白具引唐紙、白雲母。上下に極薄いぼかしが見られる。花鳥折枝金銀泥手描き。
第三紙	具引唐紙丸唐草（薄茶地）	薄茶具引唐紙、同色雲母摺（ギラ色刷り）。花鳥折枝金銀泥手描き。
第四紙	重ね継料紙『波』波紋唐紙（白具引唐紙）	左上から右下に上下斜めに二本の細長い継紙。右上が赤茶、淡墨桜の破り継、左下が焦茶、赤茶、焦茶の重ね継（三つ共全て）。花鳥折枝金銀泥手描き。
第五紙	破り継料紙『山』染紙（金銀泥霞雲）	右上、左下の上下隅に山の形の破り継。何れも濃縹色を含む茶系の継紙。しかも右上には山の後側に藍白で空の如く大きく継いである。松林霞雲金銀泥手描き、上部のみに小さく鳥。
第六紙	染紙（朽葉色）花鳥折枝金銀泥手描き	薄い朽葉色に染められ上部に淡いぼかしがある。花鳥折枝金銀泥手描き。
第七紙	具引唐紙花唐草（白具引）	白具引唐紙、白雲母。花鳥折枝金銀泥手描き。
第八紙	破り継料紙『花橘』孔雀唐草（白具引唐紙）	左半に破り継があり、上側が淡い朽葉色に蘇芳色、青灰色を経てその下に栗皮色と黄土色が継いである。右側の白台紙は孔雀唐草（孔雀宝相華）。花橘の襲の色目は表は朽葉、裏は青。
第九紙	紙屋紙（染紙）花鳥折枝金銀泥手描き	簾の目が見えるのは現代で云う萱漉楮紙。やや鼠色を呈しているのは反故紙（薄墨紙）の名残。花鳥折枝金銀泥手描き。
第十紙	重ね継料紙『為類久毛』台紙（白具引）	白具引の檀紙の右半分に右上から左下へ斜めに小豆色（紅茶）の重ね継、その右下に薄焦げ茶と栗梅の継紙更にその右下に浅縹色の継紙。花鳥折枝金銀泥手描き
第十一紙	破り継料紙『海神』二重唐草（白具引唐紙）	左中央やや上から右下にかけての破り継。具引染の継紙が四枚。右上台紙には上部に内曇り（雲紙）、左下台紙は二重唐草（白具引）。
第十二紙	具引唐紙蒲公英唐草（縹色具引）	縹色の具引唐紙で柄は小菊唐草（蒲公英唐草）。胡粉に藍色を付けて具引きした地色で少しくすんだ青色。花鳥折枝金銀泥手描き。
第十三紙	破り継料紙『天の川』夾竹桃（白具引唐紙）	料紙の中央横向きに天の川の様に破り継。鉄紺（濃縹鼠色）の染紙一枚での継紙で、川岸が出入りする状態。上側台紙は本阿弥切に同じ白具引唐紙、下側は白具引。
第十四紙	破り継料紙『亭子院歌』二重唐草（白具引唐紙）	上側右端から左下中央にかけて大きく湾曲した太めの破り継、その内側に半円が突出た様に継紙。左端には二重唐草の具引唐紙、右下側には薄草色の染紙。花鳥折枝金銀泥手描き
第十五紙	具引唐紙菱唐草（白具引）	白具引唐紙、白雲母。花鳥折枝金銀泥手描き。
第十六紙	破り継料紙『夏虫能』鯱波（白具引唐紙）	凡そ右半分が破り継右上には大きな黄檗色の継紙、左半分は鯱波の具引唐紙。花鳥折枝金銀泥手描き。
第十七紙	具引唐紙丸獅子唐草（黄土具引）	黄土色具引唐紙、黄雲母。
第十八紙	破り継料紙『詫ぶる涙』二重唐草（具引唐紙）	中央よりやや上側に左右に細長い波状の破り継、右端は大きく下まで沈み込む。上側は白具引に黄雲母で西瓜の葉、下側は白雲母の二重唐草で薄茶具引唐紙。花鳥折枝金銀泥手描き。
第十九紙	具引唐紙水辺の鴨（白具引）	薄黄茶具引に二羽の鴨。一羽は泳ぎ、一羽は今飛び立たんとする処。左上方の土手には葦が傾き穂を垂れている。
第二十紙	破り継料紙『兎』宝唐草（白具引唐紙）	左項中央上側から右項中央やや左下側にかけて斜めに細い破り継。右上側が白具引唐紙（宝唐草）、左下側は秋草に番の兎が薄茶染の雲母で刷り出されている。
第廿一紙	キラ引唐紙桜蔓唐草（黄雲母引）	薄茶具引に全面黄雲母引、更に上から黄土の胡粉で桜蔓唐草の柄を打ったもの。花鳥折枝金銀泥手描き。
第廿二紙	重ね継料紙『子日松』宝相華（白具引唐紙）	中央が白台紙で左側に焦茶色羅紋紙の重ね継、右側が五枚の茶系染紙の破り継で、中央は恰も湖か川面の様に見える。台紙は宝相華唐草の白具引唐紙。
第廿三紙	具引唐紙菱唐草（白具引）	白具引唐紙、白雲母。花鳥折枝金銀泥手描き。
第廿四紙	具引唐紙二重唐草（白具引）	白具引唐紙、白雲母。花鳥折枝金銀泥手描き。
第廿五紙	重ね継料紙『君が代』雲紙（薄茶具引）	右上にｸﾞﾚｰの簾（紙屋紙）周りを囲むように左に茶色羅紋紙の重ね継、その右下に煉瓦色の重ね継で恰も湖水の様に見える。左下斜めに三枚の染紙で破り継。中央斜めの台紙には左上に内曇り
第廿六紙	具引唐紙鯱波（白具引）	白具引唐紙、白雲母。花鳥折枝金銀泥手描き。
第廿七紙	重ね継料紙『西瓜』西瓜（白具引黄雲母）	中央が白台紙で右上に焦茶色羅紋紙の重ね継、左下が『山』同様の鉄紺を一枚含む五枚の茶系染紙の破り継で、中央には蔓葉を伴った西瓜の柄が見える。
第廿八紙	具引唐紙小唐草（薄黄土具引）	薄黄土具引唐紙、黄雲母。花鳥折枝金銀泥手描き。
第廿九紙	破り継料紙『置く露』雲紙（白具引）	左端四分の三付近から右項下側中央付近にかけて六枚の染紙で左下側山並みに破り継。右上側は染紙、上側僅かの幅で右端まで薄藍色の内曇りがあり空間の広さを印象付ける。
第三十紙	破り継料紙『我宿は』檀紙（白具引）花唐草	右半分は檀紙、左半分はほぼ破り継。浅縹地黄雲母で小菊唐草の継紙その左から下にかけて三枚の茶系の継紙、左下隅には小さな二重唐草（白具引唐紙）となっている。
第卅一紙	具引唐紙芥子唐草紋（薄茶具引）	薄茶具引唐紙、白雲母。花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅二紙	キラ引唐紙花唐草（薄黄土具引）	全面黄雲母引に黄土に染めた胡粉打。花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅三紙	重ね継料紙『秋月』秋草唐紙（極薄茶具引）	中央が極薄茶台紙で左側に七枚の染紙でうねる様子の破り継、右側にやや斜めに細長く焦茶色の羅紋紙と小豆色の重ね継、中央では秋の七草の陰で二羽の兎が戯れている様に見える。
第卅四紙	具引唐紙孔雀唐草（薄黄茶具引）	薄黄茶具引唐紙、黄雲母。花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅五紙	破り継料紙『人』宝相華唐草（白具引）	左上から右項下側中央付近にかけて四枚の染紙で左下側全てに破り継。中央部分浅縹色の継紙には黄雲母で小菊唐草が刷られ、第三十紙と同じ紙片が使用。右上側は白の儀引唐紙。
第卅六紙	具引唐紙丸獅子唐草（薄黄具引）	薄黄具引唐紙、白雲母。花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅七紙	破り継料紙『中務宮』朝顔（薄茶具引）檀紙	上部中央から左下三分の一付近にかけて五枚の染紙で左側斜めに破り継。右上側は檀紙、その下に濃縹、蘇芳、茶の破り継が上部中央から右下斜めに。その間に朝顔の疎らな柄の唐紙。
第卅八紙	具引唐紙孔雀唐草（薄紫具引）	薄紫具引唐紙、白雲母。花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅九紙	破り継料紙『方違え』宝相華唐草（白具引）	上部中央やや右寄から下側中央付近にかけて四枚の染紙で左側にやや湾曲した細長い破り継。右側は宝唐草の白具引唐紙、左側は鯱波の白具引唐紙で柄はともに白雲母。
第四十紙	具引唐紙丸唐草（二重複丸唐草）	白具引に白雲母。花鳥折枝金銀泥手描き。
第四十一紙	重ね継料紙『天橋立』波紋唐紙（白具引唐紙）	右側にほぼ料紙の三分の一大で焦茶色羅紋紙の重ね継、左上隅に縹色を含む五枚の茶系染紙の破り継で、中央は白具引の檀紙、羅紋が山で重部分が砂浜、細長い継が砂州に見える。
第四十二紙	具引唐紙馬蝋箋（桃色具引）	梅茶色具引蝋箋。土手の木の下で、馬が二頭草を食んでいる。花鳥折枝金銀泥手描き。
第四十三紙	破り継料紙『偽らず』不明の柄（白具引唐紙）	右上隅に三枚の染紙で破り継、中央部分下側に末広がりに黄檗・赤茶・小豆・縹・鉄紺の五枚で破り継。左側三分の一の白具引の台紙は柄が不鮮明である。
第四十四紙	具引唐紙菱唐草（白具引）	具引唐紙菱唐草（白具引）、この項の料紙は右項半葉分しかなく、左項は次の重ね継料紙の裏面になっている。筆が進んでおり、書き損じたためか、切り取ったものと思われる。
第四十五紙	重ね継料紙『西瓜の葉』西瓜（白具引黄雲母）	中央が長方形の白台紙で右下隅に焦茶色羅紋紙の重ね継、右上隅が紅茶染紙の重ね継で、左上隅を大きく下隅を小さく破り継とし、中央は西瓜の葉のみで恰も畑の如くに見える。
第四十六紙	破り継料紙『草枕』鹿蝋箋（黄土具引唐紙）	中央付近上側やや左寄りから右下中程にかけて斜めに手前で左にやや湾曲しながら、縹・小豆・薄蘇芳の三枚で細長の破り継。左側には黄土地に番の鹿蝋箋と秋草線描。（芒・萩・松・芝草）
第四十七紙	具引唐紙大重唐草（白具引）	白具引唐紙、白雲母。二重唐草の大柄の物で、花唐草を大きくして重ね唐草とした様な図柄。葉は大唐子唐草の葉柄に似る。花鳥折枝金銀泥手描き。
第四十八紙	破り継料紙『墨入れ無』二重唐草（白具引唐紙）	左上隅やや下側から右半中程にかけて斜めに波状の破り継。右上にｸﾞﾚｰの簾、その下に薄水色具引に黄雲母で花と葉が描かれる。左上隅は赤茶地、中央の継紙には土手と草が泥描き。

茶色の背景は重ね継、縹色の背景は破り継部分。実に半数もが破り継（重ね継）となっている。

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