伊勢集  重ね継『西瓜』(清書用臨書用紙)     戻る 『三十六人集』 粘葉本 一覧へ 戻る 『伊勢集』  一覧へ

伊勢集第二十五紙料紙、重ね継『グレーの簾』の部分の清書用臨書用紙になります。伊勢集そのものには裏面にも歌が書かれておりますが、表面のみの加工ですので表面のみの使用と御承知おきください。裏面にも墨入れをすることは可能ですが、裏面を使用するには力量が必要となります。裏面の臨書には同じ料紙をご利用頂くか、白具引料紙(花鳥折枝)をご利用下さい。

伊勢集 重ね継 『西瓜』  伊勢集 具引唐紙 『西瓜』 書拡大へ
西瓜料紙の書手本
拡大へ
 重ね継 『西瓜の葉』 花鳥折枝金銀袷型打   伊勢集 書




 伊勢集 重ね継 『西瓜』 左上側破り継部分 拡大 左上破り継部分
花鳥折枝金銀袷型打
 左上側破り継部分 花鳥折枝金銀袷型打  
渋い江戸紫色の破り重ね継に細い藍墨色と白黄色の破り継紙片です。
白黄色紙片には具引唐紙が使用されています。
右側の台紙は白具引料紙に見えますが写真では見えない所に金雲母の柄摺りが有ります。
 伊勢集臨書用紙


伊勢集 重ね継 『西瓜』 右上部重ね継部分拡大 
右上重ね継部分
花鳥折枝金銀袷型打

赤茶重ね継
具引紙(白)
 
 右上側重ね継部分 具引紙(白)
赤茶重ね継。花鳥折枝金銀袷型打

大部分が陰の為、灰色っぽく映っております。
伊勢集臨書用紙
重ね継
 
 伊勢集 重ね継 『西瓜』 右下重ね継部分 拡大  右下重ね継部分
花鳥折枝金銀袷型打
 右下重ね継部分 花鳥折枝金銀袷型打  
濃い焦げ茶の羅紋の重ね継です。濃い羅紋に隠れるようにしてスイカの蔓が覗いています。
隠れるようにはしてるのですが、なぜだか金雲母で施されて目立っています。
伊勢集臨書用紙
重ね継
 


伊勢集 重ね継 具引唐紙 『西瓜』 解説及び使用字母
 伊勢集 書 縦6寸7分、横1尺5分5厘 現物(西本願寺本) 第四十五紙
 両面加工の料紙を使用して綴じた帖です(見開き)。

歌番号は伊勢集での通し番号                             青色文字は使用字母          解釈(現代語訳)
463
 としふれど わすられはてぬ 人のよは
 こころとめてぞ 猶きかれける

464
 恋しきに しぬてふことは きこえぬを
 よのためしにも なりぬべきかな

   かにひの花につけて
465
 花のいろの こきをみずとて こきたるを
 おろかに人は おもふらんやぞ

   わらびを人にやるとて
466
 わがために なげきこるとも しらなくに
 なににわらびを たきてつけまし

   四月にさきたる桜の花につけて

   院の殿上人どもの物へおはします御

   ともにまいりてゐたる所

467
 とまりゐて はるこひしくや おもふらん
 花もかくこそ おくれたりけれ

   ある大納言ひえさかもとにおとはと

   いふ山のふもとにいとをかしきいへつ

   くりたりけるに、おとはがわをやり水

   にせきいれて、たきおとしなどした

   るをみてやり水のつらなるいしにかきつく


463
 止之婦礼止 和春良礼者天奴 人乃與者
 己々呂止女天楚 猶幾可礼希類

464
 恋之支仁 志奴天不己止波 支己衣奴越
 與乃太女之二毛 奈利奴部支可那

    加二比乃花爾川希天
465
 花乃以路能 己支乎美春止天 己支太類乎
 於路可爾人者 於毛婦良无也楚

    和良比遠人爾也類止天
466
 和可太女爾 那希支己流止毛 之羅奈久仁
 奈爾々和良比遠 多支天川希末之

    四月爾左支太類桜能花爾川希天

    院能殿上人止毛乃物部於者之万寸御

    止毛爾末以利天為堂留所

467
 止万利為天 者流己比之倶也 於毛婦良无
 花毛可久己楚 於久礼多利希礼

    安類大納言比衣左可毛止仁於止者登

    以不山乃不毛止仁以止越可之幾以部徒

    久利太利計留爾、於止者可波遠也利水

    耳世支以礼天太支於止之奈止之太

    流遠美天也利水乃川良奈留以之二可支川久
「礼」は「禮」とすることも。
「與」は「与」とすることも。
「爾」は「尓」とすることも。


           現代語訳                                    解釈             解説及び使用字母

463
「年経れど忘られ果てぬ人の世は、心留めてぞ猶聞かれける」
年月が過ぎてしまったとしてもすっかり忘れ去られることの無いこの世の中は、心残りが募ってか、今ですらまだ噂されていたなあ。


464
「恋しきにしぬてふ事は聞こえぬを、世の試にも成りぬべきかな」
恋焦がれて死ぬという事は聞こえては来ないけれど、世の中の試としてそういう事に成ってしまっても良いのかな。


   雁皮の花に心寄せて

465
「花の色の濃きを見ずとてこきたるを、愚かに人は思ふらんやぞ」
花の色の濃さを見ないままで引き抜いているのを、人は愚かなことだと思うだろうか、否思いはしないでしょう。


   蕨を人に届けさせて

466
「我が為に嘆き凝るとも知らなくに、何に蕨を焚きて付けまし」
私の為に悲しみ嘆き耽るとも知らないであろうに、何故に蕨をけしかけるようなまねをしたのでしょうね、しなければよかったのに。


   四月に咲いている桜の花に心寄せて
   上皇の付き人たちが、桜見物にお出かけになる
   お供にお付き添えして居りました所で、

467
「泊り居て春恋しくや思ふらん、花も斯くこそ遅れたりけれ」
足踏みしている春が恋しく思われるのでしょうか、花もきっとこの様に遅れたのでしょうねえ。


   或る大納言が比叡坂本にある音羽という
   山の麓にたいそう趣のある家を
   作っていたそうであるが、音羽川から遣水として
   堰入れて、滝落としなどを設置していたのを
   見て遣水の通る小川の連なる石に書付けた。



463
(長い月日が経ったと云うのにすっかり忘れ去られることの無いこの世の中では、心残りでもあるのでしょうか、この歳になってもまだ良からぬ声が耳に入ってきたそうですよ。)との意。


464
(恋焦がれて死ぬという事はこれ迄には聞こえては来なかったけれど、これからの世の中の前例として恋焦がれて死ぬと云う事が有っても良いのかな。)との意。


465
(収穫時かどうかも確かめないで引き抜いていることを、愚かなことをしているよと敢えて人は思うでしょうか、そんなこと思わないでしょうよ。)との意。


466
(私の為に嘆き悲しみ続けるとも知らないであろうに、どうして蕨をけしかけるような真似をしたのでしょうね、けしかけなければよかったのに。

「蕨」は「藁火」に通じる。春早くに見られる早蕨はあく抜きをして食す。藁を焚きつけて炎を燃やし、(恋の炎が)燃え切って残った燃えカスが灰で、更にこの灰で煮込むのが灰汁抜きである。


467
(中々来ない春が待ち遠しくて切ないほどに心ひかれる様を思う時、きっと桜の花もこの様に春を待ち望んで開花が遅れてしまっているのでしょうねえ。私たちと同じように!)との意。

やりみず
遣水;寝殿造りの庭園などに水を導き入れて、園内を流れるようにしたもので、多くは草木や岩石などを配して曲がりを作り風流を添えた。一般的には北東より入れて南西に流し出す。

せきい
堰入れる;水を堰き止めて他の場所へ導き入れる。


かにひ
雁皮;がんぴの古称。とのことであるが不詳。今でいう沈丁花の仲間の藤もどきとも云われる。(色は濃からねど藤の花に似て)

音羽山;京都市山科区と滋賀県との境にある山。歌枕。北側は逢坂山に続いている。音羽山から北東に向かって川が流れ琵琶湖に注ぐ。

坂本;滋賀県大津市にある比叡山の東麓の地名で延暦寺の門前町。日吉神社や西教寺、また坂本城址等もある。
(現在の比叡山坂本と音羽山とは少し地理的には離れている。音羽山は大津市の南西にあるので地理的な位置関係が正しいかどうかは不明、
記述時点で記憶が曖昧であったか、当時音羽山の山麓に坂本という地域が存在していたのかもしれない。)


     ページトップ アイコン                                         戻る はくび工房 『三十六人集』 一覧へ 戻る 『三十六人集』 重ね継 一覧へ
    解説及び使用字母