伊勢集（石山切）重ね継『グレーの簾』

伊勢集(石山切)　重ね継『ｸﾞﾚｰの簾』　（清書用臨書用紙）　　　　

伊勢集第二十五紙料紙、重ね継『グレーの簾』の部分の清書用臨書用紙になります。伊勢集そのものには裏面にも歌が書かれておりますが、表面のみの加工ですので表面のみの使用と御承知おきください。裏面にも墨入れをすることは可能ですが、裏面を使用するには力量が必要となります。裏面の臨書には同じ料紙をご利用頂くか、裏面専用料紙又は白具引料紙（花鳥折枝）をご利用下さい。

	重ね継料紙の書手本拡大へ　　裏面用の料紙
重ね継・右上グレーの簾　（半懐紙）料紙制作上は左下にｸﾞﾚｰの簾が来ていますが、実際に使用されているのは、写真の様に右上にｸﾞﾚｰの簾が有る状態で使われております。	伊勢集　書

	ｸﾞﾚｰの簾（紙屋紙）部分重ね継が湖畔の砂浜の様に作られております
右上のｸﾞﾚｰの簾（紙屋紙）部分　萱楮を使用して簾の柄を描き加えたものです。重ね継部分は羅紋の柄、花鳥折れ枝は金銀の袷型打です。重ね継は薄様紙５枚で一つの濃淡を表しております。	伊勢集臨書用紙
	「内曇り」部分藍色ぼかし当時は藍染め繊維の打ち流しで漉染にしていたものですが、非常に手間がかかる為、ぼかしによる再現です。
左上の「内曇り」ぼかし部分　ぼかし手書この部分は内曇りではなく、内曇り風にぼかしを描いたものです。

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伊勢集　書　縦6寸7分、横1尺5分5厘　第廿五紙　　　　　　　　　田中親美氏模本
　両面加工の料紙を使用して綴じた帖です（見開き）。中央部分が窪んで、平行線が確認できるのは粘葉綴じの証です。

歌番号は伊勢集での通し番号　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　青色文字は使用字母　　　　　　　　　解釈（現代語訳）へ

213
　君がよはつるのこほりに
　　　　　　　　　　　あえてきね
　さだめなきよの
　　　　うたがひもなく

　　　　　　　　　214
　　　　　　　　　　みしゆめのおもひ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　出
　　　　　　　　　　　　らるるよひ
　　　からにいきて　　　　　　ごとに
　　　　　心かはり　　　　いはぬをしへは
　　　　　　　　たる　　　　　　なみだ
　　　　　　　　人に　　　　　　　なり
　　　　　　　　　　　　　　　　　　けり
215
　うらうへそ
　　　おもひやらるる
　　　　　　　　からころも
　　　　　からにうつりて君がき
　　　　　　　　　　　　　　たれば

　　　物へ行人にかつらをやるとて
216
　ゆづりにし心もあるをたまかづら
　　　　　たむけの神となるぞうれ
　　　　　　　　　　　　　　　しき

　　　いづのかうしにてながされける時
　　　にみな人うたよみけるに
217
　わかれてはいつあはむとかおもふらむ

　（かぎりあるよのいのち
　　　　　　　　　　ともなし）

213
　君可與者川類能己保利爾
　　　　　　　　　　　　　　　安衣天支年
　左太女那支與乃
　　　　　宇太可比毛奈久

　　　　　　　　　　　　　　　　214
　　　　　　　　　　　　　　美志由免能於毛比
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　出
　　　　　　　　　　　　　　　　良類々與比
　　　　加良爾以支天　　　　　　　　己止仁
　　　　　　　心可者利　　　　　以者奴乎之部八
　　　　　　　　　　　　堂流　　　　　　　奈三太
　　　　　　　　　　　　人爾　　　　　　　　　奈利
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　希利
215
　宇良宇部楚
　　　　於毛比也良流々
　　　　　　　　　　　加良己呂裳
　　　　　　　可良仁宇川利天君可支
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　堂礼八

　　　　　物部行人爾可川良遠也流止天

216
　遊徒利二之心毛安類乎太万可川良
　　　　　　　堂武希能神止那留所宇礼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　之支

　　　　　以川能可宇之爾天奈可左礼計留時
　　　　　耳三那人宇太與三計留爾
217
　和可礼天者以川安者武止可於裳婦良無

　（可支利安流與能以乃知
　　　　　　　　　　　　　止毛奈之）

　「礼」は「禮」とすることも。
　「與」は「与」とすることも。
　「爾」は「尓」とすることも。
　（　）は次項にあり

　　　　　　　　　　　　　　　　現代語訳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　解釈　　　　　　　　　　　解説及び使用字母へ

　　　（甲斐へ行く人に）

213
「君が代は都留の郡に敢えて来ね、定め無き世の疑いも無く」
天子様の御代には都留の郡内に敢えて来てください、変りやすい世の中との疑いもしないで、ね。

214
「見し夢の思ひ出らるる宵毎に、云はぬ教へは涙なりけり」
見てしまった夢が思い出される夜毎に、言わないお告げは涙であったという事ですよ。

　　　唐（中国）に行って心変わりした人に

215
「裏表ぞ思ひ遣らるる唐衣、唐に映りて君が着垂れば」
あべこべですよ、思いやられますねえ立派な唐衣が、でも唐人の様に似合っておりますよ。貴方様が衣を垂れる様にして着ていらっしゃいますので。

　　　ある場所へ旅立つ人に鬘を届けさせると云って、

216
「讓りにし心もあるを玉鬘、手向けの神となるぞ嬉しき」
譲歩した気持ちもあったので、玉鬘が手向けの神となったことは誠に嬉しい事ですよ。

　　　伊豆の長官が亡くなられて伝えられていた時に
　　　皆が歌を詠んでいた時に、

217
「別れては何時逢はむとか思ふらむ、限りある世の命とも無し」
別れては今度はいつ会うだろうかと思っておりますよ、限りあるこの世の中で例え限りの無い命であるとしてもそんな事は無いのですから。

213
（瀬と淵とが変わり易い飛鳥川の様に人の世は無常であると疑うことも無く、都留の郡に敢えて足を運んでくださいね。）との意を詠んだ歌。

こおり
郡；律令制で国の下に属した地方行政区画で、郷・里・町・村等を含み縣と同義にも使われた。

都留；天子様の直轄である天領としての陣屋町。

214
（見てしまった夢が思い出される夜毎に、口に出しては言わないけれどもその様子が物語っているのは涙であったのだなあ。）との意を詠んだ歌。

215
（舶来で美しく珍しいので初見では着こなすのがぎこちなく見られるが、そのお姿は優美でいらっしゃいますよ。）とリップサービスを交えて褒め称えた歌。

唐衣；唐風の衣服で、袖が大きく裾が長くて上前と下前を深く重ねて着る。珍しくて美しい衣服として持て囃された。

216
（本当は私がとも思いましたが、玉鬘がお守りとなる事については心から嬉しく思いますよ。）との意。

たまかづら
玉鬘；多くの珠に緒を通し髪に掛けて垂らして飾りとしたもの。上代に多い。

　た　む
手向けの神；峠や坂の上などに祭られており、旅人が道中の安全を祈る神様。道祖神。

217
（何時でも今度いつ会えるだろうと思っておりますよ、寿命には限度が有って何れ死ぬ運命の世の中ですので、不老不死であるはずも無いのですから。）との意を詠んだ歌。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ぬさもの　たむけ
道祖神；道路の悪霊を防ぎ、旅人を守護する。旅人が道中の安全を祈る為に、幣物を手向ける峠などに祀られる神。

　　ページ

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　伊勢集(石山切)　重ね継『ｸﾞﾚｰの簾』裏面料紙　（清書用臨書用紙）　　　　

伊勢集第二十五紙料紙、重ね継『グレーの簾』の裏面部分の清書用臨書用紙になります。伊勢集の冊子に致しますと一紙には四項分がございますので、実際には左半分が第97項、右側半分は第100項になります。裏面の手本用写真では右項が第96項、左項が第97項となります。

	表面の書手本へ右項第二十四紙裏面左項第二十五紙裏面
重ね継・右上グレーの簾の裏面用料紙　（半懐紙）左側半分が第97項用部分、右側半分は第100項用部分になります。もちろん通常のかな書用一枚料紙としてもご利用になれます。	第二十五紙裏面料紙
	ｸﾞﾚｰの簾の裏面（紙屋紙）部分花鳥折枝銀型打　松枝・紅葉・千鳥・蝶々
左上側重ね継部分　一枚の染紙（簾の裏面）と二ヶ所の重ね継部分、一ヶ所の破り継部分が有ります。（両面加工したものではなく、裏面料紙用に表面加工を施したものになります。）	第二十五紙裏面料紙
	左下側重ね継部分花鳥折枝銀型打　紅葉・千鳥・蝶々
左下側重ね継部分　三枚の染紙と二ヶ所の重ね継部分、三ヶ所の破り継部分が有ります。グレーの簾の裏の部分以外には銀砂子が撒いてあります。（両面加工したものではなく、裏面料紙用に表面加工を施したものになります。）	第二十五紙裏面料紙

第二十四紙裏面及び第二十五紙裏面書

伊勢集　重ね継　『ｸﾞﾚｰの簾』・具引唐紙　『二重唐草』　裏面書拡大　（戻る伊勢集一覧へ）

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右項第二十四紙裏面
左項第二十五紙裏面

伊勢集　書　縦6寸7分、横1尺5分5厘　左項第二十五紙裏面　　　　　右項第二十四紙裏面　　　　第二十五紙表面へ
　両面加工の料紙を使用して綴じた帖です（裏面同士）。中央部分の窪みの平行線は粘葉綴じの剥がし跡です。

歌番号は伊勢集での通し番号　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　青色文字は使用字母　　　　　　　　　解釈（現代語訳）へ

208
　(あひにあひて物おもふときのわがそでは、)
　やどる月さへぬるるかをなる

209
　いかでかくこころひとつをふたしへに、
　うくもつらくもなしてみすらん

　　　ほりかはの院にとさくらとてさぶら
　　　ひける人の、みちのくのすけつねくに
　　　といふひとのめになりてくたるにかく
　　　なん

210
　しほがまのうらこきいづるふねのおとは、
　ききしがごとくきくはかなしや

　　　かへし
211
　しほがまのうらこぐふねのおとよりも、
　君をうらみのこゑぞまされる

　　　つくしへゆく人に
212
　まちわびてこひしくならばたづぬべく、
　あとなきみつのうへならてゆけ

　　　かゐへゆく人に

208
　安比爾安比天物於毛婦止支能和可楚天者、
　也止流月左部　奴留々可乎那類

209
　以可天可久己々呂比止川遠婦堂之部爾、
　宇久毛川良久奈之天美春良无

　　　保利可者能院二止左久良止天左不良
　　　比希流人乃、美遅能久乃春計川年久仁
　　　止以不比止能女爾奈利天久多留爾可久
　　　奈无

210
　志保可万能宇良己支以川類不年乃於止波、
　幾々之可己止久支久者可那之也

　　　　可部之

211
　志本可末能宇羅己久婦年乃於止與利母、
　君乎宇良美乃己恵楚末左礼留

　　　　川久之部遊久人爾
212
　万遅和比天己比之具奈良波多川奴部久、
　安止那支美川乃宇部奈良天遊希

　　　　可為部遊久人二

208
「相似合いて物思ふ時の我が袖は、宿る月さへ濡るる顔なる」
互いに似たもの同士で物思いに耽っている時の私の袖は、そこに映る月さへ濡れているような顔をしていますよ。

209
「如何で斯く心一つを二し重に、受くも辛くもなして見すらん」
何とかしてこの様に独りよがりの思いを二つにして、受け入れることも辛い事もなぜ見せてしまうのでしょう。

　　　堀川院へとさくらと言ってお仕えしていらした従者が
　　　陸奥の次官（助）経邦という人の妻になって
　　　任地へ向かうにあたってこの様に思って、

210
「塩釜の浦漕ぎ出る舟の音は、聞きしが如く聞くは悲しや」
塩釜の港を漕いで出て行く舟の音は、聞いた通りで聞くのは悲しいですねえ。

　　　返し

211
「塩釜の浦漕ぐ舟の音よりも、君を恨みの声ぞ勝れる」
塩釜の港を漕ぐ舟の音よりも、君を残念に思う声の方が勝っているようですよ。

　　　（任地の）筑紫へ行く人に

212
「待ちわびて恋しくならば訪ぬべく、跡無きみつの上ならで行け」
待ち侘びて恋しくなったならば訪ねるのがよい、跡形もないような御津の港の辺りからではなくて行きなさい。

　　　甲斐へ赴任して行く人に

208
（私の心とぴたりと一致するかの様に物思いに沈んでいる時の涙でいっぱいの私の袖は、その濡れた袖に映っている月までもが私と同じで涙に濡れたような顔つきに見えるようですよ。）との意を詠んだ歌。

209
（何とかしてこの様な自分自身の思いを二人別人の思いとしたいのに、どうして受け入れる事も例え受け入れたとしても落着かない事も、また心苦しく辛い事も貴方に見せてしまうのでしょうね。）との意を詠んだ歌。

二し重；二重。「し」は強調の意を表す助詞。

うく；「浮く」と「受く」との掛詞。

女；妻。配偶者の女性。

210
（塩釜の港を櫓を漕ぎながら出て行く舟の音は、聞いていた通りではありますが実際聞いてみるとやはり悲しいものですねえ。）との実感を綴った歌。

塩釜；現在の宮城県塩釜市にある松島湾に臨む風光明媚な港。歌枕。
櫓漕舟の「ギィ～コ、ギィ～コ」と云う音は郷愁と共に淋しさを募らせる。

211
（塩釜の港を漕ぐ舟の音よりも、松島湾を眺めている都を去ってしまった君の事を残念に思う声の方が勝っているようですよ。）との意を慰みで返した歌。

うらみ；「恨み」と「浦見」との掛詞。浦見は海辺を眺める事。

212
（待ち侘びて恋しくなったならば訪ねて行くのがよい、ただ跡形もなくなるような水の上、即ち御津の港の辺りからではなくて別の方法で行くべきですよ。）との意を詠んだ歌。

ならで；…ではなくて。断定の助動詞「なり」の未然形「なら」に打消しの接続助詞「で」の付いた形。

跡無き；跡形が無い。人が全く来ない。「跡無し」の連体形。
みつ；「水」と「御津」との掛詞。

ほりかはのいん
堀川院；京都の堀川の東に在った藤原基経の邸宅。
ふじはらのもとつね
藤原基経；平安時代前期の貴族で、長良の子。叔父の良房の養子として後を継ぎ、清和天皇の第一皇子（母は基経の妹の高子）である陽成天皇の摂政となったが、不仲となった陽成天皇を廃し、884年に仁明天皇の第三皇子で文人であった55歳の光孝天皇を立てて政務を代行した。天皇病没後、光孝天皇の第七皇子の宇多天皇が即位すると阿衡の紛議を起こして、名実ともに初めて関白となった。文徳天皇（850年～858年）一代の歴史を編年体で記録した10巻からなる『文徳実録』を撰集。通称を堀川大臣と呼ばれ、徳を称えて贈られた称号を昭宣公と云う。生年839年～没年891年

関白；平安時代以降に天皇を補佐して政務を執り行った重職で、令外官という。884年の光孝天皇の時、一切の奏文に対して天皇の御覧に供する前にあずかり（関）申させ（白）=お引受けして管理したことによる。摂政からなるのを例とし、同職を兼ねるものは太政大臣の上に坐した。以後の関白は藤原氏の独壇場で、藤原氏以外で関白となったのは遥か後の豊臣秀吉と秀次の二人だけである。摂政は幼少期の天皇の代理役に対して云い、成人後の天皇の補佐役に対しては関白を称した。

摂政；天皇に代わって政務を行う事。又その任に当たった官吏で完全に諸権限が与えられ、推古天皇の御代の聖徳太子以来皇族が任ぜられたが、清和天皇の時、幼少の為に外戚である藤原良房が866年に任ぜられて後は主として藤原氏が就任した。

もんとくてんのう
文徳天皇；仁明天皇の皇子。母は基経の叔母に当たる藤原良房の妹順子。850年仁明天皇の病死によって即位すると、良房が政権を欲しいままに操り、良房の娘である明子の産んだ第四皇子の惟仁親王（後の清和天皇）が文徳天皇の寵愛していた第一皇子である惟嵩親王を越して皇太子に立った。在位9年にて病没する。（生年827年～没年858年）

あこうのふんぎ
阿衡の紛議；887年の宇多天皇即位に際し、藤原基経を関白とした時の勅書に「宣以阿衡之任、為卿之任」と有ったのをいいことに、既に朝廷の最重要人物と成っていた基経は阿衡は地位だけの名誉職であり、職務は無いとして政務を顧みずにいたので、時の宮廷の臣の間に阿衡の語義を廻って議論が起ったが、遂には天皇が勅書を改作して事件は収まった。「阿」は頼る、「衡」は秤の意で、天下の民がそれに依って公平を得ると云う意味。この件により基経は権力を国中に知らしめる結果となり阿衡はこの後におけるいわゆる摂政・関白の称ともなった。

　　かくこうでん　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あづか　まう
漢書霍光伝より「諸事皆先関白光、然後奏御天子」（何事も皆先ず霍光に関り白して後に天子に奏した）=関白の号の起源。
霍光；前漢の政治家。武帝に仕えて匈奴を征して太子の博と成り、昭帝の時には大司馬大将軍、宣帝の時関白となる。

　　ページ

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	ｸﾞﾚｰの簾（紙屋紙）部分重ね継が湖畔の砂浜の様に作られております
右上のｸﾞﾚｰの簾（紙屋紙）部分　萱楮を使用して簾の柄を描き加えたものです。重ね継部分は羅紋の柄、花鳥折れ枝は金銀の袷型打です。重ね継は薄様紙５枚で一つの濃淡を表しております。	伊勢集臨書用紙
	「内曇り」部分藍色ぼかし当時は藍染め繊維の打ち流しで漉染にしていたものですが、非常に手間がかかる為、ぼかしによる再現です。
左上の「内曇り」ぼかし部分　ぼかし手書この部分は内曇りではなく、内曇り風にぼかしを描いたものです。

	表面の書手本へ右項第二十四紙裏面左項第二十五紙裏面
重ね継・右上グレーの簾の裏面用料紙　（半懐紙）左側半分が第97項用部分、右側半分は第100項用部分になります。もちろん通常のかな書用一枚料紙としてもご利用になれます。	第二十五紙裏面料紙
	ｸﾞﾚｰの簾の裏面（紙屋紙）部分花鳥折枝銀型打　松枝・紅葉・千鳥・蝶々
左上側重ね継部分　一枚の染紙（簾の裏面）と二ヶ所の重ね継部分、一ヶ所の破り継部分が有ります。（両面加工したものではなく、裏面料紙用に表面加工を施したものになります。）	第二十五紙裏面料紙
	左下側重ね継部分花鳥折枝銀型打　紅葉・千鳥・蝶々
左下側重ね継部分　三枚の染紙と二ヶ所の重ね継部分、三ヶ所の破り継部分が有ります。グレーの簾の裏の部分以外には銀砂子が撒いてあります。（両面加工したものではなく、裏面料紙用に表面加工を施したものになります。）	第二十五紙裏面料紙