伊勢集(石山切)  具引唐紙『孔雀唐草』(清書用臨書用紙)          戻る 『三十六人集』 粘葉本 一覧へ 戻る 『伊勢集』  一覧へ

伊勢集第三十四紙料紙、具引唐紙『孔雀唐草』の部分の清書用臨書用紙になります。孔雀唐草は宝唐草(宝相華唐草)の中央部分に頭を左に向けて蓮華座の台に佇む孔雀を図案化した唐草で、当時の密教では黄金の孔雀に乗った孔雀明王が呪文を唱える事で天変地異や病気など一切の災いを除くと信じられており、そうした思いとも相まって唐草柄として取り込まれたものと思われます。
伊勢集そのものには裏面にも歌が書かれておりますが、表面のみの加工ですので表面のみの使用と御承知おきください。裏面にも墨入れをすることは可能ですが、裏面を使用するには力量が必要となります。裏面の歌の臨書をご希望の場合には同じ柄をご用意ください。

伊勢集 具引白 『金砂子振』 花鳥折枝金銀袷型打 拡大   伊勢集 具引白 『金砂子振』 書拡大へ
白具引料紙の書手本
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    伊勢集
   第三十四紙書
 具引唐紙 『孔雀唐草』 花鳥折枝金銀袷型打 (半懐紙)
花唐草の中央部、やや右寄りでやや下側に円座の蓮台に乗った孔雀が描かれております。
  伊勢集 書




伊勢集 具引白 『金砂子振』 拡大 右上側部分 
花鳥折枝金銀袷型打
 
 右上側部分 花鳥折枝金銀袷型打  
極薄黄茶具引唐紙(孔雀唐草)に花鳥折枝を施したものです。
柳、紅葉、松葉、蔓竜胆、蕨、千鳥、蝶々。
 伊勢集臨書用紙


伊勢集 具引白 『金砂子振』 拡大 
判り辛いですが、金銀で一つの柄になっております。  
 左下側部分 具引 花鳥折枝金銀袷型打
極薄黄茶具引唐紙(孔雀唐草)に花鳥折枝を施したものです。
柳、紅葉、松葉、萩、千鳥、蝶々。
 


伊勢集 具引白 花鳥折枝金銀袷型打 書手本 拡大  解説及び使用字母
 伊勢集 書 與類者春可良仁… 縦6寸7分、横1尺5分5厘 第三十四紙 『孔雀唐草』

歌番号は伊勢集での通し番号                               青色文字は
使用字母         解釈(現代語訳)
311
 (あさなあさな そでをやしぼる きりぎりす)

 よるはすがらに なきあかしつつ

   七条の后宮みかども入道せさせたま

   ひにけるころ。

312
 人わたす ことだになきを なにしかも

 なからのはしと みのなりにけむ

   かへし

313
 ふるるみは なみだのかはに みゆればや

 なからのはしに あやまたるらん

314
 秋夜に ねておきいたる しらつゆは

 一人ある人の なれるなるべし

315
 いとまたぎ すぎぬるあきの かたみには

 えだにもみぢぞ ちりさしにける

   人の

316
 あふさかの せきはよるこそ もりまされ

 くれなはなにを 我たのむらん

   かへし


311
 (安左那々々々 楚天乎也志保留 幾利々々須)

 與類者春可良仁 奈支安可之川々

    七条能后宮美可止无入道世佐世太万

    比爾計留己呂。

312
 人和太春 己止堂仁奈支乎 那爾之可母

 奈可良能八之止 三能奈利爾計武

    可部之

313
 婦類々三者 那三太乃可八爾 美遊連者也

 奈可良能者之二 安也末太留良无

314
 秋夜爾 禰天於支爲堂流 之良徒由者

 一人安流人能 奈礼留那留部之

315
 以止末太支 春支奴安支能 可太美爾波

 衣堂仁毛美遅楚 知利左之仁希留

    人能

316
 安婦左可能 世支波與類己楚 毛利末左礼

 久礼奈者那爾乎 我太乃武良无

    可遍之


「礼」は「禮」とすることも。
「與」は「与」とすることも。
「爾」は「尓」とすることも。


          現代語訳                       解釈        解説及び使用字母
311
「朝な朝な袖をや絞るきりぎりす、夜はすがらに鳴き明かしつつ」
毎朝の様に袖を絞り取らせるきりぎりすよ、一晩中泣いてばかり居るつもりかえな!。


   七条の中宮が帝を仏門にお入りにならせ
   られた頃、

312
「人渡す事だに無きを何しかも、長柄の橋と身の成りにけむ」
人を渡すことですら無いのに、どうしてまあ長柄の橋とこの身は成ってしまったのでしょう。


   返し歌

313
「古るる身は涙の川に見ゆればや、長柄の橋に誤たるらむ」
年老いた体が涙の川に見えたとしたなら、長柄の橋にも取り違えて終うのかなあ。


314
「秋夜に寝ておき居たる白露は、一人ある人の成れる為るべし」
秋の夜に目覚めて起き上がるとそこに降りている露は、独りで暮らす人の為るべくして成ってしまった結果であるに違いない。


315
「いと急ぎ過ぎぬる秋の形見には、枝に紅葉ぞ散りさしにける」
たいそう急ぎ足で過ぎ去ってしまった秋の形見として、枝の紅葉を散りかけさせているようですよ。


   人の

316
「逢坂の関は夜こそ守り勝れ、暮れなは何を我頼むらん」
逢坂の関は夜にこそ守りを固められている、夕暮れ時には私は何を頼りとしたら好いのだろう。


   返し、

311
(毎朝毎朝私の袖を涙を拭くのに袖を絞らせるきりぎりすよ、お前がそうやって鳴いていると、私までもが泣けてくるのだよ。)との意を重ねて詠んだ歌

夜はすがらに;途切れることなく通してずっと。初めから終わりまで。


312
(今となっては古びてしまって人を渡すことすら出来はしないと云うのに、如何した事かこの私までもが長柄の橋の如くに使い物にならなくなったという事か。)との意。

長柄の橋;大阪市大淀区の淀川の支流の長良川に架けられていた橋。その事全てがあるがまま後に続くことの喩えとして引用される。

313
(年老いた体は涙もろく成ってしまった事で涙が何時も流れている川のように見えたとしたならば、長柄の橋の様にも思い違いをしてしまうのだろうね。)との意。第三句までは橋を導き出すための序詞。

ふる;「古る」と「降る(涙が流れ落ちる)」との掛詞。


314
(秋の夜長に外に置く露は当たり前、起き上がった床に降りている露=涙は、独り暮らしの人がその内至ってしまうものなんだろうな。)との意。

おきいたる;「置き至る」と「起き居たる」との掛詞。


315
(足早に秋の季節が去ってしまったようで、その証拠に散りかけの紅葉の状態からみて、今まさに枝の紅葉を散らせようとしてますよ。)との意。

さし;サ行四段活用型の接尾語「さす」の連用形「さし」。動詞の連用形に付いて動作を仕掛けて中途でやめる意を表す。…しかける。


316
(秘かに逢う為に越えねばならない峠は夜こそ守りが厳しい、辺りが暗くなると同時に私は何を当てにして彼女の方へ忍び込んだらよいのだろう。)との意。

くれな;暮れな。日の暮れ初めから暮れてしまうまでの間。「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形




317
「守り増せと夜はなをこそ頼まるれ、寝る間も有らば越さむと思へば」                      たやす
警戒を強めなさいよ!と、夜は尚のこと願いなさいな、寝る間があるなら越えることも出来ましょう!と思えば(容易いものですよ)。



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