伊勢集（石山切）破り継『緑に茶ぼかし紋』

　　　　
伊勢集(石山切)　破り継『緑に茶ぼかし紋』　（清書用臨書用紙）　　　　

伊勢集第二十二紙料紙の裏面で、右項重ね継『羅紋・濃焦げ茶』、及び第二十三紙料紙の裏面で、左項具引唐紙『菱唐草』の部分を1枚の料紙として仕立てたの清書用臨書用紙になります。伊勢集そのものには裏面にも歌が書かれておりますが、その裏面用の料紙になります。（料紙そのものは表面のみの加工ですので表面のみの使用と御承知おきください。裏面にも墨入れをすることは可能ですが、裏面を使用するには力量が必要となります。）裏面の歌の臨書をご希望の場合には重ね継料紙『羅紋・濃焦げ茶』（第二十二紙料紙）及び、具引唐紙料紙『菱唐草』（第二十三紙料紙）をご利用下さい。

	破り継料紙の書手本
破り継　　花鳥折枝金銀袷型打　（半懐紙）中央で唐紙柄が途切れているのは、原本が粘葉綴じによる別々の料紙の貼り合せ部分の項を模した為です。	伊勢集　書

	左項部分具引唐紙「菱唐草」田中親美氏模本に倣ったもの
花鳥折枝金銀袷型打部分　光を当てて強調してあります。　　金と銀で一つの柄になるように作ってあります。唐紙柄は菱唐草です。原本ではこの部分は具引・花鳥折枝金銀泥手描きになります。	伊勢集臨書用紙
	茶ぼかし紋部分
茶ぼかし紋部分　破り継ﾋﾟｰｽの部分は僅かに緑味を帯びた灰茶色です原本は前項、重ね継『羅紋・濃焦げ茶』の裏側です。勿論1枚の料紙として清書用に作成しております。

解説及び使用字母へ

伊勢集　書　縦6寸7分、横1尺5分5厘　　　　　　　右項第二十二紙裏面　　田中親美氏模本
左項は第十五紙表面（写真では左右両項で歌は続いておりません）

歌番号は伊勢集での通し番号　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　青色文字は使用字母　　　　　　　　　　　　　解釈（現代語訳）へ

　　　(ふみおこせたるつかひをたかり)
　　　おこせたるぞととひければ人
　　　のおやなくなりたる人をいかにと
　　　とひたるなりけり

188
　おほぞらにとふてふことのかたければ
　雲の上にぞさしてきこゆる

　　　かへし
189
　はまちどりつばさのなきをとふからに
　くもぢにいかでおもひかくらむ

116
　くれはててはるのわかれのちかければ
　いくらのほどもゆかじとぞおもふ

　　　わすれはべりにし人を夢にみ
　　　はべりて
117
　はるのよのゆめにあふとしみえつるは
　おもひたえにし人をまつかな

　　　さくらのちりはべりしに
118
　かぜさへもしてさはぐかな桜花
　心とたにもはるにまかせし

　　　　(婦三於己世多類川可比遠太可利)
　　　　於己世堂流所止々比希礼者人
　　　　能於也奈久那利太類人乎以可爾止
　　　　止比太類奈利計里

188
　於保所良仁止婦天不己止能加太希礼八
　雲能上爾楚左之天幾己由類

　　　　可部之
189
　者万遅止利川者佐乃奈支越止婦可良仁
　久毛知爾以可天於毛比可倶良无

116
　久礼者天々者流乃和可礼乃遅可希礼八
　以久良能保止毛遊可之止所於毛婦

　　　　　和春礼者部利爾之人遠夢爾美
　　　　　者部利天
117
　者流乃與能遊免爾安不止之美衣徒留者
　於毛比太衣爾之人遠万川可那

　　　　　左久良能遅利者部利之仁
118
　加世佐部毛之天佐者久可那桜花
　心止多爾毛者留爾万可世之

　（　）は前項にあり
　「礼」は「禮」とすることも。
　「與」は「与」とすることも。
　「爾」は「尓」とすることも。

　　　　　　　　　　　　　　現代語訳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　解釈　　　　　　　　　　　　解説及び使用字母へ

　　　手紙を盛んに届ける遣いの者に（どうして）そんなに纏わり付く
　　　のかと訊ねると、人として親に死なれて家族を失った人を
　　　どう思うかと問われてしまったので、
188
「大空に問ふてふ事の難ければ、雲の上にぞさして聞こゆる」
大空に向かって死者の霊を弔う事は難しいので、雲の上（宮中）だけに殊更に聞こえてくるのでしょう。

　　　返し歌

189
「浜千鳥翼の無きを問ふからに、雲路に如何で思ひ書くらむ」
浜千鳥よどうして翼が無いのだと尋ねるものですから、雲路にどうして思いを書き記す事が出来ましょうか。（出来はしませんよ。）

116
「暮れ果てて春の別れの近ければ、幾らの程も行かじとぞ思ふ」
季節も押し詰まって春の終わりも間近なので、どれ程も行くことはあるまいとさへ思いますよ。

　　　忘れておりましたお人を夢でお見掛けしまして、

117
「春の夜の夢に逢ふとし見えつるは、思ひ絶えにし人を待つかな」
春の夜に夢で逢うかのように自然と目に映るのは、あきらめてしまった人のことを待っているのかな。

　　　桜の散って終いましたのを見て、

118
「風さへもして騒ぐかな桜花、心とだにも春に任せし」
風までもの為に心が落ち着かなくなるものだなあ、桜の花よ、せめて（思いやりの）心だけでも春に委ねて欲しいものですねえ。

188
『大空に訪ねて行くことはとても難しいので、雲の上にこそ殊の外聞こえてくるのでしょうね。』が言葉の表すところであるが、安否を気遣い訪問することの難しさを、掛詞や縁語を用いて歌に込め気遣ったもの。

189
（浜千鳥よ何故飛び立って大空の雲路に足跡を残さない=手紙を書かないのですか、と問うので、砂地の無い雲路にどうやったら手紙を書くこと=足跡を残すことが出来るのでしょうか)との意を込めた歌。

くもぢ
雲路；月、星、鳥などが通る雲中の路。また雲の通う路。雲居は宮中を表すとも。

116
春の別れと自分たちの別れとを重ねて詠んだ歌に対する返歌
（春の終わりが間近なので、そんなに遠くまで帰って行くことはないだろうと思いますよ。）との意を返したもの。
115
「何処迄春は去ぬらん暮れ果てて、分れし程は夜になりにき」
の返し歌。

幾らも；＋打消しの語を伴って、たいして。どれ程も。

117
（春の夜に夢の中で逢っていたかのように自然に思われてくるのは、諦めてしまった人のことを忘れたつもりでも心のどこかで未だ待っているのかな）との意を詠んだ歌。

にし；…してしまった。完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」に過去の助動詞「き」の連体形「し」の付いた形。

（まるで風までもが私の心を落ち着かなくさせるものなのだなあ、桜の花よ、せめて思いやりの気持ちだけでも春の思い通りにさせたら良いのに）との意に加えて、（恋心もざわついて或は成就しなくて落ち着かないのに）との意を重ねた物。

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	左項部分具引唐紙「菱唐草」田中親美氏模本に倣ったもの
花鳥折枝金銀袷型打部分　光を当てて強調してあります。　　金と銀で一つの柄になるように作ってあります。唐紙柄は菱唐草です。原本ではこの部分は具引・花鳥折枝金銀泥手描きになります。	伊勢集臨書用紙
	茶ぼかし紋部分
茶ぼかし紋部分　破り継ﾋﾟｰｽの部分は僅かに緑味を帯びた灰茶色です原本は前項、重ね継『羅紋・濃焦げ茶』の裏側です。勿論1枚の料紙として清書用に作成しております。