222
「荒磯海の浜に在らぬ庭にても、数知られねば忘れてぞ積む」
荒磯の様な海の浜ではない庭ではあっても、数を知っておられないので忘れてしまって積んだのだろうよ。
隣に住んでいる人が優劣を競おうではないかと
花を持ってきたので、
223
「春にさへ忘られにたる宿なれば、色比ぶべき花だにも無し」
春にさへ忘れられてしまった我が家であるので、花の色艶を競うだけの花でさへも咲いておりませんよ。
224
「我をこそ忘れも果てめ梅の花、咲きしぞとだに思ひ出でなむ」
私こそすっかり忘れ果てて終いなさい、梅の花よ、咲いていたぞとばかりにきっと思い出してしまうだろう、から。
弥生(3月)の二つある年、
225
「桜花晴るくば晴れる年だにも、人の心に散れやはせぬ」
桜の花よ、せめて(雲を)払い除ければ晴れる年だけでも、人の心を別々にはしないで欲しいのですが。
我が家をある人が唯一無二とした後で
華美を極めると云って、
226
「花の色の昔ながらに見ゆめれば、君が宿とも思ほえぬかな」
花の色艶が昔のままかと見られる様なので、貴方の家とも思われないのですがねえ。
若い中宮の内侍の元に、
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(前栽を植えさせなさって庭砂を運ばせていた時に、
家の人でもない人が庭砂を持ってきたので、)の詞書。
222
(荒磯の海の様に砂が多く打ち寄せられるというわけでも無い庭であるが、どれ程必要なのかを知らないので、どこの家との記憶も無しに積んでいったのでしょう。)との意。
223
(春にさへも忘れられる程のみすぼらしい家なので競うだけの花も無いですよ。)と軽く往なして読んだ歌。
春にさへ忘れられた家とは自分自身の事をも示唆する。
224
(昔は美しく咲いていたことを自分の若かりし頃と重ね合わせて思い出してしまうから、私の方こそ忘れ去ってしまいなさいよ。)との意。
225
(せめて心が晴れる様にすれば晴れる年だけでも、花を咲かせて人の心を散り散りにすることなく晴々とした物にして欲しいのですよ。)
は
晴るく;開く、晴れるようにする。
あか
散れ;散り散りになる、別々になる。
に な
似無し;比べられるものが無い。二つとない。
花を遣る;華美を極める。派手に振舞う。豪華な生活をする。
226
(貴方の振舞いが昔あったそのままの様に見られる様なので、とても今の貴方の家とも思われないのですがねえ。)といぶかしがる歌。
こ;「小」=若い、「古」=太皇太后、「故」=亡くなられた、
こちゅうのてん
壺中之天;別天地。酒を飲んで俗世間の事を忘れる楽しみ。
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