伊勢集(石山切)  破り継『天の川』(清書用臨書用紙)   
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伊勢集第十三紙料紙、破り継『天の川』の部分の清書用臨書用紙になります。伊勢集そのものには裏面にも歌が書かれておりますが、表面のみの加工ですので表面のみの使用と御承知おきください。裏面にも墨入れをすることは可能ですが、裏面を使用するには力量が必要となります。裏面の歌の臨書をご希望の場合には同じ料紙をご用意いただくか、白具引紙(花鳥折枝)をご利用下さい。

伊勢集 破り継 『天の川』 伊勢集 破り継 『天の川』 書拡大へ
天の川料紙の書手本
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 破り継 『天の川』 花鳥折枝銀型打 (半懐紙) 
この部分の裏面の臨書を行うには白具引紙(銀砂子振)又は白具引紙(花鳥折枝)で代用して下さい。
   伊勢集 書





 伊勢集 破り継 『天の川』拡大 山水光悦銀型打 
 天の川部分 山水光悦銀型打  
天の川で釣りに興じる宇宙人、ではなくて翁です。川辺に描いてあるのは柳の木、松の木もあります。群れ飛ぶ鴨も水辺には付き物です。
天の川に散らばるのは星屑、それとも舞い散る雪でしょうか?。
 伊勢集臨書用紙


伊勢集 破り継 『天の川』 上部台紙部分拡大 
判り辛いですが、川岸に銀泥で降積もった雪が描かれております。春が待ち遠しい様子が感じとって頂けますでしょうか  
 上部台紙部分 具引唐紙(夾竹桃)
台紙に夾竹桃を使っているのは大変珍しいです。
ひょっとしたら本阿弥切れの余った料紙を使いまわししたのかも知れません。
左側半分は地色部分も陰の為、灰色っぽく映っております。
 


伊勢集 破り継 『天の川』 解説及び使用字母 
 伊勢集 書 縦6寸7分、横1尺5分5厘 第十三紙                           田中審美氏模写本
 両面加工の料紙を使用して綴じた帖です(見開き)。中央部分が窪んで、平行線が確認できるのは粘葉綴じの証です。
 右項裏面
前項参照 

歌番号は伊勢集での通し番号                           青色文字は
使用字母             解釈(現代語訳)
89
 かぜさむみ なくなるかりの こゑにより
 うたむころもを まつやからまし

90
 むめのはな かにだににほへ はるたちて
 ふるあはゆきに いろまがふめり

91
 ふるさとは たれきかめとや うぐひすの
 花よりのちに はるをつくらむ
   
ていじ
   亭子天皇をのなるゆきよしが
   いへにむめみにおはしまして
92
 おもひいでて みにござりせば むめのはな
 たれににほひの かをうつさまし

93
 せきこゆる みちとはなしに ちかなから
 としにさはりて はるをみぬかな

   みやに

94

 桜花 あだにちらさぬ ことをだに、我
 心にも まかせてしかな

   御屏風歌山に花みにいそぎ
   ゆくところ
95
 ちりちらす きかまほしきを ふるさとの
 (はなみてかへる 人もあはなむ)



89
 可世佐武三 奈久那留可利能 己恵爾與利
 宇堂武己呂毛乎 末徒也可良末之


90
 武女乃者那 可爾多爾々保部 者類太知天
 不留安者由支仁 以呂万可不女利

91
 婦類左止波 堂礼支可女止也 宇久比寸乃
 花與利能知爾 者流乎徒久良无

     亭子天皇遠能奈類由支與之可
     以部爾武女美爾於者之末之天
92
 於毛比以天々 美爾己左利世波 武免乃者那
 太礼爾々保比乃 可乎宇川左満之

93
 世支己由類 美遅止者那之爾 遅可那可良
 止之二左者利天 八留乎美奴可那

     美也爾
94
 桜花 安堂爾知良佐奴 己止乎堂仁、我
 心爾毛 万可世天之可那

     御屏風歌山爾花美爾以所支
     遊具止己呂
95
 遅利知良須 幾可万本之支越 不留左止能
 (者那美天可部流 人毛安者那武)


 「礼」は「禮」とすることも。
「與」は「与」とすることも。
「爾」は「尓」とすることも。
( )は次項にあり

                現代語訳                               解釈             解説及び使用字母
89
「風寒み鳴くなる雁の声により、打たむ衣を先ずや絡まし」
風が寒くなって来たので鳴いている雁の声も聞こえて来ることから、(砧で)打とうとしていた衣を先ずは巻きつけてからにするとしよう。


90
「梅の花香にだに匂へ春立て、降る淡雪に色紛うめり」
梅の花の香りだけが漂って来るよ、春が来たのだなあ、しんしんと降る淡雪に(どれが雪でどれが花なのか)見分けが付かないのだけれどね。


91
「故郷は誰聞かめとや鶯の、花より後に春を告ぐらむ」
故郷では一体誰が聞くと云うのであろうか、(春の到来を告げる)鶯は(梅の)花の散った後でも春を告げているのだろうね。


   亭子天皇、小野にある幸義の
   家に梅を見にいらっしゃいまして、

92
「思ひ出でて観に御座りせば梅の花、誰に匂いの香を移さまし」
もし(当時を)思い出して花見にいらっしゃたなら、誰にこの美しい梅の花の馨しい香りを移したら良いのでしょうか。


93
「関越ゆる道とはなしに近ながら、年に触りて春を見ぬかな」
関として越えて行くほどの道ではないのだが、近くにありながら年のせいか(体に)差障りがあるが春(梅の花)を眺めるられたかな。
或は
「ぬ」を打消しとみて、
関として越えて行くほどの道ではないのだが、近くにありながら年老いてか(体に)差障りが出て春(の景色)を眺めることも出来ないかな。


   宮に

94
「桜花徒に散らさぬ事にだに、我が心にも任せてしがな」
桜の花よ無駄に散らさない事だけでもしておくれ、(散るも散らぬも)私の気持ちに任せて欲しいものだなあ。


   御屏風歌山に花見に急ぎ行くところ
95
「散り散らす聞かま欲しきを故郷の、花見て帰る人も在らなむ」
散っているのか散っていないのかと聞きたいものを、故郷の桜を見て帰る人もいて欲しいものだ



89

(遠くから風に乗って聞こえてくる雁の響きと衣打つ砧の音とが重なってより一層物悲しさが漂うような歌である。)

み;「…を…み」の形で「…が…ので」のように原因・理由を表す。「を」は間接助詞であるがこれを省いた例となる。
衣打つ;砧で衣を打って布を柔らかくし艶を出す為に行う冬支度の一つ。その音が秋の哀れみを誘い古来詩歌に詠われた。


めり;動詞の終止形(ラ変動詞は連体形)に付き「見あり」から転化した助動詞。その様に見えている意を表す。…と見える。

90
(梅の花の香のみが漂ってきて、春の来たことに気づくのであるが、降る雪に花と雪との見分けが付かないのですよ。)と洒落た歌。

91
(山里では都で花の散った後に鶯の声を聞くけど、一体誰の為に春を告げているのだろうね。)との意で、時季の違いを風流に詠ったもの。

92
(思い出を辿って花見にいらっしゃったなら、誰にこの花の香りを届けましょうか。)との意。

93
(高齢を理由に中々来られなかったのだが、体に多少の障りこそあれ梅の花を見られてよかったかな)との意を詠んだ歌

94
(桜の花よ、せめて無駄に散らさない事だけでもしておくれ、散るも散らぬも私の気持ちに任せて欲しいものだなあ。)との願望の歌。

てしがな;活用語の連用形に付き、願望の終助詞「てしが」に詠嘆の終助詞「な」の付いたもの。…したいものだなあ。

95
(桜の花がもう散っているのか未だ散っていないのか如何かと聞きたいことがあると云うのに、これから行く所の桜の様子を見て帰る人と出会いたいものですよ。)との意を詠んだ歌。

屏風歌;屏風絵を主題として詠まれた和歌で古跡・名所などを描いた名所屏風歌と四季12か月を次々と詠う月次屏風歌とがある。

まほしき;推量の助動詞「む」のク用法「まく」に形容詞「欲し」の付いた「まくほし」の約語「まほし」の連体形「ま欲しき」。…したいこと。

在らなむ;…あって欲しい。ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形「あら」に願望の助動詞「なむ」の付いたもの。



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