伊勢集（石山切）破り継　『夏武之能』

　三十六人集　伊勢集(石山切)　破り継『夏虫能』（清書用臨書用紙）　　

伊勢集第十六紙料紙、破り継『夏武之能』の部分の清書用臨書用紙になります。伊勢集そのものには裏面にも歌が書かれておりますが、表面のみの加工ですので表面のみの使用と御承知おきください。裏面にも墨入れをすることは可能ですが、裏面を使用するには力量が必要となります。裏面の臨書には同じ料紙をご利用頂くか、白具引料紙（花鳥折枝）をご利用下さい。

破り継料紙の書手本
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第十六紙用料紙

伊勢集・夏虫能　（半懐紙）原本より一回り大きくなります。
こちらの破り継は右側半分にﾋﾟｰｽを集めたタイプのもので、継口が小さく波を打っていて大きな染紙紙片の端に小さな染紙紙片が２枚くっ付いたタイプの物が２ヶ所に在り二つが重なって立体的に見える珍しいタイプのものです。台紙の白具引唐紙の柄は鯱波です。花鳥折枝金銀袷型打は原本とは異なり類似を使用しています。

左上破り継部分

伊勢集・『夏虫能』　左上破り継部分の拡大です。左側の唐紙柄は、鯱波です。
この写真の中に３枚の破り継紙片、１枚の台紙（左側白色具引唐紙・鯱波）が有ります。

右下側破り継部分

花鳥折枝金銀
袷型打
（千鳥・紅葉・松枝）

伊勢集・『夏虫能』
右下側破り継部分の拡大です。白台紙の唐紙柄は鯱波です。
花鳥折枝金銀袷型打（千鳥・紅葉・松枝・蓼）箔に付いている格子の目は布目入の跡です。

染紙台紙部分
花鳥折枝金銀袷型打

（千鳥・紅葉・松枝・柳・草藤・蓼・蓬など）

伊勢集・『夏虫能』左下側台紙部分　　花鳥折枝金銀袷型打　
左下側の台紙部分は白色の具引唐紙、柄は鯱波です。

解説及び使用字母へ

伊勢集・『夏武之能』　書手本　縦6寸7分、横1尺5分5厘　第十六紙　破り継料紙

歌番号は伊勢集内での通し番号　　　　　　　　　　　　　　　　　青色文字は使用字母　　　　　　　解釈（現代語訳）へ

124
　夏むしのしるしるまとふおもひをば、
　こりぬあはれとたれかみざらん

　　　はるかたのさい将のきたのかたの
　　　かどのまへよりわたりたまふとて
　　　御せうそこをのみいひいれたまへれ
　　　ば、月あかきよ、

125
　雲井にてあひかたらはぬ月だにを、
　我やどすぎてゆくよひはなし

　　　物いみじうおもひはべりしころ

126
　わびはつるときさへもののくるしきは、
　いづこをしのぶなみだなるらん

　　　おなしころ

127
　しがらみにそでをからめどせきとめず、
　こぼるるものはなみだなりけり

128
　人しれず物おもふときのむらさめは、
　みよりすてふはまことなりけり

124
　夏武之能志留～万止婦於毛比遠波
　己利奴安者禮止多礼可美左良无

　　　者類可太乃左以将乃支多能可堂乃
　　　可止能万部與利和太利堂万婦止天
　　　御世宇所己遠乃三以比以禮多万部礼
　　　者、月安可支與、

125
　雲井爾天安比可太良者奴月多爾遠、
　我也止春支天遊久與比者那之

　　　物以三之宇於毛比者部利之己呂

126
　和比者川類止支左部毛能々久流之幾波、
　以徒己遠之能不那三多那留良无

　　　於那之己呂
127
　志可良美爾所天遠可良女止世支東免須、
　己保留々毛乃者那三太奈利計里

128
　人之禮春物於裳不止支能武良左女者、
　美與利春天不者末己止奈利希利

「與」は「与」とすることも。
「爾」は「尓」とすることも。
（　）内は次項にあり。

　　　　　　　　　　現代語訳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　解釈　　　　　　　　　解説及び使用字母へ

124
「夏虫の知る知る惑う思ひをば、懲りぬ哀れと誰か見ざらむ」
夏虫のように判っていながらも炎に飛び込んでしまおうとする思いを、懲りないね哀れなことだよと誰が見るでしょうか。否誰も見はしませんよ。

　　　晴賢の才将の奥方様の
　　　屋敷の門の前よりお越しになられるという事で、
　　　御手紙だけを取次に内へ伝え申し上げれば、
　　　月の明るい夜、

125
「雲井にて相語らはぬ月だにを、我宿過ぎて行く宵はなし」
宮中に居ても親しく語り合うことも無い月であるのに、我が家を通り越してまで出て行く夜ではありませんよ。

　　　随分と思い悩んでおりました頃、

126
「詫び果つる時さへ物の苦しきは、何処を忍ぶ涙なるらん」
すっかり思い悩んでしまった時にでさへ気が変になりそうにもなるが、何処を我慢しての涙なのだろうか。

　　　同じころ

127
「柵に袖を絡めど堰き止めず、零るる物は涙なりけり」
しがらみに袖を絡めても堰き止める事が出来ない、零れ落ちてしまうものは涙でございますよ。

128
「人知れず物思ふ時の村雨は、身より為てふは誠なりけり」
ひっそりと物思いに耽っている時のにわか雨は、人の体から降っていると云うのは本当であったのだなあ。

124
（虫のように身を滅ぼしかねないと知りつつも恋の炎に心乱れてしまう思いを、懲りないね哀れなことだよと誰が思うでしょうか。そんなことは誰も思わないでしょうよ。）との意を詠んだ歌。

知る知る；判っていながら。知りつつも。

言ひ入る；外から内に居る人に向って言う。

125
（月を眺めながら語り合いませんかとのお誘いに、寝室を出て行ってまでお会いする夜では御座いませんよ。）と往なして詠んだ歌

126
（すっかり思い悩んで悩み切ってしまった時でさへ気が変になりそうな程落ち込むこともあるが、一体何処を思い慕い何の感情を抑えての涙なのだろうか。）との意を詠んだ歌。

127
（或る物を堰き止めようとして袖で拭い去っても抑えても堰き止める事が出来やしませんよ、いくら柵に袖を絡めてもそれでも溢れ出て来るのは涙ばかりでございますよ。）との意を詠んだ物。
しがらみ
柵；川の中に杭を打ち並べて、それに竹や柴等を横に編んで水流を堰き止めるもの。転じて物事を堰き止めるもの。纏わり付く物。束縛するもの。

128
（一人で思い悩んでいる時の時々強く成ったりサッと止んだりするにわか雨は、妙に物悲しく成ったりフッと落着いたりする時の涙と同じで人の体から落ちていると云われるのも納得ですね。）と雨を涙に喩えて詠んだ歌。
　す
為てふ；降ると云う。他の自動詞代用としての「為」に「といふ」の約「てふ」の付いたもの。

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