伊勢集(石山切) 破り継『山』 (清書用臨書用紙)   戻る 『三十六人集』 粘葉本 一覧へ 戻る 『伊勢集』  一覧へ

伊勢集第五紙料紙、破り継『山』の部分の清書用臨書用紙になります。伊勢集そのものには裏面にも歌が書かれておりますが、表面のみの加工ですので表面のみの使用と御承知おきください。裏面にも墨入れをすることは可能ですが、裏面を使用するには力量が必要となります。

伊勢集 破り継 『山』   伊勢集 破り継 『山』 書拡大へ
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 破り継・山 銀泥手書
茶色系破り継紙片5枚、青色系破り継紙片3枚、染紙台紙1枚を使用して1枚の料紙に仕立てた破り継の臨書用紙です。
   伊勢集 書


 伊勢集 破り継 『山』 左下の山拡大 左下の山部分
銀泥手書

霞雲・松林
 
 左下の山部分 銀泥手書  
横に霞雲風に描いてあるのは金銀の混合泥です。
 


伊勢集 破り継 『山』 右上の山拡大 
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ばら売り用ページです

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破り継料紙『山』
 右上の山部分 銀泥手書
横に霞雲風に描いてあるのは金銀の混合泥です。
ばら売り1枚
8580円
 


伊勢集 『山』   解説及び使用字母
 伊勢集 書  項を捲ると裏側 にも書が書かれております。 田中親美氏模本
 縦6寸7分、横1尺5分5厘 第五紙

両面加工の料紙を使用して綴じた帖です(見開き)。中央部分が窪んで、平行線が確認できるのは粘葉綴じの証です。

歌番号は伊勢集での通し番号                            青色文字は使用字母             解釈(現代語訳)

   おなし女としごろいふともなくいは
   ずともなきをとこありけり。
かへりごとも
   せざりければとしへにけるを、などか
   みつとだにのたまはぬとはべりけれ
   ば、このをむなみつとなむなをばつ
   けたりける。たちかへりをとこ

19
 たちかへり ふみゆかざらば はまちどり
 あとみつとだに 君いはましや

   かへし
20
 としへぬる ことおもはずば はまちどり
 ふみとめてだに みべきものかは

   夏いとあつきひさかりにおなしをとこ
21
 なつのひの もゆるわがみの わびしさに
 みつこひどりの ねをのみぞなく

   かへりごとなしこれかれとかくいへど
   きかで、みやづかへをのみしけるほどに
   時のみかどめしつかひたまひけり。
よくぞ
   まめやかなりけるとおもふにをとこ宮
   むまれたまひぬおやなどもいみじう
   (よろこびけりつかうまつる・・・)




     於奈之女止之己呂以不止毛奈具以盤
     寸止毛奈支乎止己安利希利加部利己止毛
     世左利希礼八東之遍爾計留乎奈止可
     美川止太爾能堂万者奴止者部利希礼
     者己能乎无那美川止奈無奈遠波川
     希太利希類堂遅可部利乎止己

19
 堂遅可部利 不美由可左良波 々万遅止利
 安止美川止多爾 君以者末之也

     可部之
20
 止之部奴類 己止於毛者寸者 々末知止利
 婦美止女天多爾 美部支毛乃可者

     夏以止安川支比左可利爾於奈之乎止己
21
 奈川乃比能 毛由留和可美乃 和比之左仁
 美川己比止利能 年遠乃三所奈久

     可部利己止奈之己礼可連止可久以部止
     支可天美也川可部乎乃三之計留本止爾
     時乃美可止女之川可比多万比希利與久所
     万女也可奈利計留止於毛不爾遠止己宮
     武末礼太万比奴於也那止毛以三之宇
     (與路己比希利川可宇末川留・・・) 


 「礼」は「禮」とすることも。
 「與」は「与」とすることも。
 「爾」は「尓」とすることも。
 ( )は次項にあり


                現代語訳                                解釈            解説及び使用字母
   同じ女性に、長い間求婚すると云う訳だも無く
   求婚しないとも取り難い男性がいた。返事も
   しないままに年月だけが過ぎてしまったので、
   如何して(願いを)叶えたいとだけでも言わないのかと仰られたので、
   この女性に「みつ」と言う名前を付けたのであった。
   折り返し男性は

19
「立ち返り文行かざらば浜千鳥、跡(後)満つとだに君言わましや」
繰返し手紙を送っても届いた様子も無いのであれば浜千鳥よ、足跡を付けても(何れ後には潮が)満ちるだけだからと君は言うのだろうか


   返し歌

20
「年経ぬる事思はずば浜千鳥、踏み止めてだに見べきものかは」
長い年月を経てしまった事を思はないのであれば浜千鳥よ、踏んで跡を残す仕草をだけ見ていたら良いのであろうか。(否そんな事は無いだろう)

   夏のたいそう暑い日頃に同じ男性、

21
「夏の日の燃ゆる我が身の侘しさに、水恋鳥の音をのみぞ鳴く」
炎えるような夏の暑い日、(私の心も激しく燃えて思ってはいるけれどそれとは裏腹に)何とこの身の侘しい事よ。水恋鳥の鳴声だけが、物悲しく鳴り響いているよ。

   返歌も無くあれこれと、とやかく言っても
   聞かないで、宮仕えする事をだけやっていた時に、
   その時代の帝が傍に呼び寄せ要件をおさせになっていた。善くまあ
   誠実でまじめな様子であると、思うに男性は
   宮生まれで有られた。親たちも大変
   (お悦び申し上げ為されていた。…)





19

(何度手紙を送っても、その手紙は浜千鳥の付けた足跡のように潮が満ちれば消えてしまう運命にあるとでも云うのだろうか。)との意を詠んだ歌。

文行く;「文行く」は「踏み行く」との掛詞。

浜千鳥;浜辺に来ている千鳥。和歌ではよく「あと」「跡無し」「行方も知らぬ」等に続けられる。その足跡は「筆跡」「手紙」等の意となる。


20
(長い間したためた手紙だけを後生大事に眺めていたら良いとでもいうのだろうか。否そうとは限ら無いだろう。)と思うのだが、との意。

「踏み止めて」は「文留めて」との掛詞。

かは;…だろうか、否…ではない。反語の意を表す。単独の「か」で用いられる時よりも反語となる事が多い。
又、「ものかは」で終助詞となり、強い感動を表す場合もある。…ではないか。…なことよ。
終助詞と取るとここでは自虐めいた歌となる。さてどちらを取るかは読む人次第である。

21
(水恋鳥は自分自身、「みつ」が恋しいとただただ泣いている。)

みづこひどり
水恋鳥;カワセミの一種で赤翡翠と呼ばれるツグミ程の大きさの鳥。渓流近くの広葉樹林に棲み、梅雨時によく鳴くので雨乞鳥とも云う。キョロロロロと響き渡るほどの大声で鳴く。

音をのみぞ鳴く;万葉集の「音のみし泣かゆ」(只々もう泣けてくる)を念頭に置いたもの。




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