伊勢集(石山切) 具引唐紙 白『菱唐草』 (清書用臨書用紙)     戻る 『三十六人集』 粘葉本 一覧へ 戻る 『伊勢集』  一覧へ

伊勢集第十五紙で、白具引唐紙『菱唐草』の部分の清書用臨書用紙になります。菱唐草は二重線囲菱の中に万葉植物としても親しまれていた百合の花を図案化したものを、同じく百合の花と茎葉とで取囲んで繋ぐように考案されている図柄で、花は少しずつ向きを変えたりしながら描かれております。万葉の時代には「ゆり」はその後や将来・未来を表す言葉でもあり、華々しい将来や輝く未来を暗示させる図柄でもありました。
伊勢集そのものには裏面にも歌が書かれておりますが、裏面の料紙加工は施しておりません。(料紙そのものは表面のみの加工ですので表面のみの使用と御承知おきください。裏面にも墨入れをすることは可能ですが、裏面を使用するには力量が必要となります。)裏面の歌の臨書をご希望の場合には同じ料紙をご用意頂くか、白具引染紙(花鳥折枝)をご利用下さい。

伊勢集 具引唐紙 白 『菱唐草』 花鳥折枝金銀袷型打 拡大 伊勢集 具引唐紙 白 『菱唐草』 書拡大へ
白具引唐紙の書手本
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   第十五紙
 具引唐紙 白 『菱唐草』  花鳥折枝金銀袷型打 (半懐紙)
中央部分に光を当てております。周りのグレーに見える部分も光を当てれば中央部分と同様に
柄も輝いて見えます。

  伊勢集 書


伊勢集 具引唐紙 白 『菱唐草』 花鳥折枝金銀袷型打 唐草柄拡大 中央上側部分
『菱唐草』
花鳥折枝金銀袷型打
 
 右上側部分 『菱唐草』 花鳥折枝金銀袷型打  
白具引唐紙に金銀花鳥折枝を施したものです。
柳、紅葉、松枝、庭藤、小菊、不明の草花、千鳥、蝶々。
 伊勢集臨書用紙


伊勢集 具引唐紙 白 『菱唐草』 花鳥折枝金銀袷型打 左下側部分拡大 
判り辛いですが、金銀で一つの柄になっております。金泥は通常の濃さではなく銀で増量されたものです。  
 左下側部分 具引唐紙 白 『菱唐草』 花鳥折枝金銀袷型打
白具引唐紙に金銀花鳥折枝を施したものです。
松葉、紅葉、蓼、柳、千鳥。
 


伊勢集 書手本

伊勢集 具引唐紙 白 『菱唐草』 花鳥折枝金銀袷型打 書手本拡大  解説及び使用字母
 伊勢集 書 縦6寸7分、横1尺5分5厘 第十五紙
 両面加工の料紙を使用して綴じた帖です(見開き)。

歌番号は伊勢集での通し番号                              青色文字は
使用字母          解釈(現代語訳)

113
 さくらはな にほふともなく はるくれば
 などかなげきの しげきのみます

114
 しらたまを つつむそでのみ なかるるは
 春はなみだの さえぬなるべし


   四月一日みやにて

115
 いづこまで はるはいぬらん くれはてて
 わかれしほどは よるになりにき


   かへし 衛門命ぶ

116
 くれはてて はるのわかれの ちかければ
 いくらのほども ゆかしとぞおもふ

   わすれはべりにし人を夢にみ
   はべりて


117

 はるのよの ゆめにあふとし みえつるは
 おもひたえにし 人をまつかな

   さくらのちりはべりしに

118
 かぜさへも してさはぐかな 桜花
 心とだにも はるにまかせし



113

 左久良者那 爾本不止毛奈久 者流久礼八 
 奈止可那希能 之希利能三万寸

114
 志良堂万越 川々武所天能美 奈可類々盤
 春者那三多能 左衣奴那留部之


   四月一日美也爾天

115
 以川己末天 者類者以奴良无 久禮者天々
 和可禮之保止者 與留仁奈利爾支

    可部之 衛門命不


116
 久禮者天々 者流乃和可禮乃 遅可希禮八
 以久良能保止毛 遊可之止所於毛婦

    和春礼者部利爾之人遠夢爾美
    者部利天

117
 者流乃與能 遊免爾安不止之 美衣徒留者
 於毛比太衣爾之 人遠万川可那

    佐久良能遅利者部利之仁

118
 加世佐部毛 之天佐者久可那 桜花
 心止多爾毛 者留爾万可世之


「禮」は「礼」とすることも。
「與」は「与」とすることも。
「爾」は「尓」とすることも。


          現代語訳                      解釈         解説及び使用字母

113
「桜花匂ふともなく春来れば、などか嘆きの繁きのみ増す」
桜の花よ、美しく咲き染める程ではないにしろ春が来れば、どうして頻繁に心配ばかりが増すのだろうか。(いや、増はしないだろう。)





114
「白珠を包む袖のみ無かるるは、春は涙の障へぬなるべし」
白珠(涙)を隠す袖だけが無いのは、春は涙が遮られていないからに他ならない。
「白珠を慎む袖のみ流るるは、春は涙の支えぬ為るべし」
白珠を遠慮することの出来る袖だけに流れるのは、春は涙が感情を害さないからに違いない。

   四月一日、宮中にて

115
「何処まで春は往ぬらん暮れ果てて、別れし程は夜になりにき」
どこまで春は帰って行くのだろう。日がすっかり暮れて別れる頃には夜になって終ったよ。

   返し、衛門命婦

116
「暮れ果てて春の別れの近ければ、幾らの程もゆかしとぞ思ふ」
すっかり季節も押し迫って春との別れも近いので、どれだけでも懐かしく恋しいとさへ思いますよ。


   お忘れになっておりましたお方を夢で
   拝見致しまして、

117
「春の夜の夢に逢うとし見えつるは、思ひ絶えにし人を待つかな」
短い春の夜の儚い夢の中で逢ってしまって見えていたのは、その気が無くなってしまった貴方を待っていたのですかねえ。


   桜が散って終いまして、


「風さへもして騒ぐかな桜花、心とだにも春に任せし」
風までもが心ざわつかせるようですね、桜の花よ、せめて心だけでも春の為すが儘に委ねて欲しいな。



113
(桜が咲く頃に成ると、どこからともなく咲き染めてくる。何時満開になるだろうか、何時まで咲いているのだろうか、もう散って終ってはいないだろうか、雨風で散りはしないか、霞が隠してしまいはしないか、等と心配の種ばかりが増してきて、深く感じて溜息ばかりが増すことになる)との意で愛おしい人のことまでも念頭に入れ物思いに耽って詠んだ歌。
又、「などか」を反語と採ればそれを否定したいと思う気持ちを詠んだものとなる。

しげき;絶え間ないこと。「繁し」の連体形「繁き」、また「刺激」との掛詞。
桜の咲き始めはそれが刺激となって心配事が付きまとう。との意を含む。

114
(白珠の様な涙を包隠すことの出来る袖が無いのは、涙が止めどなく流れてきて拭い取る袖が幾つ有っても足りないから。)との意を読んだ歌。
或は
(涙をはばかることの出来る袖だけにそれでも流れるのは、春は涙が気にならないからなのでしょう。)との意。

なるべし;断定の助動詞「なり」の連体形「なる」に推量の助動詞「べし」。…であるに違いない。

115
(春も押し詰まって、いったい何処まで春は帰って行くのだろう。私はと云えば家に帰るつもりなのだが、すっかり日も暮れて愛しい人と別れる頃には夜中になって終いましたよ。)春は留まらないで往ってしまう、私も帰らねばならないのだろうか!との意で名残惜しさを詠んだ歌。

にき;完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」に過去の助動詞「き」の終止形。…てしまった。

116
(陽春の終わりも近く貴方との別れ時も近いので、どれだけでも好奇心が持たれ心引きつけられる感じさへしますよ。)との思いを返した歌。

えもんみょうぶ
衛門命婦;衛門府での五位以上の女官、又は五位以上の官吏の妻。

117
(春になると日増しに夜は短くなってくる、そんなに短く儚い夜の更に夢の中で遇ってしまったその人は諦めていた貴方でした。心のどこかであの人のことを待っていたのでしょうかねえ。)との意。


   風に舞い散って終った桜を眺めながら、
118
(風までもが私の心を落ち着かなくさせてしまったようですよ、桜の花よせめて長閑に咲いていて欲しいと願う人々の心だけでも春の移ろいに委ねて欲しいですね。)との願いを詠んだ歌。






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