寸松庵(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻五・秋下     戻る 寸松庵色紙 一覧へ
 具引唐紙『抱鶴唐草』(薄藍色)「誰がための」  田中親美氏作模写本

寸松庵色紙は古今和歌集の四季の歌を精撰して書写したもので、佐久間将監が京都大徳寺の離れ寸松庵で愛玩していた事により、寸松庵色紙と名付けられたもの。元々堺が繁盛していた頃に南宗寺の襖に三十六枚の色紙が貼られており、その内の十二枚を寸松庵に譲り受けたもの。残りの幾つかは烏丸光弘が譲り受けている。
料紙は舶来の具引唐紙の為、損傷が甚だしく具が不規則に剥落している。其の為、色紙の中には文字まで剥落してしまっているものもある。仮名は関戸古今と同様に四十七音の仮名遣いが用いられており、不明ヶ所の類推の参考とした。

寸松庵は天保五年に焼け落ちて衰退したが、茶室の寸松庵は辛うじて残っていた。然し乍ら明治二十二年には龍光院に合併され茶室の寸松庵は売りに出される事となっていた。明治三十一年に茶人として有名な高橋義雄氏に買われて東京へ旅立ち移築されたが、大正十二年の関東大震災に焼け落ちてしまい今では見ることができない。
 
歌『たがための にしきなればか 秋ぎりの・・・』へ、 歌『秋かぜの ふきあげにたてる しらぎくは・・・』へ
  歌『さきそめし やどしかはれば きくの花・・・』へ、  歌『ふみわけて さらにやとはむ もみぢばの・・・』へ



                かな                                水色文字は使用時母

寸松庵色紙 秋下 『たがための』 (薄藍色)
12.5cmx12.6cm

     きのとものり
         

  たがための に□

   きなればか 秋
         

     ぎりの、さ□
       

  の山べを □ちか

      くす覧


      
使用時母
          
  
     支乃□□□利

  堂可太免乃 爾□

    支奈礼者可 秋

     幾利乃、左□
         

  乃山部遠 □知可

        久春覧


                           紀友則
265
 誰がための錦なればか秋霧の、佐保の山辺を立ち隠すらん。

誰の為の紅葉の彩なのでしょう、秋の霧が立ち込めて佐保の山辺を覆い隠してしまいましたよ。(どうして覆い隠してしまうのでしょうかね)

覧;助動詞「らむ」の音便。疑念を込めた推量を表す。

秋霧;靄の密度が高まったもの。秋は霧、春は霞というのが習わし。



薄藍色具引唐紙・白雲母『抱鶴唐草』(全面)    三井八郎次郎氏旧蔵

ここに添えられている扇面は、金色地に暗緑の山が五山、山には所々に錦の紅葉が描かれ、山と山の間には湧き上る雲のような霧が描かれている。あたかも高い所から望む雲海の中に頂を突き出す五つの山の様に。

 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
 一行は一行に、繰返しは仮名で表記

佐保の山辺;奈良市北部の佐保川の近辺一帯。奈良時代に高官の邸宅の在った地。

2行目□は「し」、推定字母は「之」

4行目□は「ほ」、推定字母は「本」




写真では辛うじて抱鶴唐草が確認できている。

薄藍色;白茶とすることも。
 右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙(左は上製)
これまでの清書用には入れられていない柄(上製のみ)

(普通清書用では灰青緑色柄無の物を利用してください、右側)
若しくは薄渋黄土色柄無の物を利用してください。
     上製       普通清書用
  寸松庵色紙 具剥奪唐紙(藍色ぼかし)『抱鶴唐草』 清書用 臨書用紙(上製) 拡大へ 寸松庵色紙 具剥奪紙(灰青緑色) 清書用 臨書用紙 拡大へ
清書用 藍色ぼかし具剥奪唐紙・白雲母『抱鶴唐草』

このページの


(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻五・秋下
 具引唐紙『花襷』(薄茶色)「秋風の」

                かな                                水色文字は使用時母

寸松庵色紙 秋下 『あきかぜの』 (薄茶色)
12.4cmx12.7cm

   すがはらのあそん

    秋かぜの ふき
     あ げ に た て
       る し ら
          ぎく
            は
    花かあら
     ぬか なみの
         よするか


      
使用時母

  春可盤良乃安所无

   秋可世乃 不支
    安 个 爾 太 弖
       流 之 良
           支九
             盤、
   花可安良
     奴可奈美乃
        與春留閑
 
 
                           菅原朝臣
272
 秋風の吹き上げに立てる白菊は、花か在らぬか波の寄するか。

秋風の吹き上げて来る崖に立つ白菊の様に見える物は、花なのか花ではないのか、それとも飛び散る波の花なのか。


白菊;海岸付近の崖なら浜菊、川岸の崖なら野路菊。何れも秋に白花が咲く。

波の花;寄せる白波、或はその波が泡となって飛び散ったもの。

                
はなだすきもん
薄茶色具引唐紙・白雲母『花襷紋』(全面)        伊達宗基氏旧蔵
 
 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
 一行は一行に、繰返しは仮名で表記
「个」は「介」とすることも。「爾」は「尓」とすることも、
「弖」は「天」とすることも、「與」は「与」とすることも。






写真では少ししか確認できないが、全面に花襷が施されている。

薄茶色;茶とすることも。
 右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙(左は上製)
これまでの清書用には入れられていない柄(上製のみ)
(普通清書用では同色柄無の物を利用してください、右側)
     上製       普通清書用
  寸松庵色紙 具剥奪唐紙(薄茶色)『花襷』 清書用 臨書用紙(上製) 拡大へ 寸松庵色紙 具剥奪紙(薄茶色) 清書用 臨書用紙 拡大へ
清書用 薄茶色具剥奪唐紙・白雲母『花襷紋』

このページの


(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻五・秋下
 具引唐紙『亀甲紋』(薄蜜柑茶色)「咲き初めし」

                かな                                水色文字は使用時母

寸松庵色紙 秋下 『さきそめし』 (蜜柑茶色)
 12.6cmx13.0cm
           つらゆき

   さ き そ め し 

    やどしかはれ

   ば き く の 花

     いろさ へ に

   こそ うつろ ひ

       に け れ


      
使用時母

            徒良由支

   左 支 所 女 之

    也止之可盤礼

   盤 支 久 乃 花

    以呂左 部 爾

   己曾 宇川呂比

         爾个禮
 
 
                              紀貫之
280
 咲き初めし宿し変われば菊の花、色さへにこそ移ろひにけり。

咲き始めの頃の菊の花こそ宿が変われば、華やかささえも変化してゆくものだよ。

咲き始めの頃の菊の花は宿が変ったので(他所の家の庭に植え替えたので)、色鮮やかにさへ変わって行きましたよ。






薄蜜柑茶色具引唐紙・白雲母『亀甲紋』(全面)    岩崎小彌太氏旧蔵
 
 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
 一行は一行に、繰返しは仮名で表記
「爾」は「尓」とすることも、「个」は「介」とすることも。







写真では確認し辛いが、亀甲紋(一重亀甲)が施されている。

薄蜜柑茶色;薄赤、薄黄丹とすることも。
清書用は薄渋黄土色で代用。
 右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙(左は上製)
これまでの清書用には入れられていない柄色 (上製のみ)
(普通清書用では同色柄無の物を利用してください、右側)
     上製       普通清書用
  寸松庵色紙 具剥奪唐紙(薄渋黄土色)『亀甲紋』 清書用 臨書用紙(上製) 拡大へ 寸松庵色紙 具剥奪紙(薄渋黄土色) 清書用 臨書用紙 拡大へ
清書用 薄渋黄土色具剥奪唐紙・白雲母『亀甲紋』

このページの


(寸松庵色紙・古今和歌集抄本) 巻五・秋下
 具引唐紙『花襷』(薄茶色)「踏み分けて」

                かな                                水色文字は使用時母

寸松庵色紙 秋下 『ふみわけて』 (薄茶色)
 12.3cmx13.0cm
      

  ふ み わ け て 
   さらにやとはむ
       もみぢ
        ばの

  ふ り か く し
  てし みちと
     み な がら


      
使用時母

   不 美 和 个 天
    佐良爾也止盤武
           裳美知
            盤乃

   不 利 可 久 之
     天 之 美知止
         見 那 可良

 
 
                           (詠人不知)
288
 踏み分けて更にや訪はむ黄葉葉の、降り隠してし道と見ながら。

路はどこかと改めて問うまでもなく足を進めて、紅葉の葉などが降り積って覆い隠している道だと思って歩きましょうよ。

或は
訪れる人もなく、辺り一面の落ち葉を踏み分けて、さあ足を進めましょうよ(訪ねて行きましょうよ)。この下は紅葉で覆い隠されている道だと信じて。

この句には、ざくざくと心地よい音まで聞こえてくる散策の情景が見えてきませんか。



薄茶色具引唐紙・白雲母『花襷紋』(全面)       藤田傳三郎氏旧蔵
 
 漢字の意味の通じるものは漢字で表記
 一行は一行に、繰返しは仮名で表記
「个」は「介」とすることも、「爾」は「尓」とすることも。



歌289と続きで同柄の為元は一枚の料紙であったと思われる。





写真では確認し辛いが、花襷が施されている。


薄茶色;茶とすることも。
 右の写真はこの箇所に該当する清書用臨書用紙(左は上製)
これまでの清書用には入れられていない柄 (上製のみ)
(普通清書用では同色柄無の物を利用してください、右側)
     上製       普通清書用
  寸松庵色紙 具剥奪唐紙(薄茶色)『花襷』 清書用 臨書用紙(上製) 拡大へ 寸松庵色紙 具剥奪紙(薄茶色) 清書用 臨書用紙 拡大へ
清書用 薄茶色具剥奪唐紙・白雲母『花襷紋』

このページの