三十六人集(西本願寺本)                  戻る 『三十六人集』 粘葉本 一覧へ

   重之集  装飾料紙 (清書用臨書用紙)   

源重之の家集である。本集は完存しており、歌の総数は323首となっている。集の最初に二項半の序が設けられており、すべての歌に詞書が有って詠作事情が明らかである。屏風歌の様な詠題から贈答歌などもあり、注目すべきは百首歌である。すなわち春20首、夏20首、秋20首、冬20首、恋10首、怨10首と云うように、確然としてかたどられたものとしては初のものとなっている。この百首歌の後に祝歌が3首添えられている。料紙は三十四枚で重ね継は無く、破り継七枚(内四枚は一部に切継を含む)、三枚の墨流し料紙と十一枚の唐紙料紙、残り十三枚はぼかしを含んだ染紙に金銀彩を施した装飾料紙となっており、表裏共に花鳥折枝金銀泥袷絵が描かれている。描かれている花鳥折枝は比較的繊細な筆遣いで描かれているが、中には大変粗い描線のものも存在している。本重之集の伝本には、ほぼ五系統に分類されるものが知られている。
本集ではまず料紙二十四枚に諸歌集として220首が収められ、その内第十九紙より「重之が下巻」と書かれていることからそれより前はおそらく上巻ということになる(但し上巻の文字はない)。第二十五紙表面からの十枚に百首歌の103首が書かれているが、末紙である第三十四紙の『墨流し』には墨入れがされていない。
全料紙組順へ)

 重之集 三十六人集 ギラ引唐紙 (丸唐草)  三十六人集 染紙 (群飛雁)  重之集 三十六人集 ギラ引唐紙 (獅子唐草)  重之集 三十六人集 ギラ引唐紙 (七宝紋)  三十六人集 破り継 『於久川由爾』 拡大へ  三十六人集 重之集 染紙 『墨流し』  
第十四紙
 丸唐草
 
第十二紙
 群飛雁
 
第八紙
 獅子唐草
 
第七紙
 七宝紋
 
第三紙
 破り継
 
 第一紙
 墨流し
 重之集 三十六人集 破り継 『舟』 拡大へ     三十六人集 破り継 『於久川由爾』 拡大へ  重之集 三十六人集 ギラ引唐紙 (米亀甲紋)  重之集 三十六人集 ギラ引唐紙 (獅子唐草)
第三十三紙
 破り継『舟』
  
    第三紙
 破り継
  
第十八紙
米亀甲紋
 
第十五紙
獅子唐草

写真及び手本の拡大は後程掲載いたします。


重之集  染紙 金銀大小切箔砂子『墨流し』 (清書用臨書用紙)
重之集 金銀大小切箔砂子 『墨流し』 拡大
染紙 淡黄茶 金銀大小切箔砂子『墨流し』 花鳥折枝金銀袷型打 (半懐紙)


 重之集 金銀大小切箔砂子 『墨流し』 左下側部分拡大  重之集 第一紙 『墨流し』 書拡大へ
唐紙料紙の書手本拡大


使用字母へ
 左下側部分 染紙 薄黄茶 金銀大小切箔砂子振 花鳥折枝金銀袷型打
申し訳ございませんが写真では墨流しが写っておりません。
 重之集 書


重之集 金銀大小切箔砂子 『墨流し』 右下側部分拡大 
 
 右下側部分 染紙 薄黄茶 金銀大小切箔砂子振 花鳥折枝金銀袷型打
申し訳ございませんが写真では墨流しが写っておりません。
 


重之集 書手本

 重之集 染紙 『墨流し』 ( 第一紙詞書) 書 拡大  使用字母
及び解説
 重之集 書 縦6寸7分、横1尺5分5厘 染紙『墨流し』切箔砂子振 第一紙
 序

歌番号は重之集での通し番号              青色文字は使用字母



  
さんみ  だいに  こおののみやのおとど
  三位の大弐は故小野宮大殿と
  
おほいこ
  御子なり、わらはより殿上などした

  まへりけり。宰相をかへしたてま

  つられて、大弐になられてくだ

  りたまへるを、道風はなちては

  いとかしこき手かきにおはして

  て本などはつくしへぞ、か


  
きにつかはしける。かなの御
    

  手本にきにくださせたまひける

  を、かくべき歌どもよみてえむと

  のたまへば、あたらしきもむかしの

  もかきあつめてたてまつる。こ
          

  のうたの人も世中に心にかなは

  ぬをうき物におもひてくだれる

  にやあらむ。大弐のかくておき

  たまへるよしなどもあるべし所々

  のをかしきな、などもあめり。







  三位能大弐者故小野宮大殿々

  御子奈利和良者與利殿上奈止之太

  末部利計利。宰相遠可部之太天末

  川良礼天、大弐爾奈良礼天久太

  利太末部流遠、道風者那知天八

  以止可之己支手可支仁於保之天

  天本奈止波川久之遍所、可


  
幾爾川可者之遣類。可那能御
    

  手本爾幾爾久太左世太末比計留

  遠、可久部支哥止毛與三天衣无止

  能太末部波、安太良之支
毛武可之能

  无可支安川女天堂天万川類。己
          

  能宇太乃人毛世中爾心爾可奈八

  奴遠宇支物爾於毛比天久太礼留

  二也安良无。大弐乃可久天於支

  多末部留與之奈、止毛安留部之所々

  能遠可之支奈、々止止毛安女利。



「礼」は「禮」とすることも。          黄色文字は次項以降に在り
「與」は「与」とすることも。
「爾」は「尓」とすることも。
( )黄色文字は次項以降にあり

だいに                
そつ
大弐;律令制の官吏で、大宰府の次官。師の下に位し、少弐の上に位置する。(正五位上、のちには従四位下相当)

おとど
大殿;大臣・公卿の敬称。おほいどの。又、貴人の邸宅の敬称や御殿としても使う。

おほいこ
御子;長子(長男又は長女に対して云う)。

てんじゃう
殿上;清涼殿の殿上の間や紫宸殿に昇ること。四位・五位以上の一部の人、及び六位の蔵人が許されていた。

さいしょう          まつりごと
宰相;天皇を補佐して天下の政を総理する官吏。今でいう総理大臣。

三位の大弐と云うのは元小野の宮の大臣とそのご子息の長男であり、私よりも(先に)殿上などなされてしまいましたよ。宰相を返上されて大弐になられて、(大宰府へ)お下りになられたのですが、道風を手放してはたいそう賢い手書でいらっしゃるので、手本などは筑紫へと書きに遣わしていたようですぞ。
仮名の手本を書きに(筑紫へ)赴任させたまわったのですが、(手本に)書くべき歌なども詠んで欲しいと仰せ付かったので、新しいのやら昔のやらを掻き集めて献上されていた。この(献上された中にある)歌を詠んだ人も世の中(の有様)の心に叶わないのを、思うに任せない不本意な物として思われて下ったに違いない。大弐にこのようにして起こりなされた訳などもあるはずである。所々に趣深い文字などもあるようである。




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みなもとのしげゆき                                                            とうぐうぼう とねりのつかさ
源重之;平安中期の歌人で、左馬助・相模権守を歴任、三十六人歌仙の一人として旅の歌を好んで残している。春宮坊の舎人監の役人の筆頭者として、皇太子の護衛に当たっていた時、後の冷泉天皇となる皇太子に奉った百種は、現存する最古の百種歌となっている。生年及び没年不詳。〜1000年頃と考えられている。

伝本重之集の五系統;

【一】、本集・露庵本・類従本、本集に見られる様に諸歌集220首と百首歌103首を持つ系統である。歌仙本などと比べると諸歌集には3首の脱落があり、元々は223首在ったであろうと覗える。(第76・114・136首の後に其々1首ずつ脱落) 露庵本は6首脱して317首、類従本は7首脱して316首となっている。

【二】、歌仙本・書陵部蔵御所本三十六人集、歌の配列順序などはほぼ同様ではあるが、本集に比べて脱落も多く280首となっている。(第13〜22首、第149〜173首の37首分、及び次の11首分。第27・28・39・65〜67・85・98・104・122・176首)。百首歌では春・冬に其々1首ずつ異なる歌があり、夏は1首多くなっている。祝歌は1首のみで都合101首である。

【三】、書陵部蔵定家系統本、こちらは214首で配列順序も相違している。

【四】、書陵部蔵別本、151首のこちらのものでは、諸歌集と百首歌との順序を反対にしており誤脱もややみられる。元2冊の冊子であった為、前後したものとみられる。

【五】、徳川美術館蔵伝行成筆本、こちらのものは百首歌のみを独立させた類のもので、春・夏・秋・冬各20首、恋10首雑10首に、『かずのほかにたてまつれる二首』として2首があり、102首が収められているもの。





重之集料紙組順(空白部分は後程掲載致します。)

  紙順     料紙主仕様                          料紙特徴
第一紙   染紙『墨流し』
金銀切箔(表面中小)
 染紙全面墨流し。金銀泥で花鳥折枝が全体に描かれている。右項に墨付けは無く左項よりの書き出し。裏面は墨流し無の薄茶地に隈ぼかし、金銀大切箔と砂子振り。花鳥折枝。
第二紙  破り継
金銀切箔(白具引)
 上部横長に破り継右・濃縹色、中・紅色、左・朽葉色唐紙(丸獅子唐草)、下側白具引大小切箔。大小切箔裏面は具引唐紙(竹雀)。両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第三紙  破り継
花唐草(黄具引黄土刷)
 破り継、右上濃縹色・右下黄土色。中央上濃紫・その下斜めに茶、左端縦向きに白具引唐紙『二重唐草(白雲母摺)』。   裏面は唐草柄無の白地。両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第四紙   染紙 小隈取ぼかし
密に全面金銀砂子振
 薄黄茶染紙の下側中央やや左に小さな二つの隈取があり、全面に密に荒い金銀砂子振。
裏面も同様。両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第五紙   染紙 村雲ぼかし
金銀切箔ノゲ振 
 臙脂墨色の具引染紙に村雲ぼかし、まばらに中切箔とノゲ散し。   裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第六紙   染紙 天地草色ぼかし
疎らに金銀砂子振
 薄黄茶の染紙に村雲ぼかし、天地に淡い草色のぼかし。金銀砂子。裏面の方が砂子が多い。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。(粗めの描き)
第七紙   ギラ引唐紙
七宝紋(胡粉刷)
 ギラ引唐紙、七宝紋乳白胡粉刷。   裏面はギラ引唐紙で獅子唐草。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第八紙   ギラ引唐紙
獅子唐草(胡粉刷)
 ギラ引唐紙、獅子唐草乳白胡粉刷。   裏面もギラ引唐紙で獅子唐草。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第九紙  破り継
濃縹色(全面金銀砂子)
 右端に橡色の切継、左端に茜色の破り継、中央に濃縹色で金銀砂子を全面に鏤めた染紙、
裏面も同様。両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第十紙   具引染紙
全面金銀中切箔砂子振
 朽葉色具引染に疎らに金銀中切箔を散らし、全面に砂子振。   裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第十一紙   具引染紙
金銀砂子振
 縹色地の具引染紙に淡い村雲ぼかし、金銀砂子振。   裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第十二紙  染紙 群飛雁
全面金銀砂子振
 薄黄茶染紙に淡い隈ぼかし、全面に金銀砂子振。   裏面も同様。
両面芦原銀泥手描き。
第十三紙  破り継・切継
中央(薄黄土染)
 右端下広の斜めに紫の切継、左上隅に濃紫の切継、その下に橡色の破り継、中央は黄土染紙、
裏面も同様。両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第十四紙  ギラ引唐紙
丸唐草(胡粉刷)
 薄茶ギラ引唐紙(丸唐草)、薄茶色具引に白雲母でギラ引きし、胡粉で柄刷りした料紙に金銀泥で花鳥折枝が全体に描かれている。裏面は具引地に白雲母で丸獅子唐草、花鳥折枝。
第十五紙  ギラ引唐紙
獅子唐草(胡粉刷)
 ギラ引唐紙、獅子唐草胡粉刷。   裏面もギラ引唐紙で柄は丸獅子唐草。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第十六紙  ギラ引唐紙
花唐草(胡粉刷)
 ギラ引唐紙、花唐草胡粉刷。   裏面もギラ引唐紙で柄は丸獅子唐草。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第十七紙  染紙 隈取ぼかし
密に全面金銀砂子振
 薄黄茶染紙の全体に山形が淡く抜けて見えるように隈取があり、全面に密に細かい金銀砂子。
裏面も同様。両面花鳥折枝金銀泥手描き
第十八紙  ギラ引唐紙
花亀甲紋(黄雲母刷)
 ギラ引唐紙、花亀甲紋黄雲母刷。   裏面はギラ引唐紙で獅子唐草。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第十九紙  ギラ引唐紙
丸唐草(胡粉刷)
 ギラ引唐紙、丸唐草胡粉刷。   裏面は具引唐紙で柄は丸獅子唐草。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第二十紙  染紙『墨流し』
密に全面金銀砂子振
 薄黄茶染紙に丁子色で淡い隈ぼかしがあり、薄い墨流しと全面に密に細かい金銀砂子振。
裏面も同様だが砂子の量は約3倍と多い。両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第二十一紙  染紙『飛雲』
全面に金銀ノゲ散し
 薄茶色の染紙に全面にやや多めに金銀ノゲ散し。    裏面はノゲは無くかなり密に全面金銀砂子。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第二十二紙   ギラ引唐紙
小唐草(胡粉刷)
 ギラ引唐紙、小唐草胡粉刷。   裏面は具引唐紙で柄は丸獅子唐草。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第二十三紙   ギラ引唐紙
小唐草(胡粉刷)
 ギラ引唐紙、小唐草胡粉刷。   裏面は具引唐紙で柄は丸獅子唐草。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第二十四紙   染紙『天地隈ぼかし』
密に全面金銀砂子振
 薄黄茶染紙の中央に扇形が淡く抜けて見えるように上側両角に黄茶の隈ぼかしがあり、下側中央に半円の茶紫ぼかし、全面に密に細かい金銀砂子。裏面も同様。両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第二十五紙   破り継 『百首歌』
濃紫色(全面金銀砂子)
 右端下広の斜めに朽葉色の切継、左端に朽葉色の破り継、中央は濃紫色の染紙、全面金銀砂子振り。
裏面も同様。両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第二十六紙   染紙『横裾ぼかし』
砂子振は無し
 薄紫染紙の中央から下側横裾にややまだらにぼかしがあり、砂子は全く振られていない。
裏面も同様。両面花鳥折枝金銀泥手描き。両面ともに極まだらに描かれている。
第二十七紙    
第二十八紙     
第二十九紙     
第三十紙     
第三十一紙     
第三十二紙   ギラ引唐紙
七宝紋(胡粉刷)
 ギラ引唐紙、七宝紋胡粉刷。   裏面は具引唐紙で柄は獅子唐草。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第三十三紙   破り継 『舟』
朽葉色(全面金銀砂子)
 両端に白色の具引唐紙『逆波』、中央に朽葉色で金銀砂子を全面に鏤めて『舟』を描いた破り継、その下
濃黒紫の染紙の破り継、裏面には萱は在るが舟は描かれず。両面花鳥折枝金銀泥手描き。
第三十四紙  染紙『墨流し』
金銀切箔(表面中小)
 染紙全面墨流し。金銀泥で花鳥折枝が全体に描かれている。墨付けは無し。裏面は墨流し無の薄茶地に隈ぼかし、金銀大小切箔と砂子振り。花鳥折枝。



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