秋萩帖　ー巻子本・秋萩歌巻（二紙～七紙）ー

巻子本秋萩帖　（７寸８分２厘×２７尺９寸４分）　　　　　　

　　　所在不明歌集（題名のない歌集）　（両面加工）昭和初期の模写本

万葉集・寛平御時后宮歌合・古今和歌集・後撰和歌集・古今六帖などから撰出したと思われる鈔本の一巻である。巻頭の第一紙に秋歌２首、第二紙以後に冬歌２８首、その後雑歌１８首の計４８首が納められており、末尾六葉には王羲之の尺牘１１通分も臨写されている。この巻子本は元存在していた『淮南子』の巻子本の裏に『いちじろく今日ともあるかな・・・』以下を臨写した私用の秘蔵本である。（最初の一葉は当時の臨写前の原本か？）

拡大図

　　　　　第二紙　秋萩帖（秋萩歌巻）　　　　　　　明ｸﾞﾚｰ色（あかるいぐれーいろ）
　

　　
縦２３．７ｃｍ × 横３０．５ｃｍ

拡大図
秋萩帖（秋萩歌巻）

伝小野道風筆

推定
藤原行成筆

万葉仮名

　第二紙　秋萩帖

　　　　けふ　　　　　かみなづき　　　　しぐれ
いちじろく今日ともあるかな神無月、山さし曇り時雨降るめり　　　　　　　　　　　　　　　後撰和歌集　冬歌　　不知読人　

意知之呂久気布東毛安留閑難我美奈難都幾、也末散之久母利之久禮不留女理

　　　　　　　　　　　かみなび　　　　　　こ　　は
神無月時雨と共に神南備の、森の木の葉は降りにこそ降れ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人

閑見難川幾之久禮登□毛耳駕美難悲能、母理能許乃者々布利爾己所布禮

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ

歌の読みと
万葉仮名
です。

□は脱字と思われる部分です。

拡大図　　　　　第三紙　秋萩帖（秋萩歌巻）　　　　　　　　　　　ベージュ色淡色（べーじゅいろたんしょく）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　縦２３．７ｃｍ × 横４３．２ｃｍ	拡大図　秋萩帖伝小野道風筆推定藤原行成筆万葉仮名
第三紙　秋萩帖　　　　よ　　　おみなえし　　　　霜の降る夜は肌寒し女郎花、我が宿かるな名にぞへてだに　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人之毛能布留餘者々當散牟之遠見難弊之、和可也東閑留奈々爾所弊天當仁　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こと　は　秋果てて霜になりにし我なれば、散る言の葉を何か恨みむ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　後撰和歌集　冬歌　　不知読人　安幾者轉々之毛爾難理爾之和禮難禮者、知流許東能者遠那仁閑有羅見武　おも　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たづ　よは物思ふと独しも我が起きつれば、海辺の鶴も夜半に鳴くなり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　母能於毛布登飛東利志毛和可於幾川禮者、雲美辺乃堂都毛餘者爾難久奈理　　　あられふ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かきくらし霰降（りつめ白玉の、敷ける宿とも人の見るがに）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　我幾久良之安羅禮不（利川面之等堂末能、之気留也登々毛悲東能見流閑耳）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ	歌の読みと万葉仮名です。（　）内は第四紙に跨ります。
拡大図　　　　　　　　第四紙　秋萩帖（秋萩歌巻）　　　　　　　　　　　　　　　亜麻色（あまいろ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　縦２３．７ｃｍ × 横４３．０ｃｍ	伝小野道風筆推定藤原行成筆万葉仮名
第四紙　秋萩帖　　　　　あられふ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（かきくらし霰降）りつめ白玉の、敷ける宿とも人の見るがに　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人（我幾久良之安羅禮不）利川面之等堂末能、之気留也登々毛悲東能見流閑耳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こ　　　　　　よ松の上に○○○○霜の寒ければ、来むやと頼む夜こそ多けれ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人萬都能有弊耳□□□□之毛能散武計禮者、許牟也東堂能無餘己所於保気禮　　　　　　　さや　　　　　よ高山の下草騒ぎ○○○夜を、今宵もやはた我が独寝む　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人堂我也萬能之當久斜々也幾□□□餘遠、許餘悲毛耶者當和可比東利禰牟　　いた　　おき　　　　　　　　　　　　　　　あ　ま　　そで風を悼み沖つ白波高からし、釣りする海人の袖（かへる見ゆ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人駕勢遠以堂見於幾川之羅奈美當閑々良之、川利春留安末能所天（閑弊留見遊）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ	（　）内は第三紙から跨ります。歌の読みと万葉仮名です。 ○印は不明部分です。 □は脱字と思われる部分です。（　）内は第五紙に跨ります。
拡大図　　　　　　　　第五紙　秋萩帖（秋萩歌巻）　　　　　　　　　　　　　　　生壁色（なまかべいろ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　縦２３．７ｃｍ × 横４３．４ｃｍ	伝小野道風筆推定藤原行成筆万葉仮名
第五紙　秋萩帖　　　　　いた　　おき　　　　　　　　　　　　　　　あ　ま　　そで（風を悼み沖つ白波高からし、釣りする海人の袖）かへる見ゆ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人（駕勢遠以堂見於幾川之羅奈美當閑々良之、川利春留安末能所天）閑弊留見遊　　　　　　 ×　　　　　　　　　　　　　　　　　　　待ち兼ねて我はむ帰らじむば玉の、我が黒髪に霜は置くとも　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　　　　　　　　　　　　×１末地閑禰轉和禮者牟閑部良之武者堂萬能、和我久呂閑見耳志毛者於久東母　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こと　　は　　　　　　　　　＊１神無月我が身あらしの吹く里は、言の葉さへぞ移ろひにける　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人可見難都幾和閑見安羅之能布久散東者、古東乃者左弊所雲川呂飛耳気留　　　　　　　　　　　　やまもり時雨降るふるや深山の山守に、あらねど今朝は袖ぞ露けき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ×　×２之久禮布留々々也美也萬能也末毛理耳、安羅年登気散者所轉所都遊計幾計幾　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ	（　）内は第四紙から跨ります。歌の読みと万葉仮名です。 ×印は余字です。
拡大図　　　　　　　　第六紙　秋萩帖（秋萩歌巻）　　　　　　　　　　　　　　　濃緑色（のうみどりいろ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　縦２３．７ｃｍ × 横４３．２ｃｍ	伝小野道風筆推定藤原行成筆万葉仮名
第六紙　秋萩帖　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　わ　　　　　　　ふ霜の上に跡踏みとむる浜千鳥、行方も無しと詫びつつぞ経る　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人志毛能宇弊耳安登不美東牟留者末地東理、遊久倍毛難之東和悲都々所布流　　　　　　　こお　　　　　　　　おと　　　　　　　　　　　天の川冬は空さへ凍ればや、石間にたぎつ音だにもせぬ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人安末能閑者布由者所羅散弊許保禮者也、以之末耳堂幾川於東堂爾母勢奴　　　　　　　　　　　うみ　　　　　　　　　　　あ　ま　　そでさざ波やいた山風の湖吹けば、釣りする海人の袖かへる見ゆ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人散々難見也以堂也末加勢能雲美布気者、川利春留安末能所天我部留見由　　　　　　　しまべ風無くばいざ島邊見に沖つ波、立（ち○しくとも空しくは来じ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　可世難久者以散之末弊美耳於起川難見、堂（知□之久東毛牟奈之久者許事）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ	歌の読みと万葉仮名です。 ○印は不明部分です。 □は脱字と思われる部分です。（　）内は第七紙に跨ります。
拡大図　　　　　　　　第七紙　秋萩帖（秋萩歌巻）　　　　　　　　　　　　　　　丁字茶色（ちょうじちゃいろ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　縦２３．７ｃｍ × 横４３．０ｃｍ	伝小野道風筆推定藤原行成筆万葉仮名
第七紙　秋萩帖　　　　　　　　　しまべ（風無くばいざ島邊見に沖つ波、立）ち○しくとも空しくは来じ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（可世難久者以散之末弊美耳於起川難見、堂）知□之久東毛牟奈之久者許事　　　　あらし　　　　　　　今朝の嵐寒くもあるかなあしひきの、山さし曇り雪ぞ降るらし　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人計左能安羅之散牟久裳安留閑難安之悲幾乃、也萬斜之久毛利遊幾所布留良之　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たもと　　　　　　　　　　　受けもあへず空に消えつつ降る雪を、などかたのまむ袂濡らしに　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人雲気母安弊数所羅耳起要都々布留遊幾遠、難東閑堂能末武多毛登奴良之爾　　　　　　　　　　　我が髪の皆白雪に成りぬれば、置ける霜にぞ驚かれぬる　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人和可々見能美難之羅由幾爾奈利奴禮者、於計留之毛耳所於東呂加禮奴流この料紙原本はこの一葉のみ縦の寸法が僅かに大きくなっており（縦８寸１分５厘）、第二紙以降の十九葉とは異なっている。（但し、本模写本は第一紙も第二紙以降と同じ縦の寸法にしてあり。）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ	（　）内は第六紙から跨ります。歌の読みと万葉仮名です。 ○印は不明部分です。 □は脱字と思われる部分です。
勝手に解説 ×１　　　　　　　　　　　　　　　　　　　われは　　　　　かへらじ　　　　　　　　　　　　　むばたまのこの歌２句目に『牟』の一字が余計なのだが、「和禮者」の後に「閑部良之」を書くべき処、間違えて「牟者堂萬能」の「牟」を書いた所で抜けてる事に慌てて気づき、本来の「閑部良之」を書き足し、３句目の「牟者堂萬能」を書こうとして、ばつが悪いので書出しの「牟」の字を「武」に変えたのではあるまいか。（これは小生の下衆な憶測であり読み流して頂きたい。唯かように読めば元の作者は一体どの様な人物かと、手本が面白くなるのではあるまいか。この人物、脱字も多々あり中々の慌てん坊である。勿論臨写した人ではなく、その前の原本を書写した名高い能書、或は詠者か撰者であるのだが、相当短時間で仕上げざるを得なかったのかも。何れにせよ宮家に伝えられているという事は、この人物も相当地位の高かったお人であることが窺える。）参考；万葉集巻二ゐあか　　　　　　　　ぬばたま居明して君をば待たむ射干玉の、我が黒髪に霜は降るとも ×２　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そでぞつゆけきこの歌にも末尾に余計な文字が付いている。本来「所轉所都遊計幾」なのであるが、「計幾計幾」と『計幾』が余計なのである。イケイケどんどんで気分が高揚していたのか、将又切羽詰まって心此処に在らずであったのか。落着いた心持ちで筆を執ったものでないことが窺える。＊１「神無月我が身あらしの吹く里は、言の葉さへぞ移ろひにける」この歌によく似た歌が有るので、参考にして頂きたい。秋萩帖にはこの様によく似た歌が随所に観れる。参考；古今和歌集恋五今はとてわが身時雨にふりぬれば、言の葉さへに移ろひにけり　　　　　小町参考；後撰和歌集冬あきはててわが身時雨にふりぬれば、言の葉さへにうつろひにけり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【戻る第五紙文字】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ

拡大図　　　　　第三紙　秋萩帖（秋萩歌巻）　　　　　　　　　　　ベージュ色淡色（べーじゅいろたんしょく）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　縦２３．７ｃｍ × 横４３．２ｃｍ	拡大図　秋萩帖伝小野道風筆推定藤原行成筆万葉仮名
第三紙　秋萩帖　　　　よ　　　おみなえし　　　　霜の降る夜は肌寒し女郎花、我が宿かるな名にぞへてだに　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人之毛能布留餘者々當散牟之遠見難弊之、和可也東閑留奈々爾所弊天當仁　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こと　は　秋果てて霜になりにし我なれば、散る言の葉を何か恨みむ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　後撰和歌集　冬歌　　不知読人　安幾者轉々之毛爾難理爾之和禮難禮者、知流許東能者遠那仁閑有羅見武　おも　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たづ　よは物思ふと独しも我が起きつれば、海辺の鶴も夜半に鳴くなり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　母能於毛布登飛東利志毛和可於幾川禮者、雲美辺乃堂都毛餘者爾難久奈理　　　あられふ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かきくらし霰降（りつめ白玉の、敷ける宿とも人の見るがに）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　我幾久良之安羅禮不（利川面之等堂末能、之気留也登々毛悲東能見流閑耳）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ	歌の読みと万葉仮名です。（　）内は第四紙に跨ります。
拡大図　　　　　　　　第四紙　秋萩帖（秋萩歌巻）　　　　　　　　　　　　　　　亜麻色（あまいろ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　縦２３．７ｃｍ × 横４３．０ｃｍ	伝小野道風筆推定藤原行成筆万葉仮名
第四紙　秋萩帖　　　　　あられふ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（かきくらし霰降）りつめ白玉の、敷ける宿とも人の見るがに　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人（我幾久良之安羅禮不）利川面之等堂末能、之気留也登々毛悲東能見流閑耳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こ　　　　　　よ松の上に○○○○霜の寒ければ、来むやと頼む夜こそ多けれ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人萬都能有弊耳□□□□之毛能散武計禮者、許牟也東堂能無餘己所於保気禮　　　　　　　さや　　　　　よ高山の下草騒ぎ○○○夜を、今宵もやはた我が独寝む　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人堂我也萬能之當久斜々也幾□□□餘遠、許餘悲毛耶者當和可比東利禰牟　　いた　　おき　　　　　　　　　　　　　　　あ　ま　　そで風を悼み沖つ白波高からし、釣りする海人の袖（かへる見ゆ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人駕勢遠以堂見於幾川之羅奈美當閑々良之、川利春留安末能所天（閑弊留見遊）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ	（　）内は第三紙から跨ります。歌の読みと万葉仮名です。 ○印は不明部分です。 □は脱字と思われる部分です。（　）内は第五紙に跨ります。
拡大図　　　　　　　　第五紙　秋萩帖（秋萩歌巻）　　　　　　　　　　　　　　　生壁色（なまかべいろ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　縦２３．７ｃｍ × 横４３．４ｃｍ	伝小野道風筆推定藤原行成筆万葉仮名
第五紙　秋萩帖　　　　　いた　　おき　　　　　　　　　　　　　　　あ　ま　　そで（風を悼み沖つ白波高からし、釣りする海人の袖）かへる見ゆ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人（駕勢遠以堂見於幾川之羅奈美當閑々良之、川利春留安末能所天）閑弊留見遊　　　　　　 ×　　　　　　　　　　　　　　　　　　　待ち兼ねて我はむ帰らじむば玉の、我が黒髪に霜は置くとも　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　　　　　　　　　　　　×１末地閑禰轉和禮者牟閑部良之武者堂萬能、和我久呂閑見耳志毛者於久東母　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　こと　　は　　　　　　　　　＊１神無月我が身あらしの吹く里は、言の葉さへぞ移ろひにける　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人可見難都幾和閑見安羅之能布久散東者、古東乃者左弊所雲川呂飛耳気留　　　　　　　　　　　　やまもり時雨降るふるや深山の山守に、あらねど今朝は袖ぞ露けき　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ×　×２之久禮布留々々也美也萬能也末毛理耳、安羅年登気散者所轉所都遊計幾計幾　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ	（　）内は第四紙から跨ります。歌の読みと万葉仮名です。 ×印は余字です。
拡大図　　　　　　　　第六紙　秋萩帖（秋萩歌巻）　　　　　　　　　　　　　　　濃緑色（のうみどりいろ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　縦２３．７ｃｍ × 横４３．２ｃｍ	伝小野道風筆推定藤原行成筆万葉仮名
第六紙　秋萩帖　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　わ　　　　　　　ふ霜の上に跡踏みとむる浜千鳥、行方も無しと詫びつつぞ経る　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人志毛能宇弊耳安登不美東牟留者末地東理、遊久倍毛難之東和悲都々所布流　　　　　　　こお　　　　　　　　おと　　　　　　　　　　　天の川冬は空さへ凍ればや、石間にたぎつ音だにもせぬ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人安末能閑者布由者所羅散弊許保禮者也、以之末耳堂幾川於東堂爾母勢奴　　　　　　　　　　　うみ　　　　　　　　　　　あ　ま　　そでさざ波やいた山風の湖吹けば、釣りする海人の袖かへる見ゆ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人散々難見也以堂也末加勢能雲美布気者、川利春留安末能所天我部留見由　　　　　　　しまべ風無くばいざ島邊見に沖つ波、立（ち○しくとも空しくは来じ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　可世難久者以散之末弊美耳於起川難見、堂（知□之久東毛牟奈之久者許事）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ	歌の読みと万葉仮名です。 ○印は不明部分です。 □は脱字と思われる部分です。（　）内は第七紙に跨ります。
拡大図　　　　　　　　第七紙　秋萩帖（秋萩歌巻）　　　　　　　　　　　　　　　丁字茶色（ちょうじちゃいろ）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　縦２３．７ｃｍ × 横４３．０ｃｍ	伝小野道風筆推定藤原行成筆万葉仮名
第七紙　秋萩帖　　　　　　　　　しまべ（風無くばいざ島邊見に沖つ波、立）ち○しくとも空しくは来じ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（可世難久者以散之末弊美耳於起川難見、堂）知□之久東毛牟奈之久者許事　　　　あらし　　　　　　　今朝の嵐寒くもあるかなあしひきの、山さし曇り雪ぞ降るらし　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人計左能安羅之散牟久裳安留閑難安之悲幾乃、也萬斜之久毛利遊幾所布留良之　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　たもと　　　　　　　　　　　受けもあへず空に消えつつ降る雪を、などかたのまむ袂濡らしに　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人雲気母安弊数所羅耳起要都々布留遊幾遠、難東閑堂能末武多毛登奴良之爾　　　　　　　　　　　我が髪の皆白雪に成りぬれば、置ける霜にぞ驚かれぬる　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　不知読人和可々見能美難之羅由幾爾奈利奴禮者、於計留之毛耳所於東呂加禮奴流この料紙原本はこの一葉のみ縦の寸法が僅かに大きくなっており（縦８寸１分５厘）、第二紙以降の十九葉とは異なっている。（但し、本模写本は第一紙も第二紙以降と同じ縦の寸法にしてあり。）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ	（　）内は第六紙から跨ります。歌の読みと万葉仮名です。 ○印は不明部分です。 □は脱字と思われる部分です。
勝手に解説 ×１　　　　　　　　　　　　　　　　　　　われは　　　　　かへらじ　　　　　　　　　　　　　むばたまのこの歌２句目に『牟』の一字が余計なのだが、「和禮者」の後に「閑部良之」を書くべき処、間違えて「牟者堂萬能」の「牟」を書いた所で抜けてる事に慌てて気づき、本来の「閑部良之」を書き足し、３句目の「牟者堂萬能」を書こうとして、ばつが悪いので書出しの「牟」の字を「武」に変えたのではあるまいか。（これは小生の下衆な憶測であり読み流して頂きたい。唯かように読めば元の作者は一体どの様な人物かと、手本が面白くなるのではあるまいか。この人物、脱字も多々あり中々の慌てん坊である。勿論臨写した人ではなく、その前の原本を書写した名高い能書、或は詠者か撰者であるのだが、相当短時間で仕上げざるを得なかったのかも。何れにせよ宮家に伝えられているという事は、この人物も相当地位の高かったお人であることが窺える。）参考；万葉集巻二ゐあか　　　　　　　　ぬばたま居明して君をば待たむ射干玉の、我が黒髪に霜は降るとも ×２　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　そでぞつゆけきこの歌にも末尾に余計な文字が付いている。本来「所轉所都遊計幾」なのであるが、「計幾計幾」と『計幾』が余計なのである。イケイケどんどんで気分が高揚していたのか、将又切羽詰まって心此処に在らずであったのか。落着いた心持ちで筆を執ったものでないことが窺える。＊１「神無月我が身あらしの吹く里は、言の葉さへぞ移ろひにける」この歌によく似た歌が有るので、参考にして頂きたい。秋萩帖にはこの様によく似た歌が随所に観れる。参考；古今和歌集恋五今はとてわが身時雨にふりぬれば、言の葉さへに移ろひにけり　　　　　小町参考；後撰和歌集冬あきはててわが身時雨にふりぬれば、言の葉さへにうつろひにけり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【戻る第五紙文字】　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ